父子絶縁の苦しみより、夫婦生活に耐えるほうがツラかったかも…幸せへの未練/枡野浩一×植本一子【3】

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「彼女が離婚裁判のとき『共依存』だって言ってきた」(枡野)

二村監督 前回の紫原明子さんと枡野さんの対談でいうと、紫原さんの元ダンナさんの家入一真さんが、そもそも僕の本を明子さんに勧めてくれたんだそうで。最近僕は紫原さんとばっかり仕事してて家入さんと全然遊んでないんですけど。それで(紫原さんの)『家族無計画』を読むと、家入一真っていうのは都知事選の立候補で皆さんご存知かと思うんですけど、ああいう人で。でも子どもとの距離はすごく近いというか……。あの、さっきからさ、一子さんが「南Q太さんは強い人で」って言っていて……。それで、一子さんはしばしば「Q太さんは強い人で枡野さんは弱い人だ」っておっしゃってて、ちょっとそれが気になっていて「別に強いも弱いもねーだろー!」っていう。

植本 うんうん。

二村監督 ただ、一子さんが言っていることもわかる。確かに力関係ということでいうと、僕が本(『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』[注])に書いた依存と回避の共依存関係。どう考えても南Q太さんが「回避性人格」、枡野さんが「依存性人格」になっているから。それは言い方を換えると「恋されてるほう」と「恋してるほう」で、恋をされたほうは必ず逃げる。どんなにうまくいってるように見える関係でも、恋である以上、恋されたほうは何らかの意味で、必ず逃げている。逃げられたほうは執着する。そういう傾向があると僕は思っているんです。一方的な片思い以外の、すべての恋は共依存であって、共依存じゃなくなった時に恋は愛になる。それだけの話であって、たとえば、紫原・家入元夫婦を見ていると、どっちも強い人だ。ただ紫原さんは「私は本を書いて“紫原明子”になれて、それで強くなれた」って言ってて。確かに家入一真さんが、自分で稼いでいたお金とはいえキャバクラで一晩で何百万円も使っていたら、そのとき籍が入っていた奥さんは旦那さんに「怒り」という依存モードになるだろうなと思うけど。でも家入元夫婦のお子さんは両親両方のことを好きらしいんだよね。エッセイに、とてもポジティブに書いていて。家入一真も『絶望手帳』とか出してるけど根はポジティブな人だから。だから(家入元夫婦なら離婚したあとで)子どもを父親に会わせないというのはあり得なくて。それで一子さんは、もしも別れてもECDさんのことは好きですよね? 好きっていうか、さっきから聞いていて、さらに本でもそうだけど、(一子さんはECDさんと)セックスはしなくなった、セックスの相手ではない、恋の相手ではなくなっただけで、あんなにいい人はいないと――。

<枡野注:二村ヒトシさんは対談終了後の「質疑応答」にて、「枡野さんと南Q太さんの関係を依存と回避と決めつけたのは失礼だったかもしれない」と発言されましたが、私自身はそうであった可能性を疑うことも大切だと感じていますので、発言をそのまま残させていただきました>

植本 そうです。尊敬しています。尊敬……しています(笑)。

枡野 それがないんじゃないですか、むこう(元奥さん)は。それで、強いか弱いかでいったら、町山智浩さんは「枡野は強いくせに弱いふりをしてるのがずるいんだ」っておっしゃったんです。で、自分は強いか弱いかの自分のイメージでいうとですね、彼女が「なんでも枡野くんは自分の思うようにしていてずるい」って言ったことがあるんですよ。

植本 へえ~~。

枡野 結局、なんでもかんでも望みを叶えてるって、むこうには見えてたらしくって。でもそういわれれば確かに僕は望みは少ないんだけど、少ない望みはかなえてきてるんですね。(かなわない望みは)子どもに会えないのが初めてくらいかもしんない。望みがかなわないことって、あんまり望まないんですよ、元々。

植本 なるほど。

枡野 それで、『かなわない』読んで初めて思い出したことがあって、彼女が離婚裁判のときに弁護士を通じて、「私は共依存だ」って言ってきたのね。

植本 おおっ!

