デフレ化する「LGBTフレンドリー」~電通過労死事件とエリート・ゲイ写真から考える「働きやすい職場」

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Photo by quapan from Flickr

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先日、LGBTと職場環境について考える都内のイベント「Work With Pride2016」の中で、電通が「LGBTの働きやすい職場」としてゴールド賞を表彰されたというニュースをみて、アタマを抱えた。電通といえば、20代の新入社員だった高橋まつりさんが、長時間労働とパワハラ・セクハラの末に過労自殺したことで世間をにぎわせている。電通は1991年にも入社後1年5カ月の男性社員が過労自殺した「電通事件」が起きていて、今回の事件は、過去の教訓を活かしきれなかった結果とも言われる。

高橋まつりさんの事件を知った翌日、私は、とある女子大の労働福祉の授業で、講師を務めることになっていた。テーマは「LGBTと労働福祉」。近年、若者の間ではLGBTに対する興味や関心は非常に高い。一方で、女性・男性というオーソドックスな枠組みにおける差別や抑圧についての関心は、LGBT人気に比べるとそこまで白熱していない。

教室を満員にうめつくした女子学生たちを見ながら、本当は、と私は思った。本当は、LGBTだけではなくてジェンダーの問題について、若者や女性であることについて、ここにいるみんなと一緒に考えたい。目の前にいる学生たちは、亡くなった高橋さんと同世代で、若者・女性というマイノリティ当事者たちそのものだとしか思えなかったのだ。

LGBTについて学ぶことも大切だけれど、それは、自分たち自身について振り返ることや、女性や男性について改めて考え、問い直すこととセットでなくては意味がない。これまで、LGBTの運動の中では「マイノリティにとって生きやすい社会は、みんなが生きやすい社会」という考え方が大切にされてきた。逆に言えば、今だれもが「みんなにとって働きやすい社会」を求めている中で、LGBTについてのみ表面的に扱って終わりにするなら、私が話す意味はないのだとも思った。

そんな中で起きた、電通の「LGBTの働きやすい職場」表彰は、正直いって、かなりうんざりした。念のため書いておくと、「ゴールド賞」をもらったのは電通だけではなく、全体で53の企業・企業グループ・団体だった。そして、この53という数字も、私のように日本でトランスジェンダーとして暮らしている身としては「あまりにも多すぎる」ように思った。後述するように、LGBTの中でもトランスジェンダーの人々は不安定な就労状況に置かれやすい。非正規雇用や無職の割合が高く、正社員の場合にもトイレ利用やカミングアウトの範囲など、どう周囲と折り合いをつけるかが常にテーマとなりがちだ。「働きやすい職場」として満点をあげられる職場がそんなにたくさんあれば、私たちは、今こうやって生きていない。

ここで起きている現象とは、ようするにLGBTにも働きやすい」「LGBTフレンドリー」という考え方が企業に花を持たせるためのものに値下げされている、ということなのだろう。トランスジェンダーや、日々長時間労働をしている人たちは、一体どこにいったのだろうか。「働きやすさ」はすべての人のためのものではなかったのか。

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