連載

「EXILE的な男性」に怯え続ける男たち/中村うさぎ×二村ヒトシ×枡野浩一【4】

【この記事のキーワード】

「二村さんは僕の別れた奥さん、メンヘラだと思う? 」(枡野)

二村 ただね! 話がまたちょっと離れちゃうけど、南Q太さんは……、この枡野さんの小説に出てくる元奥さんは、べつに夫に嘘をついてほしかったわけではなく……。枡野さんがそれこそいっぱい書かれてる揉め方がさ、心の穴であって、恋においては「好き」なところが必ず「嫌い」に反転する……。

枡野 二村さんはさ、僕の別れた奥さんのことをさ、メンヘラだと思ってる?

二村 メンヘラかどうかなんてそんなの……。人間はみんなメンヘラだからさ。

枡野 そうかあ……

二村 状況においてね、状況によってメンヘラ化。ただメンヘラであること……メンヘラであることっていうのは「引き裂かれている」ってことなんだけど、その引き裂かれ方がツラそうだったら、それはよくないよね、あんまりね。

枡野 あの、この話につながるかどうかわかんないエピソードを話していいですか?

二村 どうぞ。

枡野 僕、こないだね、鎌倉に行ってきたの。あるミュージシャンの人……言っていいのかな……矢野顕子さん[注]の元夫の矢野誠さん[注]。その人が僕の短歌を音楽にしてくれたのね。それでお目にかかったんだけど、そのときに鎌倉在住の古い友達に会ったの。彼は僕の結婚時代のことを知ってるの。結婚中、たまにうちで留守番したりしてくれてたから。それで彼が「Q太さんがこう言ってたよ」と教えてくれたことがあって。「枡野くんがいつも“暑い暑い暑い暑い”って言うから、エアコンを買ったのに枡野くんに“なんで買ったの?”って言われた……」――と。それを聞いたときに凄いショックで。確かに僕は暑い暑い言ったかもしれないけどエアコンを買ってほしくて言ったんじゃないのよ。単に暑かったから暑い暑い言ってて。“なんでエアコン買ったの?”ってのも素直に言っただけなのね。でもむこうは「暑い暑い言うから買ったのに、なんで責めるの!?」と傷ついたと思うのよ。それ聞いたときに初めて、「ああ、そういうこと言ったな」って。離婚裁判中にそういうこと言われたら“ごめん”って謝ってたと思うんだけど、離婚裁判ではもう嘘ばっかりつかれてたからさ、法律的な嘘ばっかり、それこそ僕が子どもに暴力を振るってたみたいな嘘……。でもそのエアコン・エピソードを言われたら、あっという間に謝ったと思うんだよね。“ごめん、本当に無神経だったし、ただ暑い暑い言っただけで、買ってほしいわけじゃなかったんだよ”って。それ言ったら泥棒の友達が、「いや、彼女は人の顔色をいつも見ている人で、ちょっとでも枡野くんが暑いって言ったら何かしなきゃと思って、だからすぐ買ったりしたのに、それを“なんで買ったの?”って言われたらすごくショックで、もう説明する気もしなかったと思うよ」って。僕だったらそこで「枡野くんが暑いって言ったからエアコン買ったのに!」って直接言ってくれたらいいと思うんだけど。ただそう言えない人がいること、(その泥棒の友達に)「そういう女性は多いんだよ」って言われて知って、本当に申し訳ない気持ちになったっていうのが現状の僕で……。この本を書いた後のことだったのね。あ~だから、そこはほんとに悪かったなぁ~謝りたいなぁ~って。僕、すぐ暑い暑い言うし、寒い寒い言うし、うん……。

中村 でもさぁ、その話、前にも枡野さんから聞いたんだけどさ。私が不思議に思うのはさ、あなたが、元奥さんがクーラー買った意味がわからなかったのもびっくりだけどさ、でも夫に「なんでクーラー買ったの?」って言われたら、「だってあんた、暑いって言ったじゃん!」って、すぐさま私だったら言うから。“なんで言わないんだろう、南Q太は……”って思うよね。

