構成担当F いまご自身の著作『かなわない』と『働けECD~』の違いについて枡野さんが論じられましたが、植本さんはどう思われましたか?
植本 いやぁ~、なんかすみません、うまく言えなくて。う~ん、枡野さん、なんか、難しいな。この本(『愛のことはもう仕方ない』)好きですけどね。言葉の人だなって。私、なかなか読めないんですよ、本を一冊。途中で止まっちゃうことが多くて。でもこれはサーッと読めて。面白かったです!
枡野 人に言うときに、この本のここが面白かったよって言うとしたら、どこ?
植本 え~~っ、わかんない、ただ私と似てるっていうのはわかりました、枡野さん。言いすぎちゃったり、正直すぎちゃったりとか……。え~でも、お子さんに会えたらいいですね。
枡野 そうですね。
植本 会えたら枡野さん、どうなっちゃうんだろう? なんか、シューーッって空気がぬけちゃいそう。
枡野 浦島太郎みたいに?
編集担当G それで天国に召されるんじゃないかって、私なんかは思います。
枡野 僕もそう長くないような気がしてます。
植本 へ――、じゃあこれが世に出る最後なんだ。
枡野 だったら売れてインポ御殿が建つかなぁ。
植本 もう枡野さんは(この世に)いないのに(笑)。遺産とかはどうなるんですか?
枡野 息子にいくといいんですけどね。一番ツラかった時期に「息子に遺産がいきますように」って遺書書いて『結婚失格』のデザインしてくれた人に渡したんだけど、どうなんだろう……。
「枡野さん、死ぬ前に会いに行くべきですよ」(植本)
植本 (枡野さん、息子さんに)会えばいいのに! もう(息子さんは)大人だし、会えますよ!
枡野 16歳だしね。でも僕、思春期のときに親、嫌いだったから……。
構成担当F 息子さんに嫌われるのが嫌なんですか?
枡野 嫌じゃないけど……。
構成担当F だったら息子さんに早く会いにいけばいいじゃないですか? 息子さんは将棋の奨励会員なんだから(東京)信濃町の将棋会館に行けば会えます。
枡野 そうかぁ。行けばいいのかあ……。小学生の将棋会の手伝いもしてるらしいし……。誰か小学生の子ども借りて、親のふりして行けばいいのかあ……。でもそういうこと考えるからストーカーとか思われるのかあ……。
植本 なんか、正面切って行けないんですね?
枡野 …………。
植本 もう枡野さん、死ぬ前に1回は正面から会いに行くべきですよ。そしたら、「あ、お父さん!?」ってなる可能性もあると思う。
枡野 ……でもさ、会ってね、「君のお父さんなんだ」って言って「知ってます」って言われたら?
植本 そりゃ知ってますよ!
二村監督 息子さんがネットで検索してたら知ってますよね。
構成担当F 息子さんに嫌われていいじゃないですか。嫌われても会うべきじゃないですか?
編集担当G すみません、「なぜ枡野さんは息子さんに会いに行かないのか?」問題ですけど。枡野さんは、親権を奪われたことも、裁判でDV疑惑をかけられたことも、公正証書までつくって(離婚時に)決めたことを全部破られたことにも深く傷ついていて、プレゼントを送っても児童施設に勝手に寄付されてしまったりして……。そうやって傷つけられて、その「僕が傷つけられたことをわかってほしい」ということで(離婚のことを)ずっと書き続けられてるという側面があると思うんですけど。だから(枡野さんが息子さんに嫌われる可能性を案じて)「これ以上、傷つきたくない」と思うこと自体はべつに悪いことじゃないんじゃないですか?
構成担当F 枡野さんは息子さんに会いにいくのが怖いのですか?
枡野 う――――ん。どこかで「むこうが会いにくればいいのに」と思ってるんでしょうか……。受け身なのかな……。僕、子供への裁判をやめた理由とかもいろいろあって。たとえば僕、自分のこと思いだしたときに、父親とのこと思いだしたら、ろくな思い出ないから……。自分自身が父に会いたいと思っていないのに、自分には会ってほしいと思うのは図々しいんじゃないかなと思った。(僕の)父と母が身体を悪くして倒れたことがあって、いまは回復したんだけど、もう回復したいまは(父と母が暮らしている家が東京なのにほとんど)会いにいかないから、自分は。ちなみに父はこの連載を読んでいて、毎年くれる年賀メールを今年はくれなかったんですけど。
会場 (爆笑)
枡野 でももう、誰かにわかってほしい的な気持ちは最早この時点では(なくなってきていて)……、むしろ「こんなバカで面白い僕の人生を笑ってね」的な……。
植本 う~~ん……。
枡野 お笑い芸人になったのも、そんな自分の経験を笑い話としてすれば笑ってくれる人がいるから……。そういう風に自分を持っていけばいいのかも思ったからかも。でもまあ失敗しましたけど、お笑い芸人は。でも実際に(お笑い芸人として漫才で)やってたネタも、息子に街でばったり会って、カツアゲされてしまうみたいな感じだったので……。あと自分がストーカーっぽいこともネタにしてたし、男とつきあおうとしたこともネタにしてたから……。だから自分自身としてはもう(「自分をわかってほしい」というピュアな気持ちよりは、「あなたたちもうんざりだろうけど、本人もうんざりなんですよ」という気持ちを言いたかったのかな……。
植本 …………。
二村監督 まだ怒りはありますか?
