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どうしてバイアグラを飲んでまでその行為がしたいんだろう?/加藤千恵×枡野浩一【4】

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枡野 あのさ、『ロダンのココロ』っていう漫画があって。

加藤 はい、内田かずひろさん【注】の。

枡野 そう。その漫画の、犬が見てる世界って間違いだらけなのに世界とうまく噛み合っちゃって。一見、ほのぼのとした漫画なの。あれもヤダ?

加藤 あ、そんなことないです。あれは好きですね!

枡野 ほんと?

加藤 なんだろうなぁ、ドラマとかで、それこそトレンディドラマとかで携帯電話のない時代、しょっちゅう誤解を生じさせるじゃないですか。それがけっこう観れなくなってました。

枡野 そうだねえ。

加藤 なんでみんな平気なのかな? それこそ違うよって言いたくなっちゃう気持ちがあって。でも、もう年重ねるうちに、フィクションが好きで割り切れるようになったかも。

枡野 でも人は年とるとフィクション嫌いになるらしいよ。

加藤 えっ、そうなんですか?

枡野 樹木希林さん【注】が言ってたんだけど、「もう私、年だから、作り話なんか読みたくもない」って。

加藤 でも映画に出られてて……。映画なんてフィクションなわけじゃないですか?

枡野 そうだよねえ。『海よりもまだ深く』でねえ……

加藤 是枝監督の最新作。あの映画、面白かったですよね!

枡野 カルピスをこおらせて食べたよねえ……。

加藤 そこ、そんな重要じゃないんですけど(笑)。

枡野 すっごく素敵な元妻なのねえ。

加藤 真木よう子さんがね。

枡野 あんないい元妻いないよね……。

加藤 元妻って、人種じゃないですから!(笑)

「男側が、やっぱり挿入するのが男だって思っているから」(枡野)

枡野 この対談を構成してくれるFさん、なにかありますか?

構成担当F すみません、では意見も含めてご質問をさせていただきます。まず加藤千恵さんの小説『アンバランス』を巡る話の中で出てきた、男のバイアグラ問題について。これ、すごく鋭い問題だと思いました。そもそも枡野さんの『愛のことはもう仕方ない』の連載時のタイトルが『神様がくれたインポ』なんですよ。これは、枡野さんがずっと自分の離婚話を語ったり書いたりしていたときに、「男なのにぐじぐじするな!」みたいな男性陣からの批判がすごくあって、それを枡野さんは否定していて、それへの反発の意味での『神様がくれたインポ』だったと思うんです。インポって男にとっては一番の悪口で、「このインポ!」って言われるのが男は一番嫌だから。それに対して枡野さんは敢えて、「僕はインポです。神様がくれたインポです」って宣言することで、ある種の男性性に対してアンチを唱えてたと思います。それを踏まえて、加藤千恵さんが先程言われていた、「なぜ男はバイアグラを飲むのか?」っていう問題……。

加藤 はい。

構成担当F 枡野さんが以前の対談で「夫婦は必ずセックスレスになる」と発言されています(https://wezz-y.com/archives/34872)。それで今日の『アンバランス』の夫婦の話で、旦那さんが奥さんとはセックスレスになり、醜い女性、太った女性とは不倫していると。それに対して枡野さんは「奥さんが太ったり、特殊メイクでブスになったりすればいいのに」的なことを言われましたけど、僕はそれでも絶対勃たないと思ったんですね。なぜなら旦那は奥さんとではなく、それ以外の違う女とヤリたいだけだと思ったからです。

枡野 ああ、なるほど……。

構成担当F それで、なぜおっさんがバイアグラを飲むのかというのも、「自分の嫁以外の、新しい女、若い女とセックスをして、もうひと花、男として咲かせたい!」からだと考えます。一時期、『週刊ポスト』や『週刊現代』のいわゆる「オヤジ系週刊誌」が「死ぬまでセックス」的記事を特集しまくったときに、女性サイドから「死ぬまでしたいならそれでいいけど、でもそのする相手の選択肢の中に自分の奥さんとのセックスが入ってないんじゃないの?」みたいな批判や意見がすごくあって、その指摘はすごく的を射てると思いました。

