
『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)
賞味期限が1日過ぎたこの卵どうしよう……。冷蔵庫の前で考え込んでしまったことはありませんか。賞味期限を厳密に守りすぎるその姿勢が、家庭や企業での食品ロスにつながっていると『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書)著者である井出留美さんは指摘します。なぜ、まだ食べられる食品が大量に廃棄されてしまうのでしょうか?
賞味期限は意外とアバウト!?
――『賞味期限のウソ』は、衝撃的なタイトルですね。まず、よく聞きはするけれど、意外とわかっていない「消費期限」と「賞味期限」の違いを教えてください。
井出 「しょうひきげん」と「しょうみきげん」ひらがなで書くと、一文字しか変わらないので、わかりづらいですよね。消費期限は食べても安全な期限、賞味期限はおいしく食べられる期限です。消費期限は日持ちしない惣菜などに、賞味期限は5日以上の日持ちがするレトルト食品や缶詰などにつけられます。

出典:農林水産省
――消費期限と賞味期限はどれくらい過ぎてもよいのでしょうか。
井出 「消費期限」が表示されたものは、日付を過ぎると急激に品質が劣化します。表示された日付を守ってください。特に注意するのは生ものです。魚や肉といったタンパク質は食中毒になりやすいので、生で食べるときは注意が必要です。
「賞味期限」はかなり短めに設定されているので、物にもよりますが、1日や2日過ぎても食べることができます。たとえば、日本の卵の賞味期限は夏場に生で食べることを前提に設定されていて、パック後2週間ほどの期間で設定されています。しかし、気温が10度程度と低い冬場であれば、産卵から57日、だいたい2カ月弱は本来なら生で食べられます。仮にそれを過ぎていても、加熱調理すれば十分に食べることができます。
ほかの商品の賞味期限も2割ほど日数が少なめに設定されているケースが多いです。メーカーからしてみると、自分の手を離れた後の温度管理に責任はもてませんので、どうしても短めに設定せざるを得ないのです。ですから、賞味期限はあくまでもアバウトな目安として考えていただければと思います。賞味期限を1日過ぎてもすぐ捨てる必要はありませんし、品質も大きく変わることはありません。
――賞味期限はかなり早めに設定されているので、厳密に気にする必要はないと。
井出 中には少し寝かしたほうがいい食品もあります。たとえば缶詰は長期保存を見越して、ある程度日数が経過したほうが、味がしみて美味しくなるようにつくられているのです。
とはいえ、保存状態が悪いときもありますから、においをかぎ、目で見るなど、まずは五感で確かめてから食べることをおススメします。
――冷蔵庫できちんと保存されていて賞味期限が1日過ぎたものと、直射日光にずっと当たっていた賞味期限内のもの。たしかに、前者の方が圧倒的に安全でしょうね。
井出 賞味期限内だからといって、リスクがゼロであることはありえません。賞味期限はあくまでも目安ですので、最終的には自分で判断する必要があります。
野菜や果物、自分で料理したものであれば、においをかいだりしながら、自分で判断して食べたり飲んだりしていますよね。でも、企業が工場生産したものになると、とたんに「人任せ」になって、賞味期限を信じ込んでいる現状があると思います。
だれも得しない「食品ロス」
井出 これほどアバウトな賞味期限なのですが、消費者の中には賞味期限を1日過ぎたら捨ててしまう人も少なからずいます。これは、まだ食べられるのに廃棄されてしまう「食品ロス」につながります。
日本の食品ロスは深刻です。世界の食糧援助量が約320万トンなのに対し、日本の食品ロス量は632万トン。世界中で支援されている2倍弱もの量を日本国内だけで捨てていることになります。
――なぜこれだけの食品ロスが生まれるのでしょうか?
井出 ひとつは、「3分の1ルール」や「日付後退品」のような日本の商習慣でしょう。「3分の1」ルールは、製造日から賞味期間が切れるまでの期間を3分の1ずつ均等に分けます。最初の3分の1でメーカーはお店に納品しないといけない。これが納品期限。そして、3分の2までの期間が販売期限です。たとえ賞味期限が3分の1残っていても、売り場からなくなってしまうんです。これは、賞味期限1週間の食品も3年の食品も同様なのです。

