連載

ツリマユ・たらこ唇・いじめられっ子のヒロインが幅広い女子の共感を呼んだ普遍的作品/『ご近所物語』

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 実果子の性格を反映してか物語のナレーション(語り)も、『天ない』の翠が一般的な口調だった(ex.ねえ晃)のに対して、『ご近所』の実果子は「知ったこっちゃねーけど」「情けなくって誰にも言えねーよ…」「がまんの足りねぇ男だな」と乱暴でぶっきらぼうでしかもどこか上から目線。特に物語前半は。でも、10代女子の脳内肉声を丸裸にしたような実果子の語りが、私は好きだった。良い子じゃない実果子は、とてもリアルな女の子だったのだ。

他者を尊重する自立した高校生たち

 『ご近所』の登場人物、とりわけアキンドに所属する面々(実果子、ツトム、バディ子、勇介、ジロー、リサ、ピイちゃん、新太郎、歩)は外見も内面も個性的でキャラが濃い。服装や髪型に校則のないヤザガクとあって、彼らはこぞって<自分流のおしゃれ>を楽しんでいる(ロン毛にダボついたパンツ、ナイキのスニーカーの勇介はそうでもないのかもしれないが)。現実の東京にもおしゃれにこだわりを持つ10代の若者は大勢いるが、純粋に自分の好む服や髪型を選んでいるかといえばそうでもなくて、どこかで「おしゃれな子に見られたい」「流行に敏感な子と思われたい」「あんまりやり過ぎると周りにひかれるかも」という自意識や他者の視線が介在しているように思える。けれどアキンドのメンバーたちは他者の視線からは自由で、自分の欲する服や髪型にだけ意識が向いているように見え、そこに高校生らしからぬ成熟、自律と自立の精神を感じる。実際、アキンドのメンバーは15~18歳の高校生たちだが9人中5人が親元を離れて生活している。バディ子&新太郎姉弟の実家は金持ちだけど、勇介、ジロー、リサは地方から上京してヤザガクに入学、学校の合間を縫ってバイトをこなすなど自立心が強い。そんな彼ら彼女らは考え方が成熟しているだけでなく、自分の意思を言葉や行動に移す勇気を持っている。さらに他者に対しては寛容でやさしく、高校生とは思えないぐらいに大人びている。自分の個性同様、他者の個性も尊重する。

 実果子は自分ほどしっかりしたビジョンを持たないまま、なんとなくでヤザガクに進学したツトムを「なんの目標もなくダラダラ生きてるだけじゃん」と批判したけれど、夢や目標を持って生きている高校生のほうが実は珍しい。連載当時小学生だった私はどんなファッションや髪型もOKであるヤザガクのような高校は自由度が高いように見えて羨ましかったけど、自分が選んだ専門分野についてみっちり学ぶ高校であり、中学3年生の段階で将来の道筋をまっすぐ見据えていないと、到底選べない進路だ。もし途中で自分が打ち込めなくなった時の苦痛は計り知れないし、中退したら高卒という学歴すら失ってしまう。15歳の少年少女にとって決して安易な進学先ではない。バディ子のように途中で自分を見失うケースだってある。まあそもそもバディ子もツトム同様、どうしてヤザガクに入ったのかよくわからない生徒の1人だった。金持ちの娘で、シャネルなどブランド物と自慢のボディラインを強調する洋服が好きで、だからといってそういう服を自分で作り上げたいという野心を持つわけでもない。彼女のドロップアウトは、せつないシーンだ。

 他方、幼い頃からプロのデザイナーになるという夢を確立していた実果子は2年生の秋、学園祭で競い合うファッションショーで見事グランプリに輝き、その日の夜ツトムと初セックス。エロシーンではないけれど2人がセックスしたことはわかりやすく描かれていて、読者をドキドキさせた。そしてこの一夜を境にして、実果子の心境に大きな変化が生まれる。実果子はグランプリ受賞によってロンドン留学(名門ファッションスクール)の資格を獲得したのだが、留学するかしないか思い悩むのだ。理由は1年半もツトムと離れるなんて耐えられそうにないから。1年生の冬の時点では「恋にハマるやつの気がしれないね 気持ち振り回されてしんどいだけじゃん」と意地を張ったように言っていた実果子だけど、1年もしないうちに乙女モード全開になっている。それも留学の話が出たタイミングで!

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