『逃げるは恥だが役に立つ』人は何のために結婚するのか。契約結婚で「主婦」に就職したみくりを駆り立てるものとは

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みくりの「主婦業」の対価は年間140万円?

家事代行がきっかけとなって出会った平匡とみくりの契約結婚には、トリッキーな前提が組み込まれています。それは、代行サービスで提供される家事と主婦が行う家事を本質的に同じとみなすという前提です。

掃除をしても洗濯をしても賃金が出ないように、家庭の中で行われる家事には対価が発生していないのはみなさんご存知の通りです。愛情表現や義務としての位置付けをも持つ家事労働は経済的合理性では測れない作業であるという位置付けが一般には与えられています。それゆえに家事は経済に接続させるのが難しく、そのことが女性の社会的地位を低くしているという主張をするフェミニストも少なくありません。「家事労働に賃金を」とのスローガンで知られるイタリアの活動家マリアローザ・ダラ・コスタは1960年代末に「女性たちは工場などで労働者として搾取されているだけでなく、家事を通じてさらに搾取されている」と主張しています。

家事労働の対価を計算するのは思った以上に困難です。理由の一つとして、家事はあまりに細部に渡っているためにどこからどこまでを家事とみなして良いかの判断が難しく、「洗濯」や「子供の世話」といった個別の家事を取り出して計算することが難しいという点があります。一般には、家事労働の経済対価は生活時間調査をもとに換算されますが、買い物の計画に代表されるマネージメント的な家事を時間のみで評価しても良いのか、宅配便の受け取りや通院の付き添いなどの待機時間をどう評価するか、など時間に着目すること自体の是非について議論が尽きないのが実際です。

このように計算が難しい家事労働の対価ですが、よく使われる数値の一つを図1として示しました。1980年代から2011年は男女ともに賃金が上昇していること、男性と女性を比べると 4.9倍ほどの差があることを読み取ることができます。家事労働の対価をはかる方法は複数あるのですが、ここで用いられているRC-G法は、「お手伝いさんの賃金をベースにして家事を評価する」という方法です。みくりが家事代行の延長から契約結婚を行なったことからこの手法を選んでみました。

ただし、家事代行は現在の市場ではそれほど高い値付けが行われていません。というのも、保育士や介護福祉士といった家事に類似する労働は労働対価が低いという現状があるため、そこから類推する家事労働の値段も低く見積もられてしまう傾向があるのです。また、前述のように家事労働は労働時間による単純な計算が難しい点にも注意が必要です。

この計算でいけば、みくりが受け取る対価は年間140万円ほどとなります。このほかに、主婦であれば、年金や健康保険などが利用可能となるという利点があります……と作中では書かれていますが、夫婦にならなくとも、親の扶養に入るという選択肢もあるはずです。作中のみくり達は各種ボーナスなども検討していますが、年収140万円+主婦という地位(といっても「仮面夫婦」なので、いつ撤回されるかは確信が持てない状態という前提です)のために生活全てを変えることができるのか? と言われると少々難しいようにも思えます。作中では自分の居場所を求めて悩むみくりの様子が描かれていますが、こうした数字を合わせて考えると「経済的合理性の他にも動機があるのでは?」と考えた方が自然なようにも思えてきます。

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