連載

こうするのが世界にとって美しいみたいな覚悟/加藤千恵×枡野浩一【1】

【この記事のキーワード】

加藤 この本読んで改めて思ったのは、枡野さんてやっぱ、クヨクヨしてたいんだなって。

枡野 ほんとだよねえ。

加藤 ずーっとクヨクヨしてるんですよ、本当に。それで、ずーっとクヨクヨするってつらいことだけど、なんか楽しそうじゃないですか?

枡野 そうだねえ、趣味なのかもねえ。

加藤 あ、なんかそういう感じがします。趣味がクヨクヨなのかなぁって。

枡野 だからさぁ、海水魚みたいなものでさ、真水に移すと死んじゃうみたいなさ。クヨクヨが当たり前になってて、ハッピーな空間に行くと死んじゃうんじゃないかなぁ……。

加藤 死なないとは思いますけど(笑)。そう、それでね、小説っていう話だったら、実際にあったことを書いても、書いた時点で嘘になるじゃないですか。実際の気持ちとずれちゃったりとか、フィクションになる。そういう点ではノンフィクションだとは思ってないんですけど、でも実際に起きた出来事と、書いてることを変えるところがないような……。

枡野 ないない、一切ないよ。

加藤 アハハハハ。それはだから、日記じゃないですか!(笑)

枡野 そう、だから、どこまで事実そのままに書けるかの挑戦だったの。

加藤 はぁ~、実験小説ってことですか?

枡野 うん。あと気持ちも、今まで書いた物の中で、一番自分の気持ちの動きに近いの、この本は。

加藤 ふ~ん。

枡野 だから僕は、普段こんな風に物を考えてるのね。今までの物はもうちょっとうまく書けてなくて、初めて自分のクヨクヨを十全に書けたと思ってるんだけど。

加藤 あはは、結構書いてきてますよ!(笑)

枡野 それが面白いかどうかは今ひとつわからないんだよね。

加藤 いやいや、面白いよ面白いですよ!

加藤千恵

リラックスした様子の枡野さんと冷静な加藤千恵さんです

【第1回の注釈】

■「この子の短歌集――」
加藤千恵の17歳でのデビュー短歌集『ハッピーアイスクリーム』のこと。マーブルブックスにて刊行された。青春小説5編を加えたリミックスバージョンが集英社文庫『ハッピー☆アイスクリーム』として出版されている。

■西加奈子
作家。1977年生まれ。2歳までイラン・テヘラン、小学1年から5年までエジプト・カイロに暮らす。『あおい』でデビュー、『通天閣』で織田作之助賞・大賞受賞、『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞している。

■『愛のことはもう仕方ない』
枡野浩一の最新小説。サイゾー・刊。宣伝コピーは「嘘つきな男たちへ。正直者を受け入れられない女たちへ」。 帯文は「人があなたを理解してくれないなんて、当然ではないですか! ――中村うさぎ」。

■『神様がくれたインポ』
枡野浩一がmessyに連載した「小説」。毎回のコメント欄に枡野を非難する投稿が相次ぎ、一部で話題となった。連載のすべてが『愛のことはもう仕方ない』に収録された。

■長嶋有
小説家。ブルボン小林名義で漫画・ゲームの批評もおこなう。『サイドカーに犬』が第92回文學界新人賞を受賞し、小説家デビュー。同作は映画化もされた。「猛スピードで母は」で第126回芥川賞受賞。『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞受賞。枡野浩一の『結婚失格』には「真夜中のロデオボーイをふりかえる」という長嶋有の特別寄稿が収録されている。つい最近、『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞受賞。パーティーには枡野浩一も加藤千恵もかけつけた。

■『ショートソング』
枡野浩一・著の、短歌を題材にし、吉祥寺を舞台とした青春小説。集英社文庫・刊。

■『僕は運動おんち』
枡野浩一・著の、運動も勉強もできず、ゆるい自殺願望のある童貞高校生が主人公の切実でコミカルで爽やかな青春小説。

■赤瀬川原平
前衛美術家、随筆家、作家。1937年生まれ、2014年没。千円札に手を加えた芸術作品が「通貨及証券模造取締法違反」となり逮捕・起訴され、美術史上に残ると評された裁判を闘ったのち、有罪となる。純文学作家としては尾辻克彦というペンネームも持ち、『父が消えた』で第84回芥川賞を受賞している。

■保坂和志
作家。1956年生まれ。『プレーンソング』でデビュー。『この人の閾』で第113回芥川賞受賞を、『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞・平林たい子文学賞をW受賞している。

■『もう頬づえをついてもいいですか?』
枡野浩一の映画短歌集。AからZのアルファベットで始まる26本の映画について、短歌を詠み、語る。独自の視点と率直な語り口の映画コラムは、可笑しく切なく綴られ、ときに私小説にも近づく。シネマ文字ライター・渋谷展子により字幕化された短歌と、映画や短歌に想を得て写真家・八二一が切り取った風景とともに、スクリーンに映し出される一本の映画のように楽しめる一冊。

■「ナカゴー」
「劇団ナカゴー」。2004年に作・演出の鎌田順也らを中心に旗揚げされた劇団。

1 2 3

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。