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日本のトップスクールが男女不平等を拡大させているという罪

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旧帝国大学の女子学生の少なさは、世界の工科大学に匹敵する

 日本にいると想像しがたいと思いますが、他の先進国の多くでは男性に比べて女性の方が高等教育就学率が高くなっています日本の女性は先進国で最も学歴が低い? 女性と子供の貧困を生み出す日本の女子教育の中でも記述しています)。ただし女性の賃金が低いのは日本と同様で、原因の一つに工学部などのSTEM系学部における女子学生比率の低さがあることが考えられます(日本のSTEM系学部の女性比率の惨状についても前回記事で紹介しました)。

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 表3は、世界の主な工科大学における女子学生比率です(TIMESの大学ランキングより)。工科大学における女子学生比率は多少のばらつきがあるものの、おおよそ1/3程度になっています。つまり、日本の旧帝国大学における女子学生比率の少なさは、世界的に見れば工科大学と匹敵するかそれよりも少なく、10%台の東京大学に至っては世界的にみるとありえない女子学生の少なさとなっているわけです。

 「それの何が問題なのか」という疑問をお持ちの方もいるかもしれません(なお、日本の女性の学力が低いわけではありません)。続いて日本のトップスクールにおける歪な男女比によって、日本の女性たちが何を失っているのかを考察します。

トップスクールへ進学する3つのメリット

 トップスクールに進学するメリットは3つあります。

 第一のメリットは人的資本(知識や技能など身に付けている能力)の蓄積です(注1)。トップスクールの教授陣は概してそれ以外の大学と比べて研究実績を残している人が集まっているので、質の高い授業が期待できます。さらに、比較的優秀な生徒が集まっているので正のピアプレッシャー(自分より優秀な生徒に囲まれていると、自分の成績も引き上げられるという効果)を期待することもできます。他にも一般的にトップスクールはそれ以外の大学よりも教育環境が充実している場合が多く、高い学習成果を期待することが出来ます。

 第二のメリットはシグナリング効果です。日本でも就職活動の際に学校歴フィルターが存在していると言われます。これは学校歴が、その人の能力を判断する材料とされているためです。このような一定以上の大学を卒業見込みなのであればある程度の能力を持っているとアピールできる効果をシグナリング効果と言います。就職活動以外にもトップスクールを卒業すると様々な場面で、学校歴による恩恵を受けることができます。

 第三のメリットは社会関係資本(信頼関係、人間関係など)の蓄積です。トップスクールの生徒は概して社会経済的地位が高い家庭の出身ですし、自身も将来エリートになっていく者が大勢います。このため、大学内で構築される人的ネットワークが、ビジネスであれ、政治であれ、様々な分野で将来大きなメリットをもたらしてくれます。

 このように、トップスクールを卒業するメリットは大きく、かつ多岐に渡ります。日本の女性たちは、男女比の歪な日本のトップスクールのせいで、このようなメリットを享受する機会を逃してしまっていると言えるでしょう。

 国立大学は、私立大学よりもより多くの公費を受け取っています。つまり日本の公教育支出は、男女間格差を縮小するために使われるどころか、むしろ拡大させているのが現状なのです。特に、政府の公教育支出を最も受け取っている東京大学が、旧帝国大学群の中で最も男女比が歪で、かつ保護者の平均所得が日本で最も高いという事実は、教育という武器を用いて日本社会における格差や不平等と戦うという意志、ないしは知識が日本政府に致命的に欠けていることを象徴しています。この問題については字数の関係でまた別の機会に詳しく論じたいと思います。

 先日世界経済フォーラムが今年の男女平等指数のランキングを発表しましたが、日本は去年より順位を下げ111位に沈んでいます。日本がランキングの下位に沈んでいる主な要因は政治経済分野における歪な男女比率で、これは国会議員の女性比率・専門職の女性比率・管理職に占める女性比率がいずれも三ケタ順位になっていることが象徴的です。政治経済分野で特に日本の男女平等指数ランキングの順位が下位に沈んでいるのは、日本にはエリート女性が少数しかいないからです。トップスクールがエリート養成所的な意味合いを持つ以上、トップスクールに女子学生が少ないという状況がこのまま続くのであれば、日本のランキングが劇的に上昇することは期待できないでしょう。

(注1:近年の実証研究を見ると、大学の質が人的資本蓄積に影響するという結果もあれば、トップスクールには元々優秀な生徒が集まっているだけで、それ自体が生徒の人的資本蓄積に与えるインパクトは限定的である、という結果も見られています)

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