枡野 でも僕は、それはちっともあてはまっていない気がして、「あなたはそうかもしれないけど僕には関係ないから」って気持ちだった。だから僕は自分の本に「共依存」という言葉を一度も書いたことがないと思うんだけど、これ(『かなわない』)読むと、(植本さんに対してカウンセリングをしてくれていた)ある漫画家さんが「あなたは共依存ですよ」と言っていて。(それから植本さんは)だんだんと自分の気持ちを見つめはじめるじゃないですか。

植本 うんうん。

枡野 だから僕ももうちょっとつきあえばよかったと思ってますね。むこうが共依存って言ってきたときに「悪いけど僕は全く(共依存とは)関係ない」って(言わずに)。

構成担当F 奥さんと共依存関係になればよかった?

枡野 だから、共依存である可能性なんて想像もできなかった、僕には。

構成担当F 依存しあってないと思っていた?

枡野 そう!

植本 へえ~。

構成担当F 依存してほしいとも思わなかった?

枡野 もうちょっと僕は淡泊というか……。子どもを作ったら結婚してくれるかなって気持ちはあったけど。でも、あなたがいようがいまいが、自分は自分で満ちたりてると思ってたの。だから変な話ですけど僕、すごく満ちたりてるんですよ。この本(『愛のことはもう仕方ない』)でも、みんなが枡野を不幸せだと思ってくれるんですけど、わりと僕は自分のこと幸せだと思ってるんですね。

植本 ひとりでも幸せ?

枡野 うん。貧乏だけど、貧乏だって好きでやってるし。じゃあ頑張れば稼げるのかっていえば稼げないんだけど。でも嫌なことは一切してないから。だから自分は嫌なこと一切しないことによって家庭は失って、子どもに会えないのもツラいんだけど、もしかしたら耐えられる「側」がそっちだったんじゃないかといまは思っているんです。

植本 耐えられる側?

枡野 子どもに会えない苦しみのほうがまだ耐えられて、日々の暮らしのなかで奥さんが勝手なこと言っても我慢するとか、そういう生活を保つことのほうがよっぽと自分にはツラかったかのかもしれない。

植本 うわあ~~! そうなんだ!

枡野 なぜかっていうと、もし離婚しなかったら自分が逃げてたんじゃないかっていうくらい、ツラいことも多かったんです、結婚中。収入のことでいつも怒られてたり、(売れっ子漫画家である元奥さんへの)コンプレックスもあって。むこうは、僕が好きな漫画に対して「こんな漫画が好きなんてありえない!」って、ずーーっと怒ってるんですよ。そこは初めてこの本で書いたんだけど。いま思えばなんでそんなことで怒られなきゃなんないんだろうと。彼女が嫌いな漫画家はねえ、花くまゆうさくさん[注]の絵が嫌いらしいんだけど……。

植本 あ、そうなんだ(笑)。

枡野 僕は大好きなんだけど。好きなものは好きと言うことのなにが悪いんですか? なんか歌の歌詞みたいになっちゃったけど。

植本 くくくく(笑)。

枡野 だからなんか、コントロールしようというところがあって。(逆に)僕は彼女のことをコントロールしようとはしてなかった。コントロールはどうですが? 夫婦でしあいます?

植本 ないですないです! 一切ないです!

枡野 ECDさんも「無」なんですもんね。

植本 私、(自分が)枡野さんだったらキツいと思います、それ。

[第3回の注釈]

■『結婚失格』
枡野浩一の著作。講談社文庫・刊。「書評小説」という形式をとりながら、著者の離婚体験を赤裸々に描いている。文庫版の解説は映画評論家・町山智浩。

■『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』
AV監督・作家の二村ヒトシの著作。文庫ぎんが堂・刊。現代女性が恋愛やセックスにおいて抱える諸問題を鋭く記し、ロングセラーとなっている。

■花くまゆうさく
漫画家。1967年生まれ。代表作に『労働2号』、『東京ゾンビ』、『野良人リサイクル』など。『東京ゾンビ』は浅野忠信・哀川翔の出演で映画化もされている。

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