枡野 そこで言ってくれたら、「あ、ごめん! そうだったね!」って言うと思うの、僕も。

中村 そうだね。なんか、あまりにも言わなすぎる人なのかな。

二村 自分の中でぐるぐる回る人じゃないかな。傷つけられてないのに自分で傷ついちゃうんだよね。

枡野 それで、そういうふうに話していて思いだしたこともあって。僕に、彼女が本棚をくれるって言ったことがあったの。いらない本棚を。僕は嬉しかったの。早くほしいなって思ってたのね。どんなふうにレイアウトしようかな~とか考えてたんだけど。でも彼女はそれを売っちゃったの。で、「なんで売ったの?」って聞いたら、「枡野くん、嬉しそうじゃなかったから売っちゃった」って言うの。確かに僕、無表情だからさ、わーいわーいとかは言わなかったと思うの。

二村 喜怒哀楽が出ない……?

枡野 出ないから。そのとき僕が「やったー!!」とか言えばよかったんだけど。言えないからさ。だけど僕からすれば、くれるって言うから楽しみにしてたのに、売っちゃうってどういうことなのって思うじゃん?

中村 で、「売っちゃうってどういうことなの?」って言ったの?

枡野 「なんで売ったの!?」って言ったよ、もちろん! でもそれは、むこうにとっては“怒られた”って思うんじゃない、きっと。そういうことが一事が万事だったんじゃないかと思って。こう言うとさ、みんな、むこうに同情すると思うのね。

中村 しない!

枡野 しない!?

会場 (笑)

枡野 や、すると思うし、結構今、僕も同情してて、「やだな、この枡野浩一って夫は」って自分でも思ってるの。「すぐ暑い暑い言って」って。

中村 はっきり言って、どっちもどっち! 暑い暑いとか私だって言うよ、すぐ。

枡野 …………。

中村 「なんでエアコン買ったの?」って言われて黙ってるのも不思議な感じだし。本棚の件にしてもさ、本棚あげるよって言われてあんたが喜んだ顏しなかったからっていってもさ、売ろうと思ったときには一応聞くよね?

枡野 そう! 「いらないなら、売るよ?」って言われたら、「や、欲しい欲しい!」って言ったと思うんだけど……。そこはだからね……本当に言葉にしない人だった。漫画には描くんだけどね。

二村 言葉にしないで……、まぁ、言葉にしないでっていうか……。喜怒哀楽をね、奥さんに気にいられようと思って、関係を保とうとして、女性が作った料理を過剰に「おいしいねえ~!」って食べるような方法で表現する男もいやですよね。あとAV女優とセックスするときに過剰に「気持ちいいマンコだね~!」って言うとか……

中村 それはわかる気がする。

二村 そんな僕が、そんなやり方をAV男優としてやってると、AV見てる男性はウザいと思うんだよ。

会場 (爆笑)

【第4回の注釈】

■EXILEの妄想
枡野浩一が著作等に記している枡野の脳内ファンタジー。「EXILEの新入りメンバーである枡野は、EXILE兄貴たちの乱交パーティに混じるよう命じられ、ひとりの女の子から『そんなことする人とは思わなかった』と言われてしょんぼりする」という内容。すべては枡野の極個人的妄想であり、EXILEの方々及び関係者の皆様の実際とは一切関連は御座いません。

■『桐島、部活やめるってよ』
2012年度公開の日本映画。日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品。監督:吉田大八。主演:神木隆之介。原作は朝井リョウの同名小説。男女共学の高校を舞台とし、男子バレー部のエースである「桐島」が部活をやめたという噂をもとに、体育会系男子・帰宅部チャラ系男子・ギャル系女子・吹奏楽部女子・オタク系映画研究部男子などの行動や内面、関係性を描く。いわゆる「スクールカースト」を題材にしたという面でも話題となった。

