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解釈の違いで生まれる「嘘」と自覚的な「嘘つき」は違う/中村うさぎ×二村ヒトシ×枡野浩一【2】

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「どれだけ気持ち悪いと思われてたんだろうって」(枡野)

枡野 あの、(プロインタビュアー/書評家の)吉田豪さん[注]がね、『AERA』って雑誌で僕の本の書評を書いてくれたの。そしたら出だしでね、≪歌人・枡野浩一は文章も上手いし人間的にも面白くてボクは大好きなんだが、あまりにも好き嫌いの分かれるタイプ……ハッキリ言えば嫌われるタイプである。≫って書いてあったの。

中村 あ、書いてあったね。

枡野 それ読んだときに「えっ、そうだったの!?」って思って。

会場 (大爆笑)

枡野 僕、自分のことわりと好きだから、みんなも僕のことを大好きだと思ってたの。

中村 ウソ!?

枡野 もちろんね、敵も多いと思ってたよ。でもそんなに人から嫌われるタイプっていわれるほど嫌われてるとは、吉田豪さんの書評で初めて知ったの。

中村 で、そこから自己認識は改まったの?

枡野 や、改まらない、あんまり。基本的に「世界はみんな枡野好き」と思って接してるから。どんな初対面の人とかも悪意があると思ってないの、最初は。だんだん「あ、この人、僕に悪意あるのかな?」ってだんだん気づくんだけど、初対面のときは心から僕のことを好きだと思って接しちゃうから。よく、「なんであんなヤバい人と普通にしゃべってたの?」って言われる人とかとしゃべっちゃうの。

中村 ふんふん。

枡野 すごい鈍感。

二村 枡野さんは、書いたものを読んだだけの人からは「ヤバい」と思われたり嫌われたりすることはあると思うんだけど、本人に会うとそんなに嫌われない……よね?

枡野 なんかね、加藤千恵さん[注]っていうさ、僕の教え子というか後輩にあたる歌人がさ、仲いい友達がどんどん芥川賞を獲っていくのよ。村田沙耶香さん[注]とか。あと西加奈子さん[注]は直木賞獲ったり。そういう作家の集まりに混ざったことあるの、僕。山崎ナオコーラさん[注]とかさ。そのとき、口々にみんな(枡野注/ここで名前を挙げた方というわけではありません)から「枡野さん全然イメージと違う!」「感じ悪くない」って言われたの。初対面でだよ!? どれだけ感じ悪くてキモいと思われてたんだろうって。口々にみんな「怖くない」とか言うから、どれだけ嫌な奴だと思ってたんだろうって。

会場 (爆笑)

二村 初対面だからそんな意見が出たんだろうね。みんな本だけ読んで枡野さんのことは知ってはいたけど。読むのが嫌な本だったら、それこそ出版もされないし、作家の人たちも読まないわけだしさ。今回の『愛のことはもう仕方ない』が顕著だけど……やっぱり枡野さんの本って、面白いんだよね。つい読んじゃうんだけど、でも読むと作者の枡野さんに対してキモいと思ってしまう、嫌いになりながら読むっていう……。

枡野 怖いもの見たさ?

二村 う~ん。でもこの本はさ、エッセイというか枡野さん自身のルポ、実録だと考えると……。

枡野 本人は小説だと言い張ってるんですけど。

二村 や、僕も小説だと思うけど。これ読んで不愉快になって、枡野さんというよりは、“この本の語り手の主人公”を嫌いになる、という心のかき乱され方をした読者は、まんまとこの本の“小説力”に引っかかった……というか騙された。まぁ騙しでもないんだけど、圧倒されたんだろうなっていう。だから、ある種の人たちに対しては、読むと枡野さんが嫌いになるように書かれてる本なのかなと。枡野さん本人はあんまり自覚はしてないと思うけど。

