社会

給食を食べられない子どもは「自業自得」なのか――『給食費未納』鳫咲子氏インタビュー

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「いい子」だけを助けたいという社会の本音

――聞けば聞くほど、給食は社会保障として重要な存在なんだなと思えてきました。少子化対策が切迫した問題として挙げられるわりに、現時点ですでに数少なくなっている子ども達を、一人残らず良い環境に置こうという方向になかなか議論が進まないのは歯がゆいです。

 そこにもね、支援先の選別があると思うんです。つまり、貧困家庭の子どもの中でも、素行が良くて、親もちゃんとしている「いい子」を助けるのはいいけど、そうでない子については……というのがあるのかなと。子どもの権利とか子どもの未来を守るのは、社会ではなく親だという意識が強いのだと思います。

――「良い弱者」と「悪い弱者」の選別が行われているということですね。社会の側が、「投資してもいい」と思える相手を選別しきってから投資しようと値踏みを続けている状態というか。

 自己責任っぽい人は全て暴き出してからやりましょう、ってね。でもそうしたら多分、支援対象になる人は誰も残らないだろうと思います。

少し前に、NHKの貧困特集で取材を受けた女の子が、家に趣味のグッズを置いていたためにバッシングを受けたことがありましたね。でもこれだけの消費社会の中で、存分な教育投資を受けられない人が健全な気持ちで生きていくためには、趣味活動のひとつもないととても無理ですよ。納税はしろ、それ以上のことはするなというのはもう、時代劇の中の農民扱いですよね。

――生かさず殺さず、納めるものだけは納めてもらおうと……。趣味のものを買っているだけでバッシングされるのでは、たとえば成績が悪いとか、ちょっと不良っぽいことをしているといった児童ではさらに「努力が足りない」で切り捨てられそうですよね。

 素行がひどく悪かったり、学力が極端に低かったり、落ち着きがなかったりといった、問題があると言われる子は確かにいますよね。ただそういう子の多くは、よくよく聞くと、家庭に何かしらハンディキャップがあることが多いです。たとえばご両親が日本人ではないご家庭だと、国語力でのハンディキャップが発生しやすい。でもそれが学校生活の中だと、単に国語のできない子、先生の話を理解しない子として扱われてしまう。もう少し大きくなっても、履歴書をうまく書けなくて就職がなかなかできなかったり。難しい問題です。本来、行政の支援が必要なのは、ハンディキャップがある子どもなのです。

――そういうハンディキャップを積んだまま18歳を過ぎると、今度は「もう大人が助けてやる年齢じゃない」といきなり自己責任の世界に追放されてしまう。「給食費を払えるのに払っていない」と見られる家庭の中には、そもそもそういったハンディキャップの連鎖を背負っている家庭も多いのではないかと感じます。

 子どものときはうまくSOSを発せないし、大人になってからのSOSは「自己責任論」との戦いになってしまうのが難しいところです。

SOSってそもそも、信頼関係のある相手にしか発することができませんよね。本当は、困っている人はもっと「助けて」「わからない」と言っていい。不完全ではありますが、助ける仕組みはちゃんとあります。でも、言っていいんだと思える信頼関係が、社会との間になかなか生まれない。これだけ自己責任が問われる風潮だと、「自分でなんとかしなければ」という思考から抜け出す機会と出会いにくいんです。

――学校は、そういう自助努力のメンタリティを育てる最初の場かもしれません。

 影響は大きいと思います。今の教育制度の中では、生徒はずっと、先生から採点をされながら学校生活を送ります。そしていい点を取れなければ、「努力が足りなかったね」という無言の圧力を受ける。出てきた結果は全て自己責任だ、という考え方が強いですね。

でも、はたしてそういう見方だけでいいのか。確かに皆に同じ授業は提供されるかもしれない。でも、じゃあ学習意欲の著しく低い子の家には自分の勉強部屋があるのか、机はあるのか。三食を毎日食べられているのか。日常的に日本語での円滑なコミュニケーションが行われているのか。そういった環境が、努力の仕方や結果に及ぼす影響は計り知れません。環境は関係ない、同じものを学校で与えて一定水準まで達せなかったらそれはもう規格外だ、というのではあまりにもね。

――給食費無償化は、そうした格差に対する平等な保障として、もっとも実施しやすいもののひとつですね。

 そうですね。以前、子ども食堂をやっている方にこんな話を聞きました。素行の悪かった子が、子ども食堂でしっかりとご飯を食べるようになってから、だんだん落ち着くようになっていったんですって。体調が整っていくということもあるだろうし、ご飯を食べながら人とおしゃべりしたり、関わったりということもやっぱり人の生育には重要なんだと思います。

日本の給食制度は、世界にも誇れる素晴らしいものです。この給食制度を海外にも輸出できれば、と思います。食の伝統にも、優れた部分がたくさんあります。ただその中で、給食費未納という問題がまだある。私としては、これが決して「迷惑な親」の話などではなくて子どもの社会保障の話であること、社会全体にとって優先度の高い課題なのだということを伝えていきたいです。今回の本のタイトルは『給食費未納』ですが、サブタイトルの「子どもの貧困と食生活格差」もテーマなんです。

――やみくもに「給食費未納」の家族をバッシングするのではなく、その背景にある「子どもの貧困と食生活格差」について考えて欲しいということですよね。そのことがよくわかるお話でした。ありがとうございました!
(聞き手・構成/小池みき)

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