社会

人と関わるための洋服の力 氷山の一角「バリコレ」から広がる多様な社会

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「tokone」より

token」より、須川まきこさんデザインのニーハイソックス

わたしが手伝うきっかけになったのは、越智さんの写真集にもショーにも登場するイラストレーターの須川まきこさんとスタイリストを務める菅井葉月さんと懇意にしていたからだ。

菅井さんは、アーティストやイラストレーターに書き下ろしてもらった絵を元に、レッグウェアを作る「tokone」というブランドのディレクターを務めており、同ブランドには須川さんの絵を使ったタイツやニーハイソックスもある。切断ヴィーナスのショーや写真などのように、表舞台に出る人は義足を明かしている一方で、日常的に装具を付けていて、義足だとはわからないような当事者は少なくない。須川さんとtokoneがコラボしたニーハイソックスは、日頃は装具を付けている人にも履いてほしい、という意図で作成されている。ここには菅井さんの「服と同じように足を装うことで、おしゃれで自分を解放してほしい」という思いがある。

今回のバリコレでの切断ヴィーナスのショーでは、モデルたち(リオパラリンピックの代表として出場した大西瞳さん、秦由加子さんら6人)それぞれに対し、須川さんが衣装をデザインした。彼女はこれまでも自身のイラストで義足の少女を描いたりしていたが、今回は生身の女性が対象だったため、デザイン画にはかなり苦労したという。彼女たちひとりひとりは独立した人間で、やはり好みも出てくる。予算や時間が無制限ならともかく、ただでさえデザイン画を立体化するのは大変なうえ、プロのモデルではない人たちに似合うものを仕上げていくのは並大抵の労力ではない。着るものも愛せないと、自信を持ってステージに立つのは難しくなる。臼井さん、越智さんの声かけにはじまり、プロジェクトが広がって、菅井さんはじめ多くの人の協力があって、今回の衣装が形になった。

義足の人に限らず、じぶんの見た目にコンプレックスを抱き、服装や髪型の傾向を固めている人も少なくはないだろう。しかし、他人から薦められたものが意外と似合うということもある。じぶんはこうだと自己像を抱いても、鏡を見たり、他人の目を通さないと、じぶんのことはなかなか把握ができない。ここでも他人の存在が重要になる。

ネイル、化粧、洋服、髪型など見た目を装うことは、恋愛対象と会うときに勝負服を着たりメイクを変えたり、自己満足や気分転換のためだけではなく、仕事のためにスーツを着ることなど、身だしなみといった社会マナーという側面もある。そうして社会に出てじぶんの存在を認めてもらえると自尊心も高まるだろうし、どちらかひとつの意味では解せない。須川さんもはじめにショーに出たときは義足を見せることに抵抗があったそうだが、「この機会に保守的な気持ちを脱してみよう」と思い、皆がいっしょという心強さも手伝って、装具をはずせたという。ひとりで自信をつけるということは、ほとんど無理な話だ。

そう考えると、本人の資質にだけでなく、家族の経済状況や不理解、地域性などよって外に出られない人もいるだろう。自己責任と片付けていていいのだろうか? とおもう。10月に発売された『現代思想』の特集「相模原障害者殺傷事件」号で社会学者の上野千鶴子氏が述べたように、わたしたちは誰もが年を取ると認知能力や身体機能が低下し、ある種の「障害者」になっていく。つまり、他人事ではない。

しかし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、特に後者への関心が高まっている一方で、東京の街を見ているだけでも、車椅子や義足や視覚障害などを持つ人々にとって動きやすい環境だとは言いがたい。バリコレの際も、会場の六本木ヒルズアリーナの近くには、車椅子も入れ、オストメイトが使える多目的トイレはひとつしか見当たらなかった。

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