構成担当F 僕は逆の意見というか。確かに文章の量としては子育ての大変さ、子どもが嫌いになって大きな声を出してしまったとかが多く書いてあるんですけど、その反面、ぽつぽつと出てくる場面、上の娘さんと植本さんがふたりで家に帰る道で、いつもは下の子がいるので気を遣ってる上の娘さんが甘えてくるところの描写とか、たま~に出てくるそういう場面がすごく輝いてるなって。だから僕は「可愛い場面少ないけど、そのぶん印象深いよ? そう思わない?」って言ったら、枡野さんは「う~ん」……。
枡野 だけどね! (『かなわない』の次に)この1冊目の本(『働けECD わたしの育児混沌記』)読んだら、まず写真もいっぱいあるし、この88ページの写真とかあまりに可愛くて笑ってしまったんですけど……それで(2冊を)続けて読むと全然印象変るなっていうか。『かなわない』はあえて子どもへの厳しい気持ちを書こうと思って書いたんですか?
植本 厳しい気持ち……。いやぁ……『かなわない』は(『働けECD~』と)地続きですけど、どっちっかつったら、自分と向き合った話です、これは。うん。
枡野 こっち(『働けECD』)は家計の会計のことも全部書いてるし、わりと読者を意識してるということなんですか?
植本 そうです。まだ育児の大変さとか、そっちのほうのを意識してる作りになってるんだと思います。
枡野 あとECDさんのファンの人が読むときの意識とか?
植本 うーーん。
二村監督 あのですね、『働けECD~』と『かなわない』がどう違うかというと、そっち(『働けECD~』)の編集者と別れ話(続篇刊行の話を断った)をしたということが書かれてあって……。
枡野 そうそう。僕、先にこっち(『かなわない』)読んで、そこに1冊目の編集者と会って(話をする場面で)、「私、2冊目はこの出版社から出しません」と言うんですよね(p.133あたり)。そうしたら彼(編集者)は動揺していて、(それを見て)「私の素晴らしい決意を喜んでくれないのか」と動揺するんですよね、一子さんはね。
植本 うんうんうんうん。
枡野 それで「明日、上司になんて言おうか……」って編集者は悩んでるっていう。なんてひどいことするんだ(一子さんは)! って思いましたよ、僕は(笑)。
植本 本当ですか!(笑)
枡野 だけど、よく考えると僕も(2冊目を別の出版社に変えるのは)必要だと思った。自分も実は、いい作品をつくるためにそういう裏切りをしがちなタイプだと思っていて。あと、『かなわない』読んでから『働けECD~』見ると、「な~るほど! 続編にしたくない気持ちもわかる!」と思った。これ(『かなわない』)はいい本で、それこそ僕の本をつくるときにたたずまいを参考にしようと思ったんだけど。このいい本みたいにしたかったのに、このブログ本みたいな、写真いっぱい入ってて……写真いっぱいあるわりには安いと思うんですけど、1500円……でもこの本(『働けECD~』)の読まれ方はECDさんの奥さんが書いた育児本……会計のこと(家庭の家計簿)とかも出てきて、幸せそうで面白そうな家庭って読まれ方だけど、こっち(『かなわない』)はもっと違う普遍性のあるものになってると思うんですよね。だから作品(完成した『かなわない』)見ちゃうと、「ああ、あの編集者と別れてよかったな」と思っちゃうんですよ。あ、ごめんなさい。もし観客の中に編集者さんがいたらごめんなさいね(笑)。でも一子さんの素直さがすごくて、「この本を売ることで1冊目も売るからね!」(p.134あたり)とか書いてて。なんてひどいんだと!
植本 あっはははは!
枡野 だからたとえば、「私、あなたと別れるけど、私が幸せになることであなたのことも幸せにするからね」みたいな言い分じゃない? だけど作品というものでみたときに説得力がやっぱりあって、正直、別れてよかったですよね。
植本 はい!(笑)
[第4回の注釈]
■『サイゾーウーマン』の記事
「家族に強いあこがれがあった」植本一子が語る、かなわなかった理想と自分なりの家族像/サイゾーウーマン
■長嶋有
作家。芥川賞および大江健三郎賞を受賞している。代表作にともに映画化もされた『サイドカーに犬』『ジャージの二人』などがある。「ブルボン小林」名義でライターとしても活躍している。
■古泉智浩
漫画家。1969年生まれ。代表作にいずれも映画化された『青春金属バット』『ライフイズデッド』『死んだ目をした少年』などがある。『うちの子になりなよ』は自らの里親体験をつづった子育てエッセイ。その刊行の経緯は、「本と雑談ラジオ」で詳しく語られている。