
左『愛のことはもう仕方ない』/右『ラジオラジオラジオ!』
加藤千恵さんの最新不倫小説『アンバランス』を題材に、夫婦における恋愛・セックス・不倫からバイアグラ問題にまで会話はふくらんでいきます。もとは「神様がくれたインポ」だった『愛のことはもう仕方ない』。うん、インポのことはもう仕方ない。男女歌人による赤裸々対談、最終回です。
「男が男であるためにバイアグラ飲んじゃうの」(枡野)
加藤 前にポプラ社かなんかのアンソロジーで、枡野さんが書かれてた作品がすごく面白かったんですけど。
枡野 ほんと?
加藤 あれとかはとても小説っぽくて。
枡野 あれはね、痴漢モノのアダルトビデオっていうか、ピンク映画を撮ることになって、その脚本を書いたの。その脚本を元に自分でノベライズしていったの。(『ジジジジ』noteにて公開中)
加藤 でもそれは「嘘」なわけじゃないですか、当然。その嘘は平気なんですか?
枡野 それはねえ、しょうがない、企画モノだと思ってるからなんだよねえ……。
加藤 あははは。
枡野 だから企画モノだと思えば我慢できるんだよ!
加藤 じゃあいつもそう思って書けばいいじゃないですか!
枡野 だからねえ、僕、他人事だと思って書けば、みんなを楽しませることができると思う。心から愛をこめて書くと、こんな本になっちゃう。
加藤 へえ~!
枡野 上っ面でね、「ほ~ら、こういうのが好きなんでしょ?」って書けば売れると思うんだよ!
加藤 どっちがいいんですかね(笑)。
枡野 でもさぁ、心をこめたいじゃない? でも心をこめちゃうとすぐ分厚くなって1700円になっちゃう(笑)。
加藤 定価がね。でも丁寧なつくりの本ですよ。ボリュームがありますよね?
枡野 そう、よく書くよね~。
加藤 ほんと思いますよ。
枡野 それで、かとちえは今どうなの?
加藤 私の本は2冊……
枡野 『アンバランス』【注】はねえ、漫画家の古泉智浩さん【注】とのネットラジオ【注】で喋ったよ。
加藤 嬉しい! ありがとうございます!
枡野 二人で意見が一致したのは、(僕らは男なので)夫側で読むから……
加藤 そう、セックスレスの夫婦の話で、奥さんの視点で書いてるんですけど。奥さんは自分の旦那さんが不能だと思ってるんですね。もう勃起しないんだって。そう思ってたらある日、夫の愛人を名乗る女が現れて、夫は一定の女性にだけ、自分とはタイプの違う女性にだけ性欲を覚えるっていうことが判明して……。
枡野 それ、どこまでがネタバレになっちゃうのかな?
加藤 いいですよ、全然話していただいて。
枡野 年をとってて醜い女性には興奮するんだよね、夫は。
加藤 あ、(醜いではなくて)太った女性ですね。
枡野 だからさあ、僕が思った結論だけ言うと……
加藤 はい。
枡野 ヒロインは太ればいいと思った!
加藤 それは全然考えなかったですね!(笑)
枡野 ほんと!? あとは特殊メイクを友達に頼んでブスにしてもらえば。
加藤 でもそうですよね、主人公はすごく美人というわけじゃないけど、でも年よりは若く見えるっていう三十代後半の女性なので。
枡野 そう、だから夫の浮気相手と同じような顔にメイクをするの。
加藤 それは考えなかったですねえ。
枡野 そうすることで幸せな家庭ができるのならいいと思った。そう書き足したくなっちゃった。
加藤 『ごんぎつね』みたいに?(笑)
枡野 そう。“私は決意した。醜くなろう。それが彼とつながる唯一の方法だ”……。
加藤 でも、この作品は完全にフィクションですもん、やっぱり。
枡野 そうなんだ。
加藤 ただ元々は人の話なんですよ。知り合いの知り合いくらいの話なんですけど。それは、旦那さんが奥さんとはセックスレスで、でも浮気をしていて、なんかバイアグラ的なものを飲んで浮気してるって聞いたんですね。
枡野 男が?
加藤 はい、男の人が。でも私、すごく意味がわかんなくて。バイアグラ飲んでまでするってなんだろうって思ったんです。飲んでまで浮気したいっていうのは。飲まなければ性欲もわかないんなら、そのままでいいわけじゃないですか?
枡野 それはねえ、いわゆる世界の男の人たちのね、愚かなところなんですよ。
加藤 フフフ。
枡野 でもだから僕はバイアグラ飲まなくなったのは……
加藤 前はちょっと飲まれてたんですよね?
枡野 そう、飲んでみたことはあるの。でも男で僕くらいの年(対談時47歳)になれば、もうみんな飲んでるよ、バイアグラ。
加藤 それって、なんでですか?
枡野 それが男のアイデンティティなの。男が男であるために……みたいな。尾崎豊の歌みたいな。
加藤 ええっ?(笑)
枡野 男が男であるためにバイアグラ飲んじゃうの。