加藤 でも枡野さんの訂正ってすごく律儀だなって思うのが、たとえば私が「枡野さんが『詩のボクシング』【注】で2位になって」って言ったとしたら、「違う違う、1位だよ」って言うじゃないですか。でもそれは、いい時も悪い時も訂正しますよね。ただ正しく伝えたい、みたいな……。
枡野 そうなんだよ。なんでだろうね。それはもうすごくて。そういうことを書くからウザいのかなぁ……。
加藤 でも、私はずっと“誤解”が苦手だったんですね。そう、私、『ごんぎつね』【注】っていう、みなさんも知ってる有名な物語が、私にとって誤解の最たるつらい例なんです。ほんとに嫌で、もう読めなかったんですけど。
枡野 そうだよねえ。
加藤 それで枡野さんは、『ごんぎつね』がすごい嫌だから、ラストを教科書に書き足したっていうんですね。
枡野 そう、鉛筆で。
会場 (笑)
枡野 ごんが生き返るの。
会場 (爆笑)
加藤 それすごいなって思って(笑)。私も誤解は嫌だけど、枡野さんはもっといやなんですよね?
枡野 そうだね。ほんと耐えられなかったから、鉛筆で書き足した。
加藤 でもそのわりに誤解されること、めっちゃするじゃないですか?
枡野 うんとねえ、自分では(誤解)されると思ってないの。わかってほしいと思ってやってることが、より誤解を招いてるんだよ。
加藤 でもそれこそTwitterとかネットだけ見てたら、枡野さんを怖い人だと思うのも、それも誤解だと思うんですけど……。
枡野 そうだね……。今日もさっき呼び込みやってたら話しかけてきた人がさ、「仙波龍英【注】がなぜ死んだか知ってますか?」って言ってくるの。歌人なんだけどさ、自滅的に亡くなったらしいんだけど、失礼だと思ったのね、面識もないのに知ったかぶっていうのは。それで「わかりません」って言ったら、「ケッ!」って言って去っていったの。たぶん値踏みされたのね、僕が。「仙波龍英も知らないのか」って。もちろん知ってるよ。だけど、そういうことあるように、短歌ちょっと詳しい人ほど、馬鹿にするよね、僕のこと。
加藤 フフフ。
枡野 「枡野浩一さんは歌人じゃないからぁ」とか言ってるよ、きっと。
加藤 そんな(笑)。
枡野 よく言われてると思う。言われたことあるでしょ?
加藤 言われてないと思いますよ!
枡野 「短歌が好きです」って言って「どんなのが好き?」とか聞かれて「枡野浩一」とか言うと、「あれは歌人じゃないんだよ」とかさ。
加藤 そんな「短歌が好きです」とか言わないんじゃないですかね、日常生活で(笑)。
枡野 たとえばさ、バイトの面接とかでさ……
加藤 言わないですよ! 落ちますよ! 履歴書に書いてたら(笑)。
枡野 「本とかどんなの読むの?」「短歌とか好きなんですよ」「たとえば?」「枡野浩一」「あれは歌人じゃないから」
加藤 アハハハハ! でもそうだとしたら、その面接の人、短歌めっちゃくわしくないですか?(笑)
枡野 その人は早稲田の大学院とか出てて、「斉藤斎藤」【注】なら認めてるわけ。
加藤 シチュエーションがわからない! いったい誰の話ですか、それ!?(笑)
枡野 僕の中の架空の……マスノ秘話。
「前はね、自分と違う考えの人たちのことを断罪してた」(枡野)
加藤 ふぅ。それで本の話に戻ると……。
枡野 本の話に戻るのね。
加藤 (枡野さんの小説の)『ショートソング』とかは創作なわけじゃないですか。
枡野 そうそう、だからあれは、佐々木あららくん【注】っていう僕の弟子が……。あ、ちなみにこの本(『愛のことはもう仕方ない』)で一番書けていないのは、僕、佐々木あららくんに一時期絶縁されてたというか、全く連絡つかなかったときがあって、そのことは本に出てこないの。
加藤 うん。
枡野 だから、「なんで佐々木あららって人は、こんなに枡野さんと仲良いんだろう?」って読んでて思うんだろうけど、ほんとは過去に絶縁があった上での今だから、そこは全然書けてないんだけど、ちょっと恐れがあるんだよ僕。書いちゃったら、あららくんがどう思うんだろうとか。
加藤 でも、佐々木あららさん、Twitterで拝見したのかな、この本のことを「小説だ」っておっしゃっていましたよ?
