
ナガコ再始動
世界経済フォーラムが『2016年度男女格差報告(The Global Gender Gap Report 2016)』を発表。日本は144ヵ国中111位と、前年度の101位(145カ国中)より10位も順位を落とした。主要先進国7カ国(G7)の中ではぶっちぎりの最下位である。
「すべての女性が輝く社会」を整地せんとする内閣府男女共同参画社会局は、昨年まで「本調査のランキング(2014年は104位/142カ国中、2013年度は105位/136カ国)にて、じわじわ順位を上げている」状況を女性の活躍促進政策の“成果”としてアピールしてきた。が、結局のところ下位層である事実は変わらず、さらにランクを引き下げる事態を招いたのだから大した“成果”だ。
この結果を受け、男女共同参画社会の実現を心待ちにしている当方は、率直に「自分が想像している以上に、一筋縄ではいかない」と感じた。街場のご意見を拝聴、拝読してみると、職場の待遇や就学・就業にまつわる男女格差に実際に悩まされている方々は、概ね「苦しい現実が投影された数字」「だからこそ早急な改善を」とのご意見を“当事者”として述べられている。
また、社会参画上の具体的な問題点を問題足らしめる諸悪の根源として、日本全体に根強く残る男性優位社会、男女不平等の精神性、男尊女卑思想を指摘する声も多く聞く。同時に、「いやいや、男女には格差があって当然」「女性の社会進出自体に無理がある」等、諸悪の根源説を裏付ける発言も散見された。が、ちょっと待て。
『男女格差報告』は、世界経済フォーラムが、調査対象国の『経済』『教育』『政治』『保健』の4分野について、性別による参加機会の不平等や所得等の格差のあるなしを指数化したランキングである。結果的に、日本の男女格差が世界水準より大幅に劣る事実が明るみに出たわけだが、この調査の査定ポイントや評価の実状ではなく、個々の主観による「男女平等」に対する感情論や主義主張を述べるために、本ランキングを表層的に取り沙汰している意見が多いと、個人的には感じた。
そこで、本稿では『男女格差報告』の評価ポイントの紹介を含めて、日本のどのような現状が低評価を生み出したのか、内状を紐解いてみたい。
男性優位社会と男女共同参画社会の葛藤
本年度の4分野における日本の各順位は以下。
●経済活動への参加と機会 118位
●教育 76位
●政治への参加 103位
●健康と生存率 40位
査定のソースは、国際労働機関や国連開発計画、世界保健機構等の提供するデータである。男女完全不平等を0、完全平等を1とする数値を統合し、指数を概算する。
ちなみに国連開発計画(UNDP)は、男女不平等による人間開発の可能性の損失を示す『ジェンダー不平等指数』(Gender Inequality Index)を独自に調査。『保健』『エンパワーメント』『労働市場』の3分野が査定対象となり、2014年度のランキング発表で、日本は155カ国中26位と評価された。同年の世界経済フォーラムの『男女格差報告』では142カ国中104位である。この差は何を表しているのか。
まず、UNDPの『ジェンダー不平等指数』は、長寿大国であり、妊産婦の死亡率が低い日本の医療制度(『保健』)を高く評価している。女性の活躍および自立を応援する政府の姿勢(『エンパワーメント』)も、男女雇用機会均等法等(『労働市場』)についても、「日本政府は制度を“整えて”いる」。
そもそも内閣府が男女共同参画社会基本法を定めたのは1999年。第1次、第2次男女共同参画基本計画を経て、2010年には第3次計画の取り組みにより「2020年までに指導的地位の女性割合を30%にする」との指針が閣議決定された。その他、雇用機会均等や子育て支援等、女性の活躍促進のための制度やガイドラインが刷新される中、それらを実際に運用する立場である自治体の行政、各企業の上層部は、しかし、政府の指針に迅速に適応できない。
なにしろ現場は、官僚も管理的職業従事者も圧倒的に男性が多い男性優位社会。“制度”に「常態を変えろ」と促されたところで、現場に根付いた体質や各々の“精神性”はそう簡単には順応しない。「理解に基づく対応」がなかなか浸透しない社会で、当の女性就業者や制度利用者が、せっかくの制度を有効利用する機会を逃す。当然ながら、指針の示す目標値にも到達できない。このような日本の大義名分(『ジェンダー不平等指数』の査定ポイント)と内実のギャップを、『男女格差指数』はきっちり査定に反映させ、低評価を下したわけである。