加藤 じゃ、じゃあ、他の人の小説はどう読んでるんですか?
枡野 小説好きじゃないんだよ、僕。
加藤 そうなんですか。でも、それでも好きな小説家の方とかはいる……?
枡野 うん。保坂和志とか赤瀬川原平とか……
加藤 やっぱり、事実と地続きの小説が……
枡野 赤瀬川原平も嘘は書くけど、書くときは嘘だとわかるように書くのね。
加藤 ああ……。
枡野 たとえば、“自分の家の廊下が……電車に乗っていかないと廊下が渡れない”とか。
加藤 はいはいはい。
枡野 そういう嘘を書くのはけっこうオッケーで。
加藤 でも穂村弘さんが「西荻窪」のことを「花荻窪」って書いたことをめっちゃ怒ってたじゃないですか?
枡野 うん。
加藤 あれは嘘じゃないじゃないですか。わかりやすく提示しているだけじゃないですか。
枡野 いやぁ~あれは……。だって田舎の人はさぁ、「東京には花荻窪っていう素敵な町がある」って思う……
加藤 いやいやいや! だからそれだったら赤瀬川原平さんの小説を読んでも「本当に電車に乗らないと渡れない廊下がある」って思う人もいるかもしれないじゃないですか?
枡野 それはおバカさんかな。
会場 (爆笑)
枡野 まぁそれは僕の勝手なラインだから。
加藤 うん。
枡野 前はね、自分と違う考えの人たちのことを断罪してたんだけど……
加藤 断罪(笑)。
枡野 程度問題だなぁって思うようになって。
加藤 でもよく、断罪し続けるエネルギーありましたね。そういう意味では世の中はほとんど嘘っていうか……。
枡野 だからよくTwitterとかに書いてある、女子高生がマクドナルドでこんなこと喋ってて……みたいな嘘が大っ嫌い。
加藤 ああ、こんなバカなこと言ってたみたいな?
枡野 それ、絶対あなたが作ったでしょって言いたくなる! 「嘘くさいんだよッ」て!
加藤 面白いとは思わないんですね?
枡野 絶ッ対面白いとは思わないし、「嘘でしょッ!」って問い詰めたくなる。
会場 (笑)
加藤 なんか、自分は嘘をつかないとか、嘘をつかれるのが嫌だっていうのはわかるんですけど、「嘘をついてる人も許せない!」っていうのは珍しいですよね?
枡野 そんなつまらない嘘に付き合いたくないって思っちゃうの。だってつまんないじゃない、ああいうTwitterのさ、いかにも面白げなさ、こんなことがあってっていう作り話。
加藤 う~ん……。
枡野 みんな優しいよねえ。
加藤 …………。で、じゃあそのあとの『僕は運動おんち』とかはどうなんですか? 枡野さんご自身の実際のエピソードとかも入ってたとは思いますけど、でも小説自体は基本嘘じゃないですか?
枡野 そう、それがつらかったんだよねぇ。
加藤 枡野さんはつらいんですね、小説書いてるとき………。
<第3回は10/26更新予定です>
【第2回の注釈】
■『ラジオラジオラジオ!』
加藤千恵の最新作。地元ラジオ局で番組をもつ高校3年生のカナとトモ。進路決定を目前に、二人の未来への夢はすれ違い始めて…せつなさ120%の青春小説。
■『詩のボクシング』
ボクシングのリングに見立てた舞台の上で二人の朗読者が自作の詩などを朗読し、どちらの表現がより観客の心に届いたか、その表現力を競うイベント。キャッチコピーは「声と言葉のスポーツ」、「声と言葉の格闘技」。枡野浩一はNHK-BS『詩のボクシング2』で優勝している。
■『爆笑問題カーボーイ』
「爆笑問題」がパーソナリティを務めるTBSラジオの深夜番組。1997年4月に放送開始され、現在まで20年間近く続いている。番組内のコーナーを単行本化した書籍も多数刊行されている。
■『ごんぎつね』
新実南吉の児童文学。『ごん狐』とも表記する。物語の要約は以下。
≪両親のいない子ぎつねのごんは村人に悪さばかりしていた。ある日、村人の兵十の獲ったウナギを逃がす悪さをするが、その数日後に兵十の母親の葬式を見て、「あれは死にそうなおっ母に食べさせるものだったのか…」と知り、自分と同じひとりぼっちになった兵十へのいたずらを後悔する。それからごんは山から採った栗や松茸を兵十の家に毎日届けるようになる。だが兵十はそれを神様のおかげと信じていて、それを知ったごんは「つまらないな」と思うが、それでも翌日にはまた栗を届けにいく。ただその日に兵十に見つかってしまい、性懲りもなくいたずらをしに来たかと誤解され、火縄銃で撃たれしまう。しかし、ごんが置いた大量の栗を見て「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」と兵十は驚き、ごんはぐったりと目をつぶったまま、その兵十の言葉にうなずく。兵十は火縄銃をばたりと落し、銃の筒口からは青い煙が、まだ細く出ていたという――≫(青空文庫『ごん狐』新実南吉)
■仙波龍英
歌人、作家。大学生時代に歌人となるも卒業後は企業に就職するも退職し、フリーライターとなり、1985年に第一歌集『わたしは可愛い三月兎』を発表する。この歌集は漫画家・吾妻ひでおによる表紙絵で、流行語や時事的な事件、サブカル用語などが頻出しそれらに丁寧に注釈がつけてあるという斬新なものだった。その後、ティーンズ小説やホラー小説に進出するも晩年はアルコール依存症に陥り、栄養失調で闘病生活に入っていたという。2000年に死去。
■佐々木あらら
歌人。1974年生まれ。歌集に『処女のまま始発で帰れ』などがある。Web連載『短歌で歌え! 怨霊ラブメモリー』
■斉藤斎藤
歌人。1972年生まれ。歌集に『渡辺のわたし』などがある。
■穂村弘
歌人、エッセイスト。1962年生まれ。歌集に『シンジケート』、『ドライドライアイス』、『ラインマーカーズ』、短歌入門書に『短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために』(文庫解説/枡野浩一)、エッセイに『世界音痴』などがある。
■俵万智
歌人。1962年生まれ。デビュー作の歌集『サラダ記念日』が280万部のベストセラーの社会現象となり、現代日本を代表する歌人となった。他の代表的歌集に「不倫が題材ではないか」と話題になった『チョコレート革命』などがある。
■与謝野晶子
歌人。1878年生まれ、1942年没。代表作に歌集『みだれ髪』や、日露戦争の時に歌った『君死にたまふことなかれ』などがある。不倫関係であった歌人・与謝野鉄幹とは後に結婚し、12人の子どもをもうけた。
■デーモン閣下
ロックバンド『聖飢魔II』のボーカル、タレント、大相撲評論家。紀元前98038年生まれ。名称は「デーモン小暮」「デーモン小暮閣下」「デーモン閣下」と変遷している。93年に一般女性との「隠し子スキャンダル」が起きた際には、<交際相手の女性から「この悪魔!」と罵られた>と女性週刊誌が記事にしている。
■ショーンK
ラジオパーソナリティー、ニュースコメンテーター、ナレーター、タレント。1968年生まれ。ビジネスネームは「ショーン・マクアードル川上」、本名は「川上伸一郎」。フジテレビのニュース番組のメインキャスターに抜擢されるも、週刊文春に「経歴詐称疑惑」を記事にされ、大きなスキャンダルとなり、番組を自主降板し、無期限活動自粛に入った。