連載

こうするのが世界にとって美しいみたいな覚悟/加藤千恵×枡野浩一【1】

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枡野 ほぉ~。

「ハッピーな空間に行くと死んじゃうんじゃないかなぁ…」(枡野)

加藤 今回の本、この『愛のことはもう仕方ない』の装丁は? とても素敵な装丁ですよね。

枡野 ねえ、「表紙とタイトルは最高」と言われていて。

会場 (笑)

加藤 タイトルは改題して良かったと思います! みなさん、Webで連載のときも読まれてますよね? その連載がひどいタイトルで。本当に良かったと思う、このタイトルにして!

会場 (笑)

枡野 でも今日の呼び込みのときも言ったよ。「この本はもともと『神様のくれたインポ』【注】ってタイトルでした!」って。ちょっと顔が赤らんじゃったけどね。

加藤 本人が赤らむようなタイトルだとダメだと思います、私!

枡野 でも書いてるときは本気でそのタイトルでいこうと思ってたから。おかしいよ、どっか。

加藤 「おかしいよ、どっか」(笑)。

枡野 だけど、これを人に説明するときには、「『神様がくれたインポ』という連載が『愛のことはもう仕方ない』に変わるまでの物語なんです、と。それで僕の中では小説なんですけど、加藤千恵さんは「面白いけど、小説じゃないですよね」って。

加藤 私ほんと、毎週Webで連載されていて、水曜日でしたっけ、読んでたんですけど。あの、本当に面白かったんですけど、なんで枡野さんが小説って言ってるのかがわかんなかったんですよ。なんで小説って言ってたんですか?

枡野 1行目で<この連載は小説にしたいと強く思いました>って書いてるのね。

加藤 それで小説を書くならわかるんですけど、結果……。あの、エッセイ集もいっぱい出されてるじゃないですか? それとは意識が違うんですか?

枡野 そこどうなのかな。加藤さんはどうなの?

加藤 へ? どういうこと?(笑)

枡野 あの、長嶋有さん【注】ってさ、エッセイも面白いじゃない?

加藤 うんうんうんうん。

枡野 あんなに面白いエッセイが、小説とどう違うの? って思っちゃうの。

加藤 でも長嶋さんの小説とエッセイってやっぱり違いますよね。

枡野 角田光代さんってさ、同じ旅のことを小説とエッセイにするじゃない?

加藤 そうですね。小説だとまるでひどい旅のようだけど、エッセイになると面白い旅になっている。

枡野 どう書き分けてるんだ、と思うよね。

加藤 枡野さんはでも、小説は書けるじゃないですか。書かれてもいるじゃないですか。

枡野 うん、だからね、これも小説のつもりで書いてるんだよね。パソコンに向かって、コーヒーを飲みながら、小説を書くっていう小説なのよ、メタ的な。

加藤 う~ん。『ショートソング』【注】とか『僕は運動おんち』【注】とか書かれていて、あれは小説と思うんですけど、これは小説とは思えない……。

枡野 あのね、赤瀬川原平さん【注】とか保坂和志さん【注】とか小説じゃないようなものを書く人……ああいうように見えたらいいなぁって、そういう希望で書いたの。

加藤 ふふふ。でもやっぱりなんかね、エッセイなのか小説なのかが……。

枡野 ほとんど動きがないからね。でも失敗してるのは、この本の中で一回だけ銭湯に行っちゃってるのね。全部部屋の中で済ませればいいのに……。

加藤 へえっ!?(笑)

枡野 1回だけ銭湯に行ってるところが失敗してるのよ。徹底度が足らなかったの。

加藤 映画の字幕文字で描かれた短歌集『もう頬づえをついていいですか?』[注]のときも、「愛」って言葉を全部入れてたのに、1首だけ入れ忘れてて……。

枡野 そう、1個入れ忘れてたの。愛を忘れた日があったの。だから僕、ちょっとおかしい……。最近もそうで、昨日も今日もミスだらけでさ。昨日も「ナカゴー」って劇団【注】を観にね、ほんとは町屋(東京都荒川区)にいくべきなのに、なんか気がついたら王子(東京都北区)に行ってたのね。で、王子に着いてから、「あれ? 僕の知ってる王子じゃない」と思ってたら……。

加藤 や、王子は王子ですよ(笑)。

枡野 だから、びっくりしちゃって、自分でも。

加藤 それは駅に着いたときにわかったんですか? 思ってたのと違うって?

枡野 待ち合わせてた友達が「今日の場所は町屋ですよ」ってLINEで教えてくれて。そのときパニクっちゃって。そのとき、すぐに町屋に行けばぎりっぎり間に合ったと思うんだけど、もうダメだった、心折れちゃって。

加藤 あははは。

枡野 昨日、僕、鍵を落としたの。iPhoneも落として。

加藤 よく、物を落としたりしますよね?

枡野 そう。それでアパートに入れなくなってしまって。そのことに時間がかかって、本来はもっと余裕をみて演劇に行けるはずだったのに……。それであわてて行って、ぎりぎりだったの。

加藤 あれ、でも落し物は見つかったんですか?

枡野 わりとすぐ見つかったんだけど。でも、大荷物を持ってアパートに行ったら鍵がなくて入れなくて、大荷物をアパートの前に置いて探したから、荷物を盗られてたら、もう泣いちゃうとこだったんだけど、運よく盗られなかったのね。

加藤 なんかちょっと意味がわからない(笑)。

枡野 そのときTSUTAYAで借りたDVDがあったから、それだけは盗られちゃまずいじゃない?

会場 (爆笑)

加藤 いやいやいや、それ以外もだと思いますよ! 中身わかんないけど。

枡野 一番リスクが大きい物だけ持って、あとは置いて、探し回ってやっと見つけたんだけど。なんかもう、なんでこんなにっていう、三谷幸喜の(映画の)登場人物みたいな人生……。

加藤 う~ん、なんだろ、枡野さんほんとにボ――ッとしてるから、前にそれこそ「ナカゴー」だっけ、一緒に演劇観に行く約束してて……

枡野 8年前だね!

加藤 えっ、そんな前でしたっけ?

枡野 8年前の日記に出てきた。メルマガでちょうど連載してて、8年前の日記を。ちょうど今ごろの季節だった。初めて「ナカゴー」観に行くときに、みんなに呼びかけて、「みんな、ナカゴー観に行こうよ、面白いらしいよ」って。それで僕だけ忘れてて、しかもチケットの予約もしてなくて。結局、僕、観れなかっただけでなく、みんなの予約もしてなかったから……。

会場 (笑)

枡野 すっごい迷惑だったんだよ。

加藤 それだけじゃないです。私思ってたのはもっと最近ので、枡野さんが待ち合わせ場所に現れなくて、何人かで待ってて、それで連絡したら、「1カ月後だと思ってた」……。

枡野 あったあった。でもねぇ、そんなことよくあるから、もうカウントしてないの。8年前の日記にも、<加藤千恵はとても冷静だった>って書いてあって。僕に慣れてるから。みんな騒いでたけど、かとちえだけは、「あ、枡野さんはそうだから」って態度だったと(笑)。

加藤 あ~、でも、慣れてきたのはあるかも。

枡野 だからもう、この本(『愛のことはもう仕方ない』)にも自分のミスばかり出てきて……。

加藤 そうですよね、枡野さんミスばっかりですよねえ。

枡野 もうね、毎日が戦いなのね。

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