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「あくせくとした女子は公害だよ」。激務の広告業界を舞台に働く女性の希望あるいは絶望を描いた『サプリ』

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 「女子力査定」、いわゆるセクハラもさらりと描かれている。深夜(時計の針は1時半)の会議室、ファンデーションが汗で気持ち悪く顔を洗いにトイレへ向かうミナミは「男はそのまま仕事してれば男らしいって言われるけどさ 女は化粧しないと女らしいって言われないからなー」「男並みに働けってんなら男も化粧しろっての」とひっそり毒づく。社内外でカリスマ的な支持を集め出世コースに乗った同僚男性・片桐は、「人間=男。女=かわいそうな動物」という思考の持ち主で、ミナミにこう言う。

「適当に仕事して5時であがって おしゃれして 花持って歩く人生」
「“適度”とか“適当”とかが許されるのが女子のメリットなんじゃんないの?」
「藤井あいつら(=5時退社の一般職女性)よりいい大学出てんだろ? 女子として楽しようと思わないの?」

 言葉を濁して立ち去ったミナミの背中に、片桐はつぶやく。

「あくせくとした女子は公害だよ」
「“ああいう中”で しのぎを削るのが女子の本分だろう? 大昔からね」
「男女雇用機会均等法なんてできちゃうから悪いんだよねえ 自己実現とかさー」
「夢見る(ルビ:かんちがい)女子が増えるだけだよねえ」

 作中、50代に足を踏み入れようとしている先輩の独身女性社員が、その片桐を「女衒」と評し、女は女衒につかまると幸せの選択を誤る、と言う。そのとおりだと思う。そして悪い意味で話題になった資生堂インテグレートのCMひとつとっても、「あくせくとした女子は公害」なる価値観の蔓延する日本の会社は、女衒が蠢くところだ。

 さて、仕事で認められたい一方で漠然と「結婚したい」気持ちも持つミナミ。学生時代から7年付き合っている彼氏のアパートに半同棲し(ミナミが一人暮らし用に借りている碑文谷の賃貸のほうがよほど豪華で住み心地が良さそうなのだが)、洗い物やゴミ出しなどの家事もしつつ、彼氏の元へもほぼ寝に帰る(行く)だけ。「俺と仕事、どっちが大事なの」と別れを突きつけられる。その後、社内恋愛を経て、仕事を通じて惹かれあったフォトグラファーと関係を結ぶ。デートらしいデートの場面は描かれない。ミナミは最後まで、付き合うどの男にも、「働いてばかりでゴメン」と侘びを入れている。

 本作後半には、恋人と同棲していたミナミの同僚女性・水原が、彼に去られたことを起因に、自殺してしまうくだりがある。水原も当然、ミナミ同様に激務。そして高収入を得ている。恋人がヘアサロンをオープンする夢を叶えられるよう、彼に700万円の出資をしていた。彼はなかなか働こうとしないが、水原がクタクタになって深夜に帰宅すれば部屋にいてくれる、いわば“安心”を提供してくれる存在だった。だが彼の失踪といくつもの嘘が発覚したことで、水原は一気に病んでいく。そして一ヵ月後、「担当していたプレゼンで連絡がとれなかったため営業の人間がマンションを訪ね 縊死している本人を発見した」。「対外的には突然死ということになっていたが」、社内では噂が広まり、好奇の対象にすらされていた。

 他方、ミナミは主人公なので死なないし、過労で倒れもしない。失恋してもなんとか立ち直る。ラストは恋人との破局後に妊娠が発覚して、仕事を続けながら出産する。最終的に恋人が海外での武者修行から帰ってきて、ハッピーエンドだ。男にすがらない女であるミナミが、幸せを手にしたように見えるのである。妊娠中や産後も、前述したような長時間労働を継続したのかどうかはわからない。「この人なら」、迷い、闘いながらも乗り越えていくのだろうと思わせる主人公だった。経済力があり、培ってきた自信も持つ。だから産む・産まない、結婚する・しないの選択権も彼女自身が持っている。その選択権を得るために、私たちは働いているのかもしれないね……というのは、最終話で田中ミズホらが語らうセリフだ。

 連載当時(03~09年)は、彼女たち登場人物を「カッコイイ」と思った。その選択権を得るために働く、確かに、と。しかし今、再読した正直な感想は、「ここまでやらなければ、その選択権が得られないのか」。それ自体が、社会問題だという認識だ。たかがマンガ、されどマンガ。リアリティの濃い作品だからこそ、私はこれをただのフィクションとして読み流せない。

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