枡野 うん。

構成担当F あと、実はおっさんは、バイアグラを飲んでることをあまり隠さない、かなり平気で言います。それもやっぱり「オレはもうひと花咲かせるぜ宣言」だからじゃないのかなと。男はその宣言を実は全然悪いと思っていない。

枡野 ああ、そうなのかぁ……。

構成担当F 男のバイアグラ宣言、まさに「ウザい俺様宣言」だとはすごく思うんですが、どう思われますか?

加藤 なんでわざわざ勃たせて挿入しなきゃダメなんですかね? イチャイチャするだけじゃダメなのかなぁ……。

枡野 ちょっと荻上チキさんに聞きたいよね。

加藤 や! たぶん答えないし、聞きたくもないですよ!

構成担当F やっぱり勃たせるっていうのが、男にとって自己象徴的な行為かと思います。男の情けなくも哀しいアイデンティティというか……。

加藤 挿入行為の重みが男女で違うのかなぁ。

枡野 あのね、ゲイの世界ではね、「バニラ」って言い方があって、それは挿入行為を伴わないソフトなセックスのことをさす場合もあるのね。

加藤 へえ。

枡野 それで、僕は男性と交際しようと思ったけど、あの……センチメンタル岡田くん【注】と違って挿入できなかったの。

加藤 は?

枡野 センチメンタル岡田くんっていうのはバイセクシャルのミュージシャンで、今日も会場に来てくれているだけど……。『Seaside Suicide』っていう新曲がリリースされたばかりで……。

加藤 大丈夫なんですか、そんなこと(性指向)を言っちゃって?

枡野 奥さんもそのことを知ってるから。それで彼が偉いなと思うのはちゃんと挿入もしたからで……。や、偉いとされてるの、ゲイ界では。挿入するほうが。

加藤 それもよくわかんないんですね。ゲイでバイアグラ飲んでる方は多いんですか?

枡野 そうそう、飲んでる。イケメンのゲイ友達がいて、彼は僕と年齢が近いけどバイアグラ飲んで新しい子と出会おうとしてるし……。だからゲイの世界で僕が知ったのは、ゲイの人って男らしいってことなのね。マッチョなの。でも僕はそういう意味では、そこまでハードなことができなかったから、バイアグラは……。あとバイアグラってみなさんけっこう誤解してるけど媚薬じゃないから。血流的に性器が勃つだけだから。あんまりそれで気持ち的になんかなるわけじゃないから、すごい虚しいのね。

加藤 うんうん。なるほど。

枡野 バイアグラの虚しさについてもっと語り合いたいんだけどね、男性と。

加藤 それは……私は無理です(笑)。

構成担当F 加藤千恵さんはやっぱり、バイアグラを飲みたがる中年~初老の男の気持ちは不思議ですか?

加藤 バイアグラで亡くなられた方もいらっしゃいましたよね?

構成担当F 心臓にかなり負担かかる薬ですからね。

加藤 女の人って、ほんと人によるとは思うんですけど、挿入行為をしたいっていうよりはイチャイチャしたい、触れあいたいっていう人のほうが多いんじゃないかなと思うんですよ。

枡野 だよねえ。

加藤 だったらべつに勃たなくたっていいんじゃないかと。

枡野 でも離婚後にさぁ、僕、断食道場に行ったの。仕事で。そうしたら、夫婦でやるマッサージを教わって。足で踏んでいくのね。「これをやれば夫婦円満です」って言われたんだけど、そんなの今さら教わってもぉ~~って。ただそのときに思ったのは、確かに僕が結婚相手にマッサージしてあげてたら、たぶんね……。

