女性がキャリアアップできない国
さて。詳細を考察していこう。4分野のうち最も順位が高い『保健』は、健康と生存率を差す。寿命が長い日本人(特に女性)だが、自殺率は高く(OECD平均)、メンタルヘルス面においても、超過労働や同調圧力社会のストレス疾患に悩む者が多い現実は世界的に知られるところである。が、健康と生存にまつわる保健制度を利用する機会自体は概ね男女平等である。
他方、最低評価をくだされた分野が『経済』だ。主に雇用形態(労働力、推定勤労所得、管理職従事者、専門職・技術者)の男女比を調査し、経済活動への参加と機会の格差を指数化。雇用形態の実状については、以下、内閣府男女共同参画社会局の発表しているデータ(2014年度)をご参照いただきたい。
男性の正規雇用率に対し、女性は低い。かねてより、能力主義的観点や男性社会の構造への適応力、偏見等が女性の正規雇用機会を狭めて来た。昨年、日本総研が行った『東京圏で暮らす高学歴女性の働き方等に関するアンケート調査結果(報告)』によると、大学を卒業した高学歴女性の正規雇用は半数程度。全国の教育別に見た就業形態データは下記。男女比の差が見て取れる。
▼教育(卒業)別に見た就業者の就業形態(従業員の地位および雇用形態)
また、前出の日本総研アンケートは「新卒で正規雇用の職に就いた女性のうち、結婚・出産した女性の約8割が職を離れ、うち約6割が専業主婦へと移行」、「正規雇用として働くことと子どもを持つことはトレード・オフの関係」と説明する。出産・育児の長期休業や勤務時間の制限等が、女性の昇進や管理職登用をも妨げる一因となる。女性が“結婚・出産”と“仕事・キャリア”、どちらか一方を選択した際、もう一方を捨てざるを得ない状況など昔話だと思っていたが、まだまだ両立ままならない現状は続く。
しかし、内閣府の提唱する「女性の輝く社会」は、出産も労働も推奨している。ならば、女性の雇用機会増加、子育て支援、出産で一時離職しても復職のリスクにならない制度設計を一刻も早く実現、運用させるべきだ。実際問題として、婚姻関係にある男女の“共働き”世帯数は、現在、“雇用者である夫と専業主婦の妻”で構成される世帯数を大きく上回る。
約30年前、夫と専業主婦のカップルは1000万世帯を越え、共働き世帯はわずか600万世帯と大差が開いていた。2014年時点では、前者720万世帯、後者1077万世帯と、見事なX逆転劇を披露している。その主な原因が、女性の社会進出や自立支援の成功のみを差すようならば、本レポートの残念な結果は招かない。男女ともに低所得であり、労働力として確かに見込まれているはずの女性にとっても、肝心の労働条件が芳しくないと評価されたからこその順位である。
特に、日本は管理職の男女ギャップが著しい。要職に就く人間は圧倒的に男性であり、諸外国と比較して“女性管理職の少なさ”が突出している。以下データのグラフを見れば、いかに日本の女性管理職の人数が少ないか、一目瞭然のうちに見て取れる。
日本の女性たちは働いているのだが、賃金が低い・管理職ポジションにつけない。ゆえにジェンダー・ギャップ解消に至らない。その原因は、「女性に要職を任せられない」とする前時代的な男性社会のエッセンスも多分にあるだろうし、管理職のような責任を伴うポストに就こうと思わない女性もいるからだろう。が、結果的に女性の管理職登用数やキャリアアップの実績が圧倒的に少ない実状に変わりはない。
ちなみに、アジア勢の中ではフィリピンがダントツの勢い(『男女格差報告』では7位)。女性の社会進出を推進するフィリピンは、女性大統領輩出の実績もあれば、義務教育期間を12年に変更する(2013年)取り組み等にも定評がある。参考までに、関連記事のリンクをここにご紹介したい。
▼週刊ABROADERS 「アジアで最も男女平等」なフィリピンで、女性がのびのびと働ける理由。
▼日本企業グローバルビジネスサポートLAPITA(JTB)「【フィリピンコラム】フィリピンの女性の社会進出について。
実社会にコンタクトするための教育
『経済』の評価の中には、専門・技術者の男女比も含まれる。その点、『教育』と合わせて考えたい。
『教育』の査定基準は、主に識字率や就学率。日本人は義務教育を通じて識字や読解力、計算能力には定評がある。経済協力開発機構(OECD)が世界の15歳を対象に、3年毎に行う学習到達度調査(PISA)では、『読解力』『数学的リテラシー』『科学的リテラシー』の3分野を考慮。前回の2012年度は、65カ国中、『読解力』が4位、『数学的リテラシー』が7位、『科学的リテラシー』は4位。
学力水準は比較的高く、就学率も上昇している。また、学校教育は「教育の機会を男女平等に与える」との原則のうえに成り立つので、表立っての男女不平等は存在しないわけだが、学校や学科の選択や教員の指導等にジェンダー・ギャップが反映されることは事実である。
世界経済フォーラムは本年度の日本の結果について「教育参加などで改善が見られた」と評価する。が「専門的・技術的労働者の男女比率が著しく拡大している」と続ける。専門的・技術的労働者は圧倒的に男性が多く、女性が少ないということは、女性の就業の選択肢および間口が狭められている。学校で平等に学んだ専門知識や技術も、社会で活かす際には歴然とした男女格差が生じ、就業分野、所得、将来の可能性ともども圧縮されてしまう。つまり、学力はさておき、社会にコンタクトするための教育が現場で機能していないのだ。
この点、本サイトで女子教育についてのコラムを書かれているスペシャリスト、畠山勝太氏(NPO法人サルタック理事・国連児童基金(ユニセフ)マラウイ事務所Education Specialist)の記事をご参考願いたい。文部科学省は「女性の就学率は上昇している」と発表しているが、畠山氏は「日本の大学・大学院における女性の進学率は、先進国で最低水準」とご指摘。以下、詳細なデータと共に、日本の女子教育の遅れや所得低下について、当方の素人考えよりも実質的に役に立つ情報が盛りだくさんなので、是非、ご一読いただきたい。
最後に、『経済活動への参加と機会』と同じく評価の低い『政治への参加』だが、歴代の内閣総理大臣が全員男性、女性議員の人数や内閣入閣率等、男女に与えられた機会が極端に平等でないことは火を見るより明らかだ。国会の女性議員比率の国際比較統計によると、2016年7月の日本の順位は151である。
世界に映る日本は、男性社会国家である。しかし、小池百合子氏が東京都知事に就任し、野党の民進党代表として蓮舫氏が選出された今秋の政治展開は、来年のランキングアップに貢献するのではないかと個人的には期待する。が、議員数そのものの大幅な増加が見込めないかぎり、評価はあがらないとも考える。