Copyright © office311.jp All Rights Reserved
他国と比べても日本の納品期限は短く、アメリカでは2分の1、イタリア・フランス・ベルギーでは3分の2、イギリスでは4分の3となっています。納品期限の返品によるロスは821億円におよびます。
また、前日納品より1日でも賞味期限が古いと小売への納品が許されない「日付後退品」の扱いも厳しく、ペットボトルのような日持ちするものでも、賞味期限が1日でも古いものが入ってきたら、小売店は受け取りを拒否することがあります。それでトラックを動かしたりと、労力がかかってしまうのです。
さらに、食品業界には「欠品ペナルティ」という慣習もあり、食品メーカーは、自社の製品が欠品すると、小売店に対して罰金(欠品粗利補償金)を払わないといけません。最悪の場合、取引が中止になってしまうこともあります。メーカーはしかたなく「欠品するくらいなら、多めに出して余ったほうがまし」と考えます。そうやってまた食品ロスが生まれてしまうのです。
――非効率に見えますが、企業にとってロスは得なのですか?
井出 損していますね。一番深刻な被害があるのはメーカーです。売れなかったものはメーカーに返品されますが、その廃棄コストも問題です。今の加工食品はいろんな材質で包まれているものが多いです。ガム一つとってみても、プラスチックや銀紙などで幾重にも包装されています。それぞれを分けてリサイクルする義務があるので、手作業でバラバラにしているのです。
――……膨大なコストですね。
井出 このコストは、私たち消費者が負担しています。捨てる費用があらかじめ商品価格に組み込まれているのです。
同じ製品でも、スーパーよりコンビニのほうが値段は高いのは、24時間営業の人件費や光熱費もあるのですが、24時間十分な品ぞろえを確保するために、食品を捨てることを前提にした計画を立てているからだといえます。
また、コンビニは商品を置いてもらうために熾烈な競争があります。メーカーは「コンビニ限定」サイズのお菓子や飲料を生産しますが、「週販いくつ」(週にいくつか以上売れなければカット)という厳しい条件があり、その生存競争に残れなかったものは棚からなくなってしまいます。
しかも「コンビニ限定」なので、スーパーで売られているものに比べ、パッケージが一回り小さかったり、企業名やロゴマークが入っていたりする場合があります。売れ残った商品をほかで販売できないので、また大量に余ってしまうのです。

『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)著者・井出留美さん
それって消費者のエゴじゃない?
――お話を聞いていると、食品の新しさに小売店が過剰にこだわっていると感じます。
井出 小売店の言い分としては「お客さんが新しいものを求めるから」とのこと。実際に、今日食べる菓子パンも新しいものから取る人がいますよね。
――いわれてみれば、「牛乳は奥に並んだ新しいものから」と、母親から教えられたことがあります。
井出 そういう行動は全国いたるところでおこなわれていますし、この瞬間も新しい日付のものを取っている人がいるでしょうね。お店側の言い分にも一理あるのかもしれません。しかし、1年もの賞味期限のある商品が、1日遅れているからって、こだわる消費者はどれくらいいて、それは正しいことなのでしょうか?
お店の品ぞろえについても同様です。ある百貨店のパン屋さんでは「閉店間際にいらっしゃるお客さんのために、どんな種類も選べるように残しておく」ことが課せられるため、大量の廃棄が生まれるようです。私たちは買い物をするとき、商品棚にぎっしりと商品がそろっていることを要求していないでしょうか。
賞味期限の日付が遠いものを選び、賞味期限の日付が近いものを店に残す。それを店が廃棄すると「もったいない」と批判するのは、消費者のエゴでしょう。企業の商慣習も問題ですが、食品ロスは他人事ではなく、私たち自身が変えていけることなのです。
最後に、私がつくった「クリエイティブな買い方チェックリスト」を紹介したいと思います。買い物をするときに、これらの行動をしていないか、ぜひ考えてみてください。
クリエイティブな買い方チェックリスト
□買い物リスト(買い出しのためのメモ)は面倒なのでつくらない。
□冷蔵庫の中や食品ストックを確認しない。そのまま買い物に出て、「あったかな? ないかな?」と迷い、買って帰ってから、まだあったことに気づく。
□賞味期限が先のもの(製造日が最近のもの)がいいからといって、商品を棚の奥から取る。
□野菜や果物を、必要以上に手でさわりまくって、きれいに陳列してあるのを乱す。
□スーパーで一度カゴに入れたものの、途中で気が変わって買うのをやめたとき、元の棚に戻さずにその辺に放置する。
□おまけがほしいので、おまけつき食品を買い、食品は捨てる。
□1個で足りるのに、「2個まとめて買うと安くなる」という謳い文句につられて2個買う(結局、あとで無駄になって捨てる)。
□野菜を買うとき、まるごと1個は要らず下半分や4分の1で足りるときでも、1個のほうが割安なのでそちらを買う(結局、あとで無駄になって捨てる)。
□お腹が空いているときに買い物に出て、なんでもかんでもおいしそうに見えて買いまくる。
□「数量限定」「期間限定」という謳い文句につられ、たいして欲しくもないのに買ってしまう。
□「1個買うと1個おまけ」につられて買ってしまう(結局は、あとで無駄になって捨てる)。
□安くなっているからといって、そこに並んでいる商品をすべて買い占める。
12項目中該当するものが
・ゼロ~1項目……優秀です。クリエイティブな買い物のエキスパートですね。
・2~5項目……まあまあです。
・6項目以上……あなたの買い物は、食品ロスを増やすことに加担しています。日ごろの買い物習慣を見直しましょう。
(聞き手・構成/山本ぽてと)