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どうしてバイアグラを飲んでまでその行為がしたいんだろう?/加藤千恵×枡野浩一【4】

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加藤 でも、そうだとしたら、バイアグラ飲んでることはものすごく隠さなきゃいけないことじゃないかなと思うんですけど。

枡野 そう思う。

加藤 でもそうやって話にちょっと出るっていうのは、飲んでるって言う人がいるわけじゃないですか?

枡野 女性が察するんだと思うよ。佐藤真由美さん【注】の小説で“彼はきっとバイアグラ飲んでる”って書いてあったときに、僕、佐藤真由美さんに直にメールしちゃったもん。「言わないであげて!」って。

加藤 それは小説だから!(笑)

枡野 僕、もう本当に心配になっちゃって。こんな小説読んだらみんなくじけちゃうから、「お願いだから気づかないであげて!」って。

加藤 だから小説だから!(笑) でも、これ(『アンバランス』)って主人公は私じゃないわけですよ。枡野さんはこれを読んでも「かとちえ、嘘ついてる」って思うんですか?

枡野 うんとねえ……。

加藤 どういうふうに思うんですか?

枡野 むずかしいね。あの『ラジオラジオラジオ!』はいい小説なんだけど、僕だったら、僕がもし幻冬舎の社長【注】だったらね……

加藤 や、これ、河出書房社から出てるんですけど(笑)。

枡野 でも幻冬舎の社長って林真理子さん【注】とかに直木賞、獲らした人なの。林真理子さんの小説って、直木賞候補になったけど落ちちゃった小説があって、それはね、最後の一章が邪魔だっていわれたのね。でも、その最後の一章は幻冬舎の社長の見城さんが書けって言ったんだって。

加藤 へえ~。

枡野 その一章はどういう内容だったかっていうと、今は私は有名な林真理子になってしまって、昔憧れてたけど話すこともできなかったアメフトかラグビーかなんかやって有名になった元クラスメイトの男の子と食事したみたいな話を、書き足すの。

加藤 えっ、それは学生時代がメインの話なんですか? 冴えない学生のみたいな話ですか?

枡野 『葡萄が目にしみる』っていう……

加藤 あ、はいはい!

枡野 最後の一章が、有名になった私が、林真理子とは書いてないよ、かつての憧れの人と対面してうっとりする……っていうオチなの。

加藤 それは見城さんが書かせたんですか? 付けたしたんですか?

枡野 そ! そう書くべきだと。林真理子の小説はそうなんなきゃダメだと。だけど直木賞の選考委員は“ここは邪魔だ”と。“思い出話で終わればよかったのに”と言ったの。(枡野注/このエピソードは、林真理子と見城徹の共著『過剰な二人』より)

加藤 はい……。

枡野 そういう意味では、この小説も、いま加藤千恵がラジオ番組のパーソナリティになったってことを書けば、すごく本当っぽくなるじゃない?

加藤 えっ、本当っぽくしたくないんですよ!

枡野 うん、だから、そこだなぁって思ったの。僕が見城さんだったら、かとちえにね、絶対に今の朝井リョウさん【注】とのこと(=ニッポン放送『オールナイトニッポンZERO』)とか出して……

加藤 3月までラジオ一緒にやらせてもらってたんで。

枡野 それで、このとき決別してしまった女の子と再会するシーンを書けとか?

加藤 ほぉ~…。でも、それだと“本当”だと思われちゃうかもしれないじゃないですか?

枡野 それを背負えと。

加藤 でももし枡野さんが見城さんにそう言われたら、「書けないです」って言いますよね?

枡野 そこはある意味、自分のほんとの姿を大事にして小説は別物と考える意味ではさ、ある種の潔癖さがあるんじゃない?

加藤 う~ん、でも小説はやっぱりイコールじゃないですもんね? それこそ、イコールだと思われるほうが、私は嘘ついてると思っちゃうかも。イコールじゃないのに。

枡野 『ショートソング』なんてさ、主人公の男がヤリチンなのね。あれを僕だと思うんだよ、みんな。

加藤 みんなじゃないけど、思う人はいるかもしれないですよね。

枡野 インポなんだよ、僕は。

加藤 だからそれは普通思わないですよ!(笑)

枡野 ほんとぉ? でも「枡野さんってああいう男だと思ってました」って言われることがあるの、たまに。

加藤 …………。

枡野 でもあれは、主人公の男二人に僕の両方の側面を……童貞の男の子とヤリチンの男の子で書いてるし。あとヤリチンのモデルは佐々木あららと穂村弘を混ぜた人だから。

加藤 えっと、穂村さんの名誉のために言うと、穂村さんはそういう人じゃないですから(笑)。

枡野 僕の中の穂村さん。

加藤 そうそう、枡野さんの中の穂村さん(笑)。

「誤解しかないらしいんです、この世の中には」(加藤)

枡野 だからそういう意味では……これはかとちえの……それでも誤解する人はいると思うんだよ。

加藤 まぁそうですね……。だから昔ほど誤解を恐れなくなったんです。

枡野 あるときまでは恐れてたの?

加藤 これはちゃんと伝わるかどうかわかんないんですけど……、アンジャッシュっていうお笑いコンビのコントがあって、誤解で進むものが多いんですよ。一人は社員旅行の話をしているつもりで、もう一人は結婚式の話をしていて、なのに話が噛み合っちゃって、誤解が進んでいくっていう……。私、それがちょっと苦しくて観れなかったんですよ。

枡野 えっ、そうなの?

加藤 「あっ誤解だ!」って思って……。でも今は、そういうコントだと思ってるから観られますけど。

枡野 すごいね。ある意味、なにかの呪いだよね、誤解がすこぶる怖いって。

加藤 でも今は平気になったんです。なぜなら、誤解しかないらしいんです、この世の中には。みんな言うんですよ、「誤解しかない」って。

枡野 そうそう。「人があなたを理解できないのは当然なんです」。

加藤 うん、うさぎさんの帯文もたぶんそういうことで……。

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