枡野 うん。でももしもこれが『講談社エッセイ賞』の候補になったら、僕は「エッセイ、エッセイ」と言い張ると思うけど。

二村 ちょっとでも売れた方がいいもんね(笑)。

枡野 はい。あと本の一行目に、≪これから書く文章は小説だということにしたいと私は強く思いました≫と書いているということは、書き手である本人も「小説ではない」と思ってるってことなんですよ。

二村 あ~、そうか。

枡野 だって、「僕は自分のことを女だと強く思おうと思いました」っていったら……

二村 どう考えてもそれは男だよね。

枡野 だからそれはわざとそうしてるんだけど。ただね、書き上げてみたら意外と小説っぽくなってる。

二村 いや、だから『結婚失格』と構造は同じだよね。この本では最後にうさぎさんからボロクソ言われて、『結婚失格』では町山さんに巻末の解説でボロクソ書かれる。

枡野 でも、そもそもこのうさぎさんの文章(最後に出てくる中村うさぎさんの枡野に対する人生相談の回答)は数年前に書いてくださってたことを、今になって発掘したってことなのね。だから……

二村 それも小説的な仕掛けっていう。最後にそのうさぎさんの回答を持ってくることは最初から企んでいた?

枡野 や、そうでもない。ただ最後に(風呂あり家賃4万円のアパートに)引っ越したのは本当に偶然だし。本を書いたことで何か自分なりに動こうと思って、それで枡野書店を一旦すっきりさせるべきじゃないかと思って(店に連泊してしまうような暮らしをやめてアパートへ)引っ越したの。

二村 でも、すっきりっていうかさ、枡野さんはさ、ずーっと本の連載途中は酷いことというかツラいことというか。しなくていいエゴサーチをしたりさ、読者の反感コメントをいちいちほじくり返したりしてさ(笑)。それで連載部分が終わって、書き下ろしの最終章になったらパーーン! と明るくなって、「台車を買ったら引っ越しがうまくいきました!」みたいな(笑)。もう頭がおかしくなったのかと思ったら、最後にうさぎさんにけちょんけちょんにされて終わるという……。台車買って引っ越しがうまくいって部屋片付いて明るくなったんだけど、主人公の心の状態は、うさぎさんに指摘されたように、じつはそんなに変わってはいない。

「なんでこれを小説だと言いたがるの?」(中村)

枡野 まぁね。いや、でも僕は、町山智浩さんがおっしゃるみたいな「人は成長する」ってことを疑ってるところがあって。うさぎさんは、人は成長すると思いますか?

中村 う~ん、なにをもって成長というのかねえ……っていう。ただほら、考え方が変ったりはするじゃん。それをだから成長というのかどうかは、私もちょっと自分ではわからない。

枡野 あの……書いたことで変わったことはあると思います。たとえば「風邪ひきました」って書いたら、差し入れをくれたりするし、書くことって人生に影響を与えてくるから。そういう意味で、書くことで人生変わるかもしれない、(離婚後10年以上会えてない)息子に嫌われるかもしれないと思いながら、そこは覚悟を決めて書いています。引っ越したのはほんと偶然だったんだけど、そこから流れができて……。

二村 枡野さんって、「私は嘘を書きません」みたいな宣言って、してたっけ?

枡野 ほんと言うとこの小説、もっとフィクションにしようと思ってたんです。書いていた始めの頃は。だけど実際には気持ち悪くて書けなくて。あの、この本の中でひとつだけ嘘を書いてるんですよ。それはどこかというと、“先輩芸人の家で酔っぱらって寝てしまった”という部分で。

中村 それ嘘なの!?

枡野 ううん。それを岸川真さん[注]という作家さんの家だと書いてるんですけど、そこは嘘なの。岸川真さんの家で酔って寝ちゃったのはほんとなの。でも先輩芸人の部屋で寝たことにしようとわざと書いたの、嘘で。フィクションとして。でもそこが気持ち悪くなって、「記憶違いだった」って後で言い訳してるけど、ほんとは記憶違いじゃなくて、わざと作った話にしようと思ったけどやっぱし嫌だったっていう。そこは嘘、実は。そこ以外は全部本当。

中村 じゃあさ、なんでこれを小説だって言いたがるの!?

