
左『愛のことはもう仕方ない』/右『かなわない』
植本一子×枡野浩一
~かなわないことって本当に仕方ないのかな対談~
男性/父親からの離婚体験の心の痛みを書きつづけ、小説『愛のことはもう仕方ない』を発売した歌人・枡野浩一さんと、女性/母親として子育ての葛藤や不倫経験を赤裸々に表現したエッセイ『かなわない』が大きな反響を呼んでいる写真家・植本一子さん。こんなふたりが結婚・離婚・不倫・セックスレス、そして新たな夫婦のカタチまで、徹底的に語り合います。
いまだに(13年前の)離婚に戸惑い続ける枡野さんに対し、「奥さんは着々と離婚へ向けて手を打っていたとしか思えませんね!」と言い切る植本さん。女は自分の夫を誇りながらも、しかし同時にほかに好きな人を作ってしまう。そして男は「なぜ自分はダメだったんだろう」と悩みつづけ、息子の父としても臆病になってしまう……。あからさまで赤裸々な対談シリーズ、いよいよ佳境で火宅な、第3回です!
(構成/藤井良樹)
「一番怖いのは熟年離婚です」(植本)
植本 私は、いまはそんな(夫婦間で)会話ないですけど、前は(夫の)石田さんにはなんでも言ってましたね。なんでも言っちゃうという延長線上で、「好きな人ができた」っていう話もしたし、「もうあなたとはできない」っていう話もできたんだと思うんですよね。
枡野 それ言われたときの石田さんは「無」なんですか?
会場 (笑)
枡野 「おれともしてよ」とか言わないんですか?
植本 言わない言わない言わない! もともとなかったし。
枡野 ラップで暗喩で「やりたい!」とか言ってたりしないの?
植本 暗喩? メタファー?
枡野 それが実は「絶対つくるぞ3人目」(前出)だったのかも。
植本 だったのかな~? でもだったらもっとわかりやすくしてほしかったし、言ってほしかったなっていうのはある。圧倒的にコミュニケーションが足りなかった。言葉もカラダも。でも、それが、私がほんとの自分になるきっかけになったと思うんですよねえ。
枡野 ふ~ん。
植本 ほんとの自分になるきっかけ……あははは(笑)。私、いま、楽です、すごく!
枡野 この本(『かなわない』)で印象的だったのは、私はECDの奥さんであることに慣れた、みたいなことが書いてある(p.46下段やp.148下段)かと思えば、ECDと切り離した植本一子として本を出したい、みたいな記述(p.133)もあるわけじゃないですか。そこは前回対談した紫原明子さんもおっしゃってて、「私は家入一真の妻じゃなくて、私という人間が受け入れられて支持される喜びを感じてしまったので、離婚をした」って。そういうのはありました? やっぱり写真家の植本一子としてやっていきたい?
植本 ありますよ! どっちもあります! ECDの奥さんといわれるのも別にいいなって思えるときもあるし、植本一子として見られたいっていう部分もありますし。
枡野 ECDさんの奥さんであることに誇りはあるんですか?
植本 誇り? う~ん。
枡野 ファンがいるわけじゃないですか、ECDさんのファンが。そのファンが「なんであんな植本一子みたいな奔放な女と! 私だったらあんな目にあわせないのに! かわいそうなECDさん!」って思う人もいると思うんですよ。そういうのはどうですか?
植本 そういう人が現れたらいいと思っていますね。石田さんが「誰かに助けてほしい」とどっかで思っているなら、そういう人に助けてもらったらいいんじゃないですか。でも離婚はしないと思います。でももし石田さんが離婚したいっていうなら考えますし……考えますよ! そうなったら、一番いい方法を探りたいなっていうところはあります。
枡野 お子さんはお父さんやお母さんにはどんな接し方なんですか? お父さんがラッパーであることは気づいてるのかな?
植本 気づいてます、気づいてます、気づいてますよ。まぁ家ではもうそんなラップしないですけど、ライブに連れてったりもしてるし。お父さんのほうが断然好きだと思います。接する時間も多いし……お父さん弱い……言いなり……子どもの言いなりです(笑)。(子どもは石田さんに)「Youtube貸して!」ですよ、そうそう「iPhone貸して!」。でも、うちは夫婦ふたりでバランスとってると思ってるんですけどね。
枡野 うちは経済力が圧倒的にむこう(元奥さん)が大きかったから、僕がひとりで自立してないんじゃないかという疑いを彼女は持っていて。僕はアパート借り(ら)れるくらいの収入はあったし、だったら「じゃあちょっとひとり暮らししてみて」っていうことになったんだと思う。でも僕は結婚当初は「ふたり合わせたらこんなに収入があるのに、なんでそんなに金のことばっかし言うんだろう?」って思ってましたよ。あと家賃を僕が負担してたときは、一軒家を借りてて家賃が高かったから、すぐ僕のお金がなくなっちゃって。それで奥さんにお金借りて払ってたんですよねえ。なんでそんなことしてたのかなぁ。洗脳されてたのかも……。
植本 洗脳? いや、奥さんは離婚に向けて着々と手を打ってたとしか思えないですね。
枡野 ………そうなのか。
植本 うちはね、ふたり合わせてもうなんとかなんですよ。だからどうしようもないというか。もちろん出てってほしい気持ちはものすごくあったりしましたけどね。だから私、『かなわない』が20万部くらい売れたら、家を買えるんですよ。印税が4000万円くらいになるから。そしてマンション買えたら、それを石田さんにあげて、私はふら~っとしようと思っています。家庭から出ていくというか、いまよりもっと自由になる感じ?
構成担当F それでも離婚はしないんですか?
植本 そのときによりますね。一番怖いのは熟年離婚? 子どもが大きくなって、もう夫婦一緒にいる意味がなくなったときに、ほんとになんか嫌なことになって別れるみたいなのはヤだなって思ってて……。もうすでに年老いてますけど石田さん。バイバイ、別れる、みたいになったら、この人、ひとりになっちゃって可哀想だなって。
構成担当F 「熟年離婚が嫌だから、離婚するなら早いほうがいい」ってことですか?
植本 なんか結婚ってもう意味の無いことのように思えてきちゃって……。石田さんほど自分を自由にさせてくれる人はいないだろうし、なにも言ってこない人はいないだろうし。なにも言ってこなかったことがしんどい時期もありましたけど、もはや楽で。
枡野 家庭のことこれだけやってくれて、何をやっても怒らないなら、これだけいい人はいないですよね。安心感もあるし。
植本 いい人ですよ。子どもを一緒に育ててるって感じですね。
枡野 でもこの『ホームシック~』の第一章のタイトルが『寿命』っていうタイトルで。植本さんがECDさんと結婚しようとしたらお母さんから、そんな寿命の短い人と結婚なんてやめなさい、とかって言われるんですよね?(『ホームシック~』p.22)
植本 そうですそうです(笑)。
枡野 すごい発言だけど、でも(結婚当時のECDの年齢。枡野の対談時の年齢でもある)47歳は(残りの)寿命短いもんね(笑)。
植本 もう今や57歳ですから。ちょっとだけ考えちゃいますね。石田さん、この人ひとりにしたら大変だろうなって。なんか責任を感じています。