
心から愛を信じていたなんて
二村さんが「枡野さんは吉田豪さんや町山智浩さんは嘘つきだと思う?」と問いかけ、枡野さんが「二村さんは僕の元奥さんはメンヘラだと思う?」と問いかけ返す、個人と個人の永遠のわかりあえなさについて語る第4回です。やはり「嘘も方便」なのか? 「EXILE妄想」とは、「ヤンキーとオタクの一瞬の握手」とは何なのか!? 「男が女を子ども扱いする」ことで果たして結婚はうまくいくのか……?
「EXILEの仲間になりたいのは、いじめられっ子の発想なの?」 (中村)
中村 枡野さんは風俗なんかには行かないんだよね?
枡野 行かない行かない。
中村 チンコが勃ってたときから風俗は行ったことないの?
枡野 行ったことない。ただ、ちょっと一瞬つきあった人が、風俗で働いてたってのがわかったことがあったけど……。
中村 そのときはどう思った?
枡野 べつになにも。「あ、そうかあ」と思った。
二村 嫉妬は特にない?
枡野 嫉妬心は僕はないほうかも。あ、でもあったのかなぁ。結婚相手がバイセクシャルで、辺見えみりのヌードカレンダーを寝室に飾っていたのはちょっと嫉妬したかも。
中村 辺見えみりに嫉妬してたのお~!?
二村 やっぱり枡野さんは女になりたいんじゃないの!? ほんとはさ!
枡野 そんなことはない。
中村 どうなんだろうね。
二村 あのね、AV監督からしたらさ、この本(『愛のことはもう仕方ない』)には枡野さんの性癖が凄く丁寧に書いてあってさ、とても参考になったんです。性産業従事者としては、やっぱり人の性癖の数だけビジネスチャンスはあると思っていて……。
中村 EXILEの妄想[注]とか?(笑)
枡野 EXILEの妄想とか(笑)。
二村 や、風俗店はなんでも作れるんですよ。金さえ使えば。枡野さんの妄想を具現化するなら、EXILEのような男優をずらっと揃えてさ、女性はひとりいれば済むんだから、女をハーレムみたいにずらっと10人揃えるより全然安くつく。ソープで五輪車とかよりは安くつくかもしれないよ。枡野さんのために枡野さんをいじめるEXILE的な男優たちがいて……。
枡野 いじめられたいわけじゃないけどね。
二村 いやだから、小突かれながら……ヤりたいんでしょ?
枡野 違う違う、仲間にされたい……感じ。強い人たちに仲間と認められることで自分も強いと……
二村 で、最後に「おまえ仲間だ!」って言ってもらってプレイが完了するっていう。これ、俺、完璧に作る自信がある(笑)。店の演出を含めてね。
枡野 それ、どれだけ需要があるのかなぁ。僕はヤリたいけど。
二村 まぁだから僕は、それで金は儲からないから、そんな店はやらないけど。でももし枡野さんみたいな性癖の人が何万人もいたら、俺はその店をやるね。
枡野 いたらいいのにねえ。
中村 っていうかさぁ、EXILEの仲間になりたいっていうのは、いじめられっ子の発想なの?
枡野 かもねえ。僕はいじめられてはなかったんだけど、ただ怯えていたの。強そうで運動ができる人たちに。
二村 とてもよくわかる。あなたをいじめるかもわからない雰囲気を持った人たちに対して、むこうはいじめる気がないにしても、ちょっとおどおどしてしまう。だけど最後に、「おまえ仲間だよなぁ」と言われることにとんでもないオーガズムがある……。
枡野 そうそう。これはエッセイに書いたことある話なんだけど。高校時代にね、向こうから男子学生の集団が来たのね。自転車の集団が。それで僕は怯えて、目を伏せてて……
二村 こういう話するとき、ほんとにイキイキとするねえ、枡野さんは(笑)。
枡野 したら、その集団が「枡野くーん!」って手を振ってくれたの。
二村 クククク(笑)。
枡野 もうすっごい幸福感を感じて。なんで自分は怯えてたんだろうと。
中村 ハハハハハ(笑)。
枡野 それはクラスメイトだったんですよ。でも僕は男の集団が来るだけで怖い感じがして、うつむいてたんだけど。だけど、「あ、みんなそんなに僕のこと嫌ってないんだな、手を振ってくれるんだな」って。すっごい印象に残ってたんだけど。そういう感じ。僕の中の、男性たちへの距離感は。
二村 あの、本当に僕は、AV監督としてなんとかなるまでは非モテで、子どもの頃もね、いじめられっ子だったんだよ。いじめもしてたんだけどね。だからジャイアンでものび太でもなくスネ夫的な子どもで、なおかつオタクだったので、やっぱりいじめっ子に対する恐怖は凄くあって。だから物語とか映画とかでさ、ヤンキーとオタクが一瞬、理解しあう……、なんか事件が起こってオタクの主人公がヤンキーと共闘するとかさ。 『桐島、部活やめるってよ』[注]って映画がそうだよね。
中村 ああ、うんうん。
二村 ヤンキーとオタクがほんの一瞬握手して、でも結局また違う世界に別れていくっていう話に、僕はとてもシビれるというか、泣けてくる……。
中村 『桐島』、よかったよねえ。
枡野 そうかもしれない。
二村 でもやっぱり、ヤンキー的男性に対しての「自分をいじめる人かもしれない」っていう恐怖は、いつまでもあるよね?
枡野 あるある。あるし、そこはもう、逃れられないなにかですね。