連載

嘘をつくのも嫉妬心を隠すのも、「ズル」だと思ってるの/中村うさぎ×二村ヒトシ×枡野浩一【7】

【この記事のキーワード】

「あきらめの悪さに是非なんかない」(中村)

――では最後に少しだけ質疑応答をおこないます。どなたかご質問はありますか?

質問者 今日の読書会の課題本の『愛のことはもう仕方ない』には「愛」という言葉が入っていまして、ずっと拝読しているときも「愛」という言葉を意識しながら読んでいたんですけれど……。それで、私は結婚したことはないんですけれど、「離婚」ということを別にしても、「愛」ということをあきらめなきゃいけないシチュエーションはあると思うんです。それは恋人の心変わりだったりとか、物理的にもう無理、相手に恋人がいたりとか、いろいろあきらめなきゃいけない場面はあって。それで「愛する」ということをいろいろ言われているんですが、「あきらめなきゃいけないってこと」、その是非も含めてどう思われるのか、聞かせてもらいたいです。

枡野 う~~ん、あきらめること?

質問者 それがいいか悪いかも含めてなんですけど。

枡野 うさぎさんは、あきらめますか?

中村 あきらめますね、無理だったら。執着してもしょうがないじゃん。

枡野 はぁ。僕はあきらめが悪いかもしれません。

質問者 私もそうなんです! どうやったらあきらめられるのかが、わからないんです!

枡野 人はどうやってあきらめていくんだろう……って書いたこともあるな、そういえば。あきらめられないですよね。でもそれは普段の中でもあって。僕の本ってすでに40冊くらい出てるんですけど、半分くらいは普通出ないだろうって本なのね。

中村 あはははは!(笑)

枡野 「どうして出せたの?」ってみんな言うんだけど。

二村 出版業界の規格外なワケね。

枡野 「普通こんな本は出版できないよ!」って内容の本を商業出版してこれたのは、あきらめられないからなのね。普通はあきらめると思う。でも僕はあきらめられないの。

質問者 ああ……。あきらめられないこと、そこになにかプラスになるものがあるかもしれないっていう……。

枡野 うん。僕は「この本は世に出てもいいはず!」って心から思っているから、いつまでもいつまでも(出版企画書を)人に見せ続けるのね。そうすると、出してくれる人がたまにいるわけ。っていうことを繰り返して、今に至るまで20年間やってるんだけど。

質問者 はい。

枡野 もちろん、あきらめられないことによって、嫌な面もあるよ。僕は自分が執念深いと思っているんだけど。でも執念深い人は義理堅いとも思っていて。義理も忘れないようにしているのね。だから、そこは長所と短所は一緒のものだから。僕は他者に対してしつこくて執着心があるけれど、逆に、人がしてくださった恩とかは本ッ当に忘れないの! なのでそこは「みんななんて忘れっぽいんだろう……」って思ってる。

中村 あきらめないっていうのは、恋愛についてのあきらめられないって話?

質問者 主にそれなんですけれど。ただ全般的に私、オタク気質であきらめが悪くて、それが苦しくなるときがあるんですね。

二村 自分で苦しくなる?

質問者 はい。どうやったらあきらめられるのかなって。結構みんな、枡野さんがおっしゃったみたいに、言うことがどんどん変わっていって……良くも悪くもそのまま流されちゃうじゃないですか。私はそうはできなくて……。

枡野 ああ……わかる! あのね、飲み会かなんかで、その場で盛り上がった企画があったとき、僕は本気にしちゃうのね!

会場 (爆笑)

中村 あははははは!

枡野 それで結局、立ち消えになったりすることがよくある。でもそれをずっと覚えてることで、実現させたこともあるから。

質問者 ああ~。

枡野 だからそこはね、みんなできないだろうって思ってるとこ。

二村 あのさ、出版とか企画とかは、あきらめないことが誰にも迷惑かけないけど。でも恋愛はさ、あきらめないことによって相手を苦しめてしまうことがある。

質問者 それは二村さんのおっしゃるとおりだと思います。

枡野 そうだけど。でもそこは僕、女性にふられたときとかは、すごくあきらめが早いの、本当は。なのに結婚相手(元奥さん)に対してなぜこんなにしつこいかといえば、子どもだよね。子どもってものが自分には珍しいものだから、距離感がわからなくて、ずっと執着しちゃうんだけど……。ただ最近は、僕自身が自分の父親にあまり会いたくないから、だったら(離婚後に会えていない)息子も僕に会いたくないかなって思うようになった。今我慢してるのはそういう気持ちになったからなんだけど……。でも、あきらめは悪いですよ、とっても。いまだにあきらめつかなくて、温めている企画とかありますもの。たとえば、枡野書店だって何年も前から考えていたことだから。今やってる枡野書店の活動はけっこう理想に近いのね。数々の失敗もしたけど……。あ、僕、結婚相手の人に「枡野くんはなんでも自分の思いどおりにしてく」って言われたことがあるの。それはたぶん彼女からはそう見えたんじゃないですか。僕はむこうのほうがお金持ちだから、うらやましいと思っていたけれど。彼女