
心から愛を信じていたなんて
再び話は「嘘と本当」に迫っていきます。他人の嘘がどうしても許せないという枡野さんを、それはあなたの美意識なだけで、他人はほっときゃいいじゃん……と一喝するうさぎさん。他方、二村さんは「嘘を生むのはナルシシズムや嫉妬かもしれない」と自らの「AV男優乳首なめ問題」を告白。嘘・嫉妬・ナルシシズム・自意識・美意識……。誰もが抱えて持て余す「何か」を掘り下げる第6回です。
「デーモン小暮の年齢だって嘘だって言うもん!」(枡野)
中村 あれ? 二村さんが聞きたがってた嘘と本当の話はもういいいの?
二村 いや、ほんとはもうちょっとあって……。あのね、町山さんのおっしゃる「愛の方便」について。ほら、町山さんのあの『結婚失格』の解説がワッ! と評判になったときは、みんなが……枡野さんの本だけを読んで枡野さんを気持ち悪いと思ってる人たちが、「町山さん、さすが!」「それを枡野に言ってほしかったんだ!」みたいなさ。
枡野 そうそう、そうそう。
二村 そのときに(ライターの)雨宮まみさん[注]だけが、「いや、枡野さんの気持ちはわかる」って言ったんだよね。
枡野 「たとえ努力したとしても、どんなに枡野さんが立派な旦那さんになったとしても、恋愛なんてダメなときにはダメになると思っています」……みたいに書いてくれたのが、雨宮さんだったの。
二村 つまり、町山さんのアドバイスに従ってどれだけやったとしても恋愛は……
枡野 町山さん自身はたまたま奥さんの気持ちを取り戻せたかもしれないけれど、でも枡野さんが同じことをしても取り戻せたかどうかはわからないじゃないですか、って。
二村 ケース・バイ・ケース、人によって違うってことだよね。町山さんの「正しさ」が枡野さんには……
枡野 当てはまらないということだし。あと(雨宮さんは)「奥さんの漫画も、前は好きだったけど、離婚後は嘘をついちゃってるような気がする……」って。
二村 それは、枡野さんのエッセイの影響というよりかは、雨宮さんが漫画を読んで実感したこと……。
枡野 なにかに関して世間の側に話を持っていこうとしちゃっていて、正直じゃなくなっちゃっているんじゃないかっていう実感がある……っていうことを、雨宮さんはもっと上手に書かれていて。それはやっぱり、唯一の(町山さん解説や南Q太さんに対しての)アンチの意見で。ものすごく説得力はあった。ただね、町山さんが書いてくれたようなことを、僕の周囲ではみんな言語化してくれなかったから……
二村 町山さんに対しては素直に感謝してるのね、枡野さんは。
枡野 感謝してる。ただ嬉しかったかというと、それはすごくショックで、それがインポの原因じゃないかと思うくらい。
二村 ククク(笑)。
枡野 でも僕は、心にもないお世辞や慰めの言葉を言われるよりも「本当はこうだよ」って言われたほうが明るくなれるタイプだから。一番傷つくのはね、「枡野くん悪くないよ」って言ってくれときながら、本当は違うと思ってる人。そのほうがよっぽど傷つくから……。
二村 枡野さんって嘘に敏感……、というか、逆に他人の嘘ってわかる?
枡野 僕ね、特にTwitterとかの“マクドナルドで女子高生がこんなこと言ってた”みたいな投稿があるじゃない? あれ、大っ嫌い!
中村 なにそれ?(笑)
二村 「作り話」ね。いわゆる「いい話」とか。
枡野 そう。作り話で、気の利いた話なんだけど、「そんなの絶対嘘!」って思っちゃうのね! もうちっとも楽しめない! イライラしちゃう! 僕、デーモン小暮[注]の年齢も嘘だと思ってるもん!
中村 え、なにが?
枡野 だからデーモン小暮の年齢! 何万何歳とかいうやつ!
二村 そりゃあ嘘だろうけどさ(笑)。
枡野 僕が「嘘が嫌い!」って言うとみんな、「じゃあ、デーモン小暮の年齢も嘘だと思うんですか?」って言ってくるんだけど、僕は「嘘だと思うよ!」って言うもん。あんなのは面白がって言ってるだけなんだから怒ることないのにって言われるんだけどさ。ただあの嘘はさ、何万年も生きてる人なんかいないから、常識的にわかる嘘じゃない?
二村 そりゃそうだよ。
枡野 だから罪は軽いと思うんだけど。だけどそれでも僕はそんな嘘につきあわされるのは嫌だと思ってるのね。
中村 う~ん……。
枡野 デーモンさんが目の前にいて何万何歳とか言われても、「そんなものに僕、つきあいませんから」って言うと思う。「すみませんけど、僕、そんなのは面白くないと思ってるんで」って。
中村 あのね、私が嫌いな嘘って、やっぱり自己欺瞞っていうかさ、自分をよく見せようと思ってつく嘘とかさ。そういうのにちょっとカチン!ときたりすんのね。他人の嘘に。
枡野 はい。
中村 ただデーモン小暮とかってさ、誰も信じてないし、単なる冗談だから。べつに自分をよく見せようと思って言ってるわけでもないし(笑)。そこはなんとも思わないな。
枡野 なんでみんな、あんな嘘につきあってあげてるんだと思っちゃう。
中村 や、つきあう気はないけど、別にイラッともこない。あ、この人はこういうキャラでやってんのね、以上。みたいな。
枡野 あまりにもみんなが、「枡野さんは嘘嫌いっていうけど、じゃあデーモン小暮は許さないんですか?」って言うからさ……
二村 「許さない!」って?(笑)
中村 なんか(穂村弘さんのエッセイの)「花荻窪」だって、まぁ「西荻窪」じゃないですか。それを「花荻窪」って書きたかったんだなって思うだけで。それを「嘘じゃん!」っていうふうには私は思わない、だから枡野さんの反応する嘘と私の反応する嘘は、ちょっと違うかな。
枡野 う~ん……ただその嘘のラインはねえ……。今回の本でね、(読者が)褒め言葉で「すごく正直に書いてある」って言ってくれたんだけど、でも自分では正直じゃない部分もあるって思いましたよ。伏せてることもいっぱいあるしさ。
中村 書いてることのエピソードで?
枡野 固有名詞として書いてる人とそうでない人がいるじゃない? たとえば、ある女性クリエイターが突然僕を嫌いになったときのそのクリエイターは誰なのかとかさ……。
二村 クックックック……(笑)。
中村 もうそれはさぁ、固有名詞なんか、相手がいることもあるわけだから、書かないほうがいいときもあるじゃない!
枡野 だから、そういうことは正直じゃないなとは思いますけどね。
中村 ……………(絶句)。
枡野 あと、3Pしたときの男性。あの、実は1人目だった人が逃げちゃったのね。みんなで集まったんだけど、ホテルに。その逃げちゃった人は有名な人だったんだけど、それは書いてないとか……。
中村 だからそれはさぁ、相手の立場を考えて名前を伏せるみたいなのはさ、厳密に嘘とかいうんじゃなくてさ。べつに嘘じゃないじゃん。名前書いてないだけでさ。
枡野 まぁ、そっか……。
中村 全部本当のこと書けっていうわけにはいかないのはわかるからさ。なんか嘘の境界線みたいなものが、枡野さんと私は違うなと思う。
枡野 なるほど……。
中村 デーモン小暮とかさ、冗談じゃん!
二村 デーモン小暮がさ、悪魔キャラで面白がらせようとしていることが、枡野さんは面白くないわけだ?
枡野 うん、ちっとも面白くないから!