電車内の化粧がマナー違反というなら、エロい記事を読んでいるおじさんも批判してください。

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姑息なことに東急電鉄CMでは、こうしたメッセージを女性に出させているのです。列車内で化粧をしている女性たちに「みっともない」と言うのが中年男性だったら、「セクハラ」というような批判をされたでしょう。そこをあえて同年代の女性にさせて、セクハラ批判を避けようとしているのが見え見えです。

国外でも話題になっています。アメリカの大手新聞であるワシントンポストは「みっともない」をUglyつまり「醜い」と訳し、この広告に含有されている女性の容姿を揶揄し、ミソジニーつまり女性蔑視の意識を鋭く指摘しています。この記事では「女性を輝かせる」といいながら、すべてを手に入れようと女性が努力しようとするとバッシングされる日本社会にはびこる女性差別を強く批判しています。

このCMは東急電鉄が展開しているマナー向上キャンペーン「わたしの東急線通学日記」の一部です。主人公は地方から大学進学のため上京し、東急線沿線に住み始めた若い女性です。彼女の目線から電車のマナー違反を描くシリーズで、女性の化粧だけを取り上げているわけではありません。現在公開されているのは「歩きスマホ」篇、「車内化粧」篇、「整列乗車」篇、「荷物」篇の4つで、それぞれのテーマは日本民営鉄道協会のマナーアンケートの結果や、東急電鉄へ寄せられたユーザーの意見から選定しているそうです。

つまり、このCMは東急電鉄がどう思っているか以上に、首都圏の人たちが電車内のマナーとは何か、何がより迷惑だと感じているかを反映しているということです。彼女の視線は「彼女の」視線ではなく、東急電鉄を利用している人たちの視線なのです。

首都圏の人たちはなぜことさら女性の列車内での化粧をほかの迷惑行為以上に迷惑だと感じるのでしょうか? というか、そもそも地方から出てきて東急電鉄の東横線に乗ったら、最初に出会うマナー違反はラッシュアワーの痴漢でしょう。混んだ電車の真横でエロ本やエロ新聞を読んでいるおじさんも迷惑です。そこをすっ飛ばして、同年代の女性の空いた電車での化粧なんていう些末なことを批判するとは思えません。

では、いったい誰が若い女性の化粧を迷惑だと感じているのでしょうか。

東急電鉄利用者の年代・性別データがあればいいのですが、公開されていないようです。東急電鉄といえば渋谷駅というわけで、ここはひとつ、渋谷の来街者を見てみましょう。

東急が掲載しているデータ(ビデオリサーチSOTOデータを分析したもの)によると渋谷来街者の6割は男性です。男性では30代の利用が最も多く15.6%、次に40代が11.3%、20代が10.7%、60代が9.9%という順番になっています。一方、女性では20代の利用が22.3%と最も多く、他のあらゆる年代を大きく引き離しています。渋谷は20代の女性と30-40代の働く男性、そして高齢男性が来街者のボリュームとして拮抗している町なのです。

使用しているデータが本件に直接的に関係するものではないため、仮説の域を出ませんが、渋谷を拠点とする東急電鉄がマナー向上を狙って広告を出すなら、20代女性と中高年男性をターゲットとしたものにするはずです。中でも、ボリュームゾーンとして一番厚い20代女性に対する、それ以外の年代・性別の人たちによる批判を反映した内容とするでしょう。

こう考えると、この一連のCMは東急電鉄が「おじさん」を代弁していると考えることもできます。だから、批判の内容が歩きスマホや社内での化粧など若い人、特に若い女性をターゲットとしたものに偏っているのではないか、そんなことを思いました。

とりあえず、利用者として東急電鉄にお願いしたいのは「この女の子がラッシュアワーの電車痴漢にあって、怖くて何もできない」という、痴漢編を作ってほしいと思います。それと、酔っぱらって電車の座席を占領しているおじさんを注意したら逆切れされて殴られる、酔っぱらい編も作ってほしいです。また、隣に座っているおじさんが、スポーツ新聞のエロページをでかでかと広げて読んでいることを「気持ち悪い」と歌って踊るスポーツ新聞編も作ってほしいです。だって、「みっともない」ことが批判の対象になるなら、「気持ち悪い」ことが批判の対象になったっていいはずですよね。

参考資料
http://www.tokyu-agc.co.jp/tokyu-ooh/media/shibuya/
https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2016/10/28/japanese-train-company-tells-women-theyre-ugly-when-they-do-their-makeup-on-the-train/

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