
左『愛のことはもう仕方ない』/右『ラジオラジオラジオ!』
歌人・作家、そしてラジオやネットTVのパーソナリティーとしても大活躍中の加藤千恵さん。今年は、性的不能なはずの夫の不倫に悩む女性の心情を描いた『アンバランス』(文藝春秋)、地方FM局のパーソナリティーを務める女子高校生の青春を綴った『ラジオラジオラジオ!』(河出書房新社)の2作品(ともに小説)を発表し、大きな話題を呼んでいます。
加藤千恵さんの才能を女子高生時代に見出し、歌集をプロデュースすることでデビューのきっかけを作ったのが、枡野浩一さんでした。付き合いの長いおふたりが、それぞれの作品性から、小説の嘘の問題、さらには男女の性についてなど縦横に語り尽くした全4回の対談です。
(尚、『三省堂書店・池袋店』さんにて開催されました。そして枡野さんはこの日のこの対談イベントの呼び込みを自ら志願されて、たった一人、小1時間、店頭や店内にて朗朗と呼び込みをされておられました)
「枡野さんってネットでもめてるイメージだけど…」(加藤)
枡野 こんばんは。歌人の枡野浩一と申します。
加藤 こんばんは。加藤千恵です。
枡野 よろしくお願いします。
加藤 よろしくお願いします。
枡野 こんなにマイクが響いていいのかなぁ。さっき僕、地声で(この対談イベントの)呼び込みしてきたんですよ。
加藤 あはは。呼び込みでいらっしゃった方もおられるんでしょうか?
枡野 1人いらっしゃって……あ、もう、いらっしゃらない? 帰っちゃったのかしら?
加藤 でもその方、本を買ってくださったって……。
枡野 そう。2冊買ってくれたよ。僕の本と、かとちえの本。
加藤 えっ、嬉しい! でもいらっしゃらないの? 帰っちゃったの?(笑)
枡野 でもね、僕、選挙する人の気持ち、わかった。
加藤 そんな簡単にわからないでしょう!(笑)
枡野 選挙ってさあ、公約言えばいいと思ってたの、詳しく。でもやってみるとわかるけど、みんな通りすがっていくから、(自分の)名前しか言えないの。
加藤 やってみるとって、選挙はやってないじゃないですか!?(笑)
枡野 「歌人の枡野浩一です」しか言えないんだよ。っていうことが(今日、呼び込みをやって)わかってよかったです。
三省堂スタッフ それぞれちょっと自己紹介をお願いいたします。
加藤 はい。加藤千恵です。枡野さんとの関係をちょっこっとだけ。はじめての方もいらっしゃるかもしれないので。
枡野 僕のほうが自己紹介、必要かもしれませんね。
加藤 そんなことないですよ、枡野さんのイベントですから、これ。
枡野 そんなことないです。
加藤 なにこれ、この無駄なやりとり!(笑) えっと、それで、私はいま小説をメインに書かせていただいているんですけど、もともとは高校生のときに短歌集を出したのがデビューで、それのプロデュースをしてくださったというか、私のまったく知らないところで枡野さんが、私の短歌を出版社に持って行ってくれて、「この子の短歌集を出しましょう」【注】という感じで営業してくれて、いきなり私のところには「短歌集出しませんか?」って連絡が来て、詐欺かと思ったっていうような……(笑)。
枡野 まぁ、信じないよねえ。
加藤 でも枡野さんがやってくださったんですよね(笑)。
枡野 そう。本屋さんで、あるレーベルの本を見て、「これいいな。このレーベルで、かとちえの本が出たらいいな」って本当に思って。
加藤 うんうん。
枡野 それでね、近所にあったの、その本の編集部が。で、ポストに手紙入れて。そしたらちゃんと形になったっていう……。いい話でしょう?
加藤 枡野さんって、けっこうほら、「ネットとかでもめたりするイメージ」って思われてたり……。
枡野 そうそう、それしかないみたい。
加藤 でも実際に会うと、いろんな方に、「意外と優しいんですね」って言われたりするじゃないですか。
枡野 みんなに言われたよね、かとちえの友だちの作家さんとか……。
加藤 そうそう。みんな、枡野さんを怖いとか思ってたみたいで。
枡野 西加奈子【注】さんにも「あれ、怖くない!?」って言われた(笑)。
会場 (笑)
加藤 すごく優しいなって、そのエピソード思い返しても思うんですが。私、もしいま、たくさん短歌を投稿してくれる子がいて、気に入ったとして、短歌でも小説でもいいけど、その人の本を出そうって思ったり動いたりしないから……。枡野さんって何なんですかね、人のためにすごい……動いてくださる。
枡野 あんまね、そういうこと、誰も思ってくれないんだけど。
加藤 あはは。
枡野 なんか僕、自分ばっかしの人なんだけど、そのわりには人のために動くんだよね。そのへんはね、使命感みたいなものなの。こうするのが世界にとって美しいみたいな覚悟で。かとちえの本が出版されるのが世界にとって美しいと思ってた。
加藤 そのイメージができるのがすごいですよね。けっこう枡野さんって本書かれるときにイメージがあるじゃないですか。これはこういう本にしたらいいとか、装丁だったり、構成だったりとか。そんなイメージは普通ないですよ。
枡野 そうなんですか? かとちえは……ないの?
加藤 私、ぜんぶ編集者さんに任せてますよ、基本。
枡野 すごいね。それも太っ腹なものがあるね。
加藤 太っ腹ですか? わかんなくないですか、デザインのこととか?
枡野 わかんないけど、でもこのイラストレーターが好き、とかはないの?
加藤 あの、少女漫画がすごく大好きなので、本の表紙を少女漫画家さんが描いてくださったったら嬉しいなとかは言いますけど……。でも全然ないですね。