枡野 ま、彼は頭いいから……うん。
加藤 ちょ、じゃあ、「小説じゃない」って言ってる私は頭悪いみたいじゃないですか!(笑)
枡野 そうかもしんない。
加藤 は!? 「そうかもしんない」!?
会場 (爆笑)
枡野 あの……彼の中では小説と思ってくれたから。
加藤 うんうん。
枡野 で、まぁそれはいいんだけど。あれは、あららくんが企画を一緒に考えてくれたの。
加藤 『ショートソング』はね。
枡野 だから、しょうがなくああいう小説になっちゃったのね。
加藤 しょうがなく!? いやいや、いい小説ですけど(笑)。
枡野 出たときには、「トンデモ本を書いてしまった!」と思ってたのよ。だから何年も読み返せなかったの。
加藤 それはどういう気持ちですか?
枡野 まず嘘だし。
会場 (爆笑)
加藤 だって小説ですもん!(笑)
枡野 でもさ、枡野浩一の……
加藤 小説のこと、嘘だと思ってるんですか!?
枡野 だから枡野浩一って人がいない世界じゃない、あそこって。
加藤 う、うぅ~ん……。
枡野 穂村弘【注】もいないの。加藤千恵もいなくて……。
加藤 そりゃそうですよ。
枡野 でも俵万智【注】まではいるのよ。与謝野晶子【注】もいるの。
加藤 う、うん。
枡野 っていう世界にしたから、僕は嘘ばっかり書いたと思ってて。
加藤 えっ、他の方の小説だって、そう言うなら全部嘘じゃないですか。それ、どう思ってるんですか?
枡野 …………。
加藤 あ、でも、前に枡野さんの話を聞いてびっくりしたのが、デーモン閣下【注】が「吾輩は10万何歳だ!」って言うじゃないですか。それを枡野さんは「あの嘘、イヤだよね」って。
会場 (爆笑)
加藤 嘘ってとらえてないじゃないですか、みんな(笑)。
枡野 じゃあみんな、何だと思ってるの、あれ?
加藤 それは設定で……事実っていうとアレだけど……まぁ設定じゃないですか。
枡野 なんでみんな、それに付き合ってあげてるの?
会場 (爆笑)
加藤 やっぱり、あれを「嘘だ」っていう発想がわかんないんですよねえ。
枡野 でも僕が「あの嘘嫌い」って言うとさ、「じゃあデーモン小暮さんのこと嫌いなんですか?」っていうの、みんな。
加藤 え、言わないですよ、べつに……。 そもそもデーモンさんが嘘ついてるとか思わないですもん、普通は。
枡野 僕はあれを嘘だと思ってるから……。
加藤 くくくく(笑)。
枡野 別にネタで言ってるわけじゃないんだよ。
加藤 や、だからびっくりしてるんですよ(笑)。
枡野 でもさ、あれはさぁ、何万歳とか言ってもさ、そんな人がいるとはみんな思ってないからさ、わかりやすい嘘じゃない?
加藤 くくっ……だから嘘じゃないんですけど(笑)。
枡野 でもさ、それこそショーンKさん【注】じゃないけどさ、どこまでが嘘かわからない嘘があるじゃない?
加藤 詐称ですよね、あれは。
枡野 そのことの罪が重いのはショーンKさんだけど……。
加藤 デーモンさんのは罪じゃないですよ!(笑)
枡野 そうかなぁ。