加藤 関係性が変わってたかもしれないですね。

枡野 疲れてるときにマッサージしてもらったら嬉しいじゃない? そういうのは自分は欠けてたね。あと、女性がそういうのを望んでいても、男側が、やっぱり挿入するのが男だって思っているから。だから、その思い込みの激しさが二村ヒトシ監督【注】に言わせると、男の貧しさで……。もうちょっと成熟してくると、そうじゃない人も増えてくるかもしれないね。

【第4回の注釈】

■『アンバランス』
加藤千恵の最新小説。性的不能なはずの夫の不倫をきっかけに、妻である日菜子の幸福な生活は崩れていく。そしてその果てに日菜子が気づく本当の気持ちとは? 現代の愛と性と心の行方を生々しく描き出す長編小説。

■古泉智浩
漫画家、エッセイスト。1969年生まれ。代表作にいずれも映画化された『青春金属バット』『ライフイズデッド』『死んだ目をした少年』などがある。『うちの子になりなりなよ』は自らの里親体験をつづった子育てエッセイ。

■ネットラジオ
『本と雑談ラジオ』(第12回『アンバランス』『海よりも深く』)

■佐藤真由美
歌人・作家・編集者。1973年生まれ。女性誌の編集者をつとめているとき、仕事で出会った歌人・枡野浩一に影響を受け、歌集『プライベート 』(枡野浩一・監修)でデビュー。エッセイやシンガーのMISAの作詞なども手掛けるている。著作に『恋する短歌』『乙女心注入サプリ』などがある

■林真理子
小説家、エッセイスト。1954年生まれ。コピーライターをへて、エッセイ『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でデビュー。『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、『みんなの秘密』で吉川英治文学賞、『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞を受賞している。。2011年にレジオンドヌール勲章シュヴァリエに叙された。見城徹との共著に『過剰な二人』がある。

■幻冬舎の社長
見城徹。編集者、作家。1950年生まれ。編集者として出版社社長として多くの作家たちに直木賞を受賞させ、またベストセラーを連発させている。自身の著書に『編集者という病い』『異端者の快楽』などがある。

■朝井リョウ
作家。1989年生まれ。『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。『何者』で、平成生まれの作家として初めての直木賞を受賞。男性作家としては史上最年少の受賞でもあった。最新作は『何様』。加藤千恵とはニッポン放送『オールナイトニッポンZERO』で共同パーソナリティを務めていた。

■内田かずひろ
漫画家。作品に『ロダンのココロ』『シロと歩けば』などがある。

■樹木希林
女優。1943年生まれ。21歳のときに個性派俳優の岸田森と結婚するも25歳で離婚。30歳でロックンローラー内田裕也と再婚。1981年、夫の内田裕也が無断で離婚届を区役所に提出するも、樹木は離婚を認めず、離婚無効の訴訟を起こし勝訴。娘は内田也哉子。また、内田也哉子と結婚した本木雅弘は娘婿に当たる。複数回におよぶブルーリボン賞や日本アカデミー賞の助演女優賞を始めとして、数えきれないほどの受賞歴がある。

■荻上チキ
評論家、ラジオパーソナリティー。1981年生まれ。TBSラジオ『荻上チキのセッション22』メインパーソナリティーを務める。週刊文春に「一夫二妻生活」として不倫を記事にされた。そのこについては自身のラジオ番組で真摯に謝罪をおこなっている。著書に『ウェブ炎上』『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』などがある。

■センチメンタル岡田
ミュージシャン。「センチメンタル岡田とがんばれ根本くんバンド」リーダー。バイセクシャル体験は『サマーソング』という歌にしている。オフィシャルサイト

■二村ヒトシ監督
AV監督・作家。1964年生まれ。大学生時代に演劇集団を主宰。AV男優をへてAV監督・作家になる。AVの代表作に『美しい痴女の接吻とセックス』『女装美少年』など。著作に『あなたはなぜ「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』(文庫ぎんが堂)、『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子との共著/幻冬舎)、『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(川崎貴子との共著/講談社)などがある。

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