ジタバタする本木雅弘に、自分自身の「清さ」を問いたくなる『永い言い訳』

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(C)2016「永い言い訳」製作委員会

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映画や舞台には、その作品のことをいつまででも話していられるものと、ちょっと感想を言い合ったら他の話題にすぐ移ってしまうものがあります。今回取り上げる『永い言い訳』はまさに前者で、見終わって何日経っても、ふとこの映画のことを思い出して考えている自分がいました。今年もたくさんの映画を見てきましたが、その中でも今年一番の映画と言える『永い言い訳』。映画は映画で完結していて、その世界を受け取った上で、あとからいろんなことを考えてしまうという意味でも、余韻の残る良い作品だと思います。

ストーリーは、人気小説家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)の妻・夏子(深津絵里)がスキーに向かう途中にバス事故で亡くなるところからスタートします。一報を聞いたとき、愛人といた幸夫は妻の死を悲しむことができませんでした。ところが、ひょんなきっかけから、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の友人である大宮ゆき(堀内敬子)の夫・陽一(竹原ピストル)や、その子供たちと出会い、少しずつ変わっていくのです。

まず私が惹かれたのは、冒頭の、夏子が幸夫の髪を切っているシーンでした。このシーンだけで、幸夫が現状に何らかの不満を抱えており、妻につまらないことで当たってしまったり、他人を信頼できていない感じがじわじわと伝わってきて、「幸夫ってダメなやつだな」ということを共有できます。そんな幸夫を困ったように、しかももう諦めたように見ている夏子の表情には、二人の関係を、ものの数分でわからせる力がありました。

幸夫は、妻が亡くなっても泣けない。それなのに、妻が亡くなったという事実にはしばらく縛られたまま生きていきます。そんなときに出会ったのが、陽一くんの家族でした。

陽一くんは幸夫とは正反対で、泣きたいときには泣き、怒りたいときには怒る人物です。そんな陽一に幸夫は引き気味なのですが、なぜか陽一の息子・真平にはシンパシーを感じます。

事故で母親が亡くなり、妹の面倒を見るために中学受験を断念する真平に勉強を続けさせようと、幸夫は大宮家で妹と留守番をすることになります。そのときに幸夫は、陽一に向かって、悲しいときこそ真平くんから勉強をとりあげるのはよくないということで「やりきれないでしょ、よりどころがないと」と言いますが、これは真平のことを説明しているようでいて、自分自身に言っているようなセリフでもありました。幸夫にとっては、大宮家に行くことが「よりどころ」になるのです。幸夫と真平が同じタイプの人間であるということはこのシーン以降、随所で感じられます。

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