枡野 怒りはそれこそ(離婚調停時の奥さんの担当)弁護士とかにはあるし、奥さんに対しては悪く思いたくない気持ちが勝ってるけど、ただやっぱり僕、嘘はきらいだから、(奥さんが自分に対してついた)嘘の程度はあるんじゃないかなと思ってますね……。
構成担当F だからもう枡野さんは息子さんと会って、植本さんの『天然スタジオ』[注]でふたり一緒に写真を撮るのが一番いいんじゃないかと思います。
植本 あ――! 撮りましょうよ!
二村監督 植本さんは家族写真の大家だからね。
構成担当F 植本さん、撮りたくないですか?
植本 撮りたい撮りたい! 私、(息子さんに枡野さんと)一緒に会いに行ってもいいですよ! ひとりで行くのが怖いんなら一緒に行ってもいいです!
枡野 なんという力強い言葉……。そんなふうに言って欲しかったのかな、自分は。
植本 じゃあ行きましょうよ!
枡野 そうねえ……。そこは考えないようにしてたかもしれないですね……。もう(自分から息子に)会いに行くって回路はなくしてたのかもしれない。なんか知んないけど。
植本 行きましょうよ!
枡野 そうかぁ……。そんなこと、あんまし言われなかったんですよねえ。「会うな会うな」って言われ続けてたから……。町山さんにもそう言われたし。町山さん以外の人にもそう言われたし……。
構成担当F もし『天然スタジオ』で枡野さんと息子さんの撮影ができたら、どういう写真になると思いますか? 植本さんは?
植本 それはわからないです。撮ってみないと。
枡野 はい。
10/17(月)枡野浩一×利重剛「愛のことはもう仕方ない」刊行記念連続対談シリーズ【心から愛を信じていたなんて】vol.6
文禄堂高円寺店(東京都杉並区高円寺北 2-6-1 高円寺千歳ビル1F)
【出演】枡野浩一、利重剛
【開場】19:00
【開演】19:30
【料金】1,500円(1ドリンク付)
ご予約方法:Peatixにてご予約いただくか、店頭・電話03-5373-3371にてご予約を承っております。
※トーク後にサイン会を予定しております。文禄堂高円寺店にて枡野浩一さん、利重剛さんの単行本(新刊・既刊)を購入されますと、サイン会に参加いただけます。
[第5回の注釈]
■瀬戸内寂聴さん
1922年(大正11年)生まれ。小説家。天台宗の尼僧。
■『花芯』
瀬戸内寂聴さんが瀬戸内晴美時代の1956年に発表した小説。当時は「ポルノ小説だ」との批判にさらされ、「子宮作家」とレッテルを貼られた。
■安田弘之さん
漫画家。代表作に『ショムニ!』『ちひろ』『ちひろさん』など。
■『天然スタジオ』
写真家・植本一子の撮影スタジオ。「天然スタジオは下北沢にある自然光を使う小さな撮影スタジオです。季節、天気、時間、そしてその日のあなたが写る一枚。それが私の撮る写真です。記念日でも、なんでもない日でも。成長するように、年を重ねるように。大切な一瞬を残しませんか?どうぞ私にお任せください。」(植本一子)
営業時間 10:00~17:00 ●場所 155-0031東京都世田谷区北沢2-33-6グリーンテラス302
※やなか珈琲店の上です。
http://tennenstudio.tumblr.com/about
<後日談~手紙>
植本一子様へ。
公開対談させていただいた六月二十七日から、
二カ月ちょっとが経ちました。
お元気ですか。
あのあとLINEのやりとりの中で、
植本さんが私と息子をどうにか会わせようと
力強く発破をかけてくださったのに、
私のほうの腰がひけていて、
すみませんでした。
あれから、
私なりに、
色々動いてみました。
そして、
息子と会う計画は、
慎重に慎重に進めていこうと、
今は考えています。
くわしいことはまた、
ご報告できればと思います。
もしも彼と一緒に、
写真が撮れるようなことになったら、
まっさきに連絡しますね。
それまで、
お互い元気で生きていられますように。
あ、
ECDさんの『失点イン・ザ・パーク』(太田出版)、
ひりひりするほど面白かったです。
ご家族全員が、
すこやかでありますよう。
2016年9月1日
枡野浩一