■吉田豪
プロインタビュアー、書評家、コラムニスト。1970年生まれ。吉田による枡野へのロングインタビューは彼の著書、「サブカル男は40歳こえると鬱になる」がテーマの『サブカル・スーパースター鬱伝』と、「アクの強い文化人のこじらせインタビュー集」である『人間コク宝 サブカル伝』にそれぞれ収録されている。

■町山智浩
映画評論家、コラムニスト。1962年生まれ。米国カリフォルニア州バークレー在住。代表作に『映画の見方がわかる本』、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』などがある。最新作は『トランプがローリングストーンズでやってきた 』。さらに最近では大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』について、枡野浩一のネットラジオでの同作への批判を引用しながら評論をするなどし、枡野との関係性は続いている。

『町山智浩の映画ムダ話 ~新海誠監督「君の名は。」』(サンプル)

『本と雑談ラジオ』(枡野浩一・古泉智浩

■『結婚失格』
枡野浩一の著作。講談社文庫・刊。「書評小説」という形式をとりながら、著者の離婚体験を赤裸々に描いている。本文の中で離婚する主人公の職業は歌人ではなくAV監督である。文庫版の解説は映画評論家・町山智浩。その解説での町山から主人公・速水=枡野浩一への厳しい批判――≪自分が愛されなくなった原因を考えるべきは速水自身なのに≫ ≪速水は妻に自分の正しさだけを主張し続けた。「僕は正しい」というのはイコール「君は間違っている」という意味だ。相手の屈服を望んでいるのだ。そんな人には誰も屈服しない≫ ≪この身勝手さは失恋した中学生の感覚≫etc――は話題となり、論争にも発展した。

■矢野顕子
シンガーソングライター。1955年生まれ。1976年にデビュー。日本を代表するミュージシャンの一人。

■矢野誠
作曲家・編曲家・音楽プロデューサー・ピアニスト。1947年生まれ。矢野顕子、吉田美奈子、ムーンライダーズ、石川セリ、井上陽水、岡林信康、喜納昌吉、奥田民生、宮沢和史、サニーデイ・サービスなど、数多くの日本有数のミュージャンたちのアレンジ・プロデュースを手がけている。

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■中村うさぎさん
作家・エッセイスト。1958年生まれ。雑誌ライーター・ゲームライターを経て、『ゴクドーくん漫遊記』シリーズで人気ライトノベル作家となる。その後、自らの「買い物依存症」を描きつくしたエッセイ『ショッピングの女王』でエッセイストとしても大人気となる。その後もさらに「美容整形」「ホストとの恋愛」「借金と税金」「デリヘル風俗」など自らの実経験・実体験を通じての赤裸々なエッセイを発表し続けている。2013年に100万人に1人ともいわれる難病「スティッフパーソン症候群」を発症、現在も治療を続けている。最新著作は「形見分けの書」とも表明しているエッセイ『あとは死ぬだけ』。メールマガジン『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』も発行している。

■二村ヒトシ監督
AV監督。1964年生まれ。慶應義塾大学在学中より劇団『パノラマ歓喜団』を主宰する一方、AV男優としてもデビュー、多数のAVに出演する。劇団解散後はAV監督となり、女が男を攻める「痴女モノ」や美少年が女装する「女装子モノ」の第一人者といわれるなど、現在に至るまでAV業界の第一線で活躍している。男女の恋愛と自意識をテーマにした著書『すべてはモテるためである』『あなたはなぜ「愛してくれない人」を好きになるのか』がベストセラーとなり、セックスと恋愛をめぐる論客として注目を集める。さらには、男性のアナルを開発する器具『プロステート・ギア』のプロデュースも手掛けている。AVの代表作に『美しい痴女の接吻とセックス』など。最近の著作は対談や鼎談が多く、『オトコのカラダはキモチいい』(金田淳子・岡田育との共著/KADOKAWA)、『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子との共著/幻冬舎)、『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(川崎貴子との共著/講談社)、最新刊に『秘技伝授 男ノ作法』(田淵正浩との共著/徳間書店)などがある。

(構成:藤井良樹)

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