枡野 それはむしろツッコミ待ちで、みんな「これは小説じゃない」って言いたがるだろうなって。

中村 言いたがったよ私も。まんまと!

枡野 だから、「そういう体の小説」っていう「体のエッセイ」でいいと思ってて……。あの穂村弘さん[注]という僕のライバルの歌人が、いつもエッセイと言い張りながら嘘ばっかり書いてるのね。僕からすればなんだけど。たとえば「西荻窪」という地名をわざと少し変えて「花荻窪」と書くとか……。ちょっと素敵でしょ?

二村 その素敵さがムカつくんでしょ?

枡野 そうそう!

中村 私は素敵だと思わないけど。

枡野 その素敵さでうまくやってる感じにイラ立つというか……それへのアンチなの。

二村 枡野さんはさ、「花荻窪」を素敵だと思うからイラッとするけど、うさぎさんは素敵だと思わないからイラつきもしない。まぁだから、詩人というか、そういう人が言いそうなことだよねって思っていられる……。

枡野 まぁだから僕も、どこかで「花荻窪といけしゃあしゃあと書けたらどんなにいいだろうなぁ」と思いながらも、でも書けないんですよ。

二村 ってことなんだよね? だからムカつくんだよね。

枡野 はい。

二村 そこに枡野さんの「心の穴」がある……。

枡野 穂村弘さんのことは好きなんだよ。僕は穂村さんのファンなんですよ

二村 だから僕はそこが枡野さんに訊きたかった。「嘘つきの人を見てどう思いますか?」って。

枡野 あの、結婚相手だった人も嘘つきだったんだけど、でも好きだったから。自分にないから魅かれちゃうのかもしれない、嘘つきに。

二村 穂村さんのような魅力的な嘘つきに、でしょ?

枡野 穂村さんはだって僕が聞けば、「エッセイは半分くらいはフィクションだよ」って言ってくれるから……。あ、これ、公開しちゃいけないことだったのかなあ?

中村&二村 知らないよ!(笑)

【第2回注釈】

■『あれたべたい』(あかね書房)
枡野浩一・文、目黒雅也・画の絵本。誕生日にたべたいものを聞かれた男の子が「いつか、ばあばとたべた、あれがいい! あまくって、ひんやりしてて、ふわっふわの!」と言い、お父さんと一緒にその「あれ」を探しに、お店や街を巡っていくお話。新進画家である目黒雅也さんは一児の父。剣道五段で、子どもたちの指導にもあたっている。

■『結婚失格』(講談社文庫)
枡野浩一の著作。「書評小説」という形式をとりながら、著者の離婚体験を赤裸々に描いている。本文の中で離婚する主人公の職業は歌人ではなくAV監督である。文庫版の解説は映画評論家・町山智浩。その解説での町山から主人公・速水=枡野浩一への厳しい批判――<自分が愛されなくなった原因を考えるべきは速水自身なのに> <速水は妻に自分の正しさだけを主張し続けた。「僕は正しい」というのはイコール「君は間違っている」という意味だ。相手の屈服を望んでいるのだ。そんな人には誰も屈服しない> <この身勝手さは失恋した中学生の感覚>etc――は話題となり、論争にも発展した。

■町山智浩
映画評論家、コラムニスト。1962年生まれ。米国カリフォルニア州バークレー在住。代表作に『映画の見方がわかる本』、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』などがある。最新作は『トランプがローリングストーンズでやってきた 』。さらに最近では大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』について、枡野浩一のネットラジオでの同作への批判を引用しながら評論をするなどし、枡野との関係性は続いている。

『町山智浩の映画ムダ話 ~新海誠監督「君の名は。」』(サンプル)

『本と雑談ラジオ』(枡野浩一・古泉智浩)

■吉田豪
プロインタビュアー、書評家、コラムニスト。1970年生まれ。吉田による枡野へのロングインタビューは彼の著書、「サブカル男は40歳こえると鬱になる」がテーマの『サブカル・スーパースター鬱伝』と、「アクの強い文化人のこじらせインタビュー集」である『人間コク宝 サブカル伝』にそれぞれ収録されている。

■加藤千恵
歌人、作家。1983年生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。高校生時代に歌人としての才能を枡野浩一に見出されて、処女短歌集『ハッピーアイスクリーム』でデビュー。短歌集としては異例のデビューとなる。その後は小説も手掛ける。作家の朝井リョウとともにラジオ番組『オールナイトニッポンZERO』パーソナリティも務めた。最新の著作は『アンバランス』 『ラジオ ラジオ ラジオ!』。

■村田沙耶香
作家。1979年生まれ。『授乳』で群像新人文学賞優秀賞、『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞受賞、『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞、『コンビニ人間』で芥川龍之介賞――と数々の文学賞を受賞している。芥川賞受賞時には同時にコンビニ店員の仕事も兼業していることが大きな話題となった。

■西加奈子
作家。1977年生まれ。2歳までイラン・テヘラン、小学1年から5年までエジプト・カイロに暮らす。『あおい』でデビュー、『通天閣』で織田作之助賞・大賞受賞、『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞している。

■山崎ナオコーラ
作家。1978年生まれ。『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞し、デビュー。同作は映画化もされた。他に『反人生』『可愛い世の中』など作品多数。

■岸川真
作家、フリー編集者。1972年生まれ。著書に『蒸発父さん―詐欺師のオヤジをさがしています』『赫獣』『誰でも書けるシナリオ教室』『フリーという生き方』などがある。

■穂村弘 
歌人、エッセイスト。1962年生まれ。歌集に『シンジケート』、『ドライドライアイス』、『ラインマーカーズ』、短歌入門書に『短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために』(解説/枡野浩一)、エッセイに『世界音痴』などがある。また、枡野浩一『結婚失格』文庫版には特別寄稿として『僕が君ならそんなことはしない』という短文を寄せている。

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■中村うさぎさん
作家・エッセイスト。1958年生まれ。雑誌ライーター・ゲームライターを経て、『ゴクドーくん漫遊記』シリーズで人気ライトノベル作家となる。その後、自らの「買い物依存症」を描きつくしたエッセイ『ショッピングの女王』でエッセイストとしても大人気となる。その後もさらに「美容整形」「ホストとの恋愛」「借金と税金」「デリヘル風俗」など自らの実経験・実体験を通じての赤裸々なエッセイを発表し続けている。2013年に100万人に1人ともいわれる難病「スティッフパーソン症候群」を発症、現在も治療を続けている。最新著作は「形見分けの書」とも表明しているエッセイ『あとは死ぬだけ』。メールマガジン『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』も発行している。

■二村ヒトシ監督
AV監督。1964年生まれ。慶應義塾大学在学中より劇団『パノラマ歓喜団』を主宰する一方、AV男優としてもデビュー、多数のAVに出演する。劇団解散後はAV監督となり、女が男を攻める「痴女モノ」や美少年が女装する「女装子モノ」の第一人者といわれるなど、現在に至るまでAV業界の第一線で活躍している。男女の恋愛と自意識をテーマにした著書『すべてはモテるためである』『あなたはなぜ「愛してくれない人」を好きになるのか』がベストセラーとなり、セックスと恋愛をめぐる論客として注目を集める。さらには、男性のアナルを開発する器具『プロステート・ギア』のプロデュースも手掛けている。AVの代表作に『美しい痴女の接吻とセックス』など。最近の著作は対談や鼎談が多く、『オトコのカラダはキモチいい』(金田淳子・岡田育との共著/KADOKAWA)、『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子との共著/幻冬舎)、『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(川崎貴子との共著/講談社)、最新刊に『秘技伝授 男ノ作法』(田淵正浩との共著/徳間書店)などがある。

(構成:藤井良樹)

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