自分の弱さに気が付かない男たちは、弱音を吐く言葉を持っていない。/杉田俊介×荒井裕樹

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勝ち負けの原理で動いてしまう男たち

荒井 人間関係の「絆=ほだし」っていうんでしょうか。例えば、僕は遠方の泊まりがけの仕事にぜんぜんいけなかったんですね。一日予定を空けようとしたら、子どもの体調をみて、妻の仕事の状況をみて、おじいちゃんおばあちゃんの予定を調べて、僕の仕事を埋める余裕が職場にあるかをみて……と8~10人くらいの予定を調整しないといけなかった。それが嫌になってそういう仕事は断るようになりました。

杉田 わかります。自分の弱さに気が付いてから、障害児を抱えたお母さんに「もっとしっかりしないとね」と暗に言っていた自分を振り返ってめちゃくちゃ恥ずかしくなりました。障害児のお母さんは、何十年も24時間ずっとそういった調整をし続ける生活を送っているわけですよね。僕はケアマネージャーとして、お母さんたちが相談しにきたときだけ全体の調整をしていただけなので。途切れないっていうのは疲れるんですよね。いつ終わるかもわからない、ずっと続く感じ。いま子どもは小学生になってだいぶ楽になりましたが、当時はこういう生活がいつまで続くんだろうと思っていました。

荒井 先が見えないですよね。ずっとこのままなんだと思ってしまう。最近だいぶ余裕が出てきて、「もっと他の人を頼っておけばよかったな」と反省してます。「自分はこんなに人を頼るのが下手なのか」って痛感しました。保育園に通うと、お母さんたちはあっという間にママ友のLINEグループ作ってますよね。目的のない会話も出来て。

杉田 うまいですねえ。男性は仕事で人間関係を作るのは慣れてるけど、なんでもない雑談とかおしゃべりが本当に苦手ですね。

荒井裕樹さん

荒井裕樹さん

荒井 僕、お酒が飲めないんです。でもお父さんたちのコミュニケーションって、「お酒を飲みに行って仕事の話をすること」なんですよね。

杉田 女子会的なものが出来ないですよね。

荒井 そうそう。僕は「8割の仕事の愚痴に2割の仕事のプライドを潜ませる」みたいな父親的コミュニケーションが駄目なんです。

杉田 僕もパパ会みたいなの2回くらいやりましたが、持続しなかったですね。

荒井 仕事を介さないネットワークを作るのが僕はすごく下手だってわかりました。定年退職してからどうするんだろうって本当に思うようになって。仕事一筋だった男性が、定年後にアルコール依存になることがあります。そういった方の話を聞いたこともありますけど、アルコール依存になっても「勝ち負けの原理」が働いてしまうんですよね。デイケアに通うモチベーションも「あいつより早くよくなってやる」だったりして。勝ち負けの価値観を介さない、ただの繋がりを作れないんです。

【第三回「男たちは死んでまで「男であること」を責められなければならないのか。「男性問題」の語りにくさと、模索される「新しい男らしさ」/杉田俊介×荒井裕樹」に続く】

(構成/カネコアキラ)

荒井裕樹(あらい・ゆうき)
2009年、東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員を経て、現在は二松学舎大学文学部専任講師。東京精神科病院協会「心のアート展」実行委員会特別委員。専門は障害者文化論。著書『障害と文学』(現代書館)、『隔離の文学』(書肆アルス)、『生きていく絵』(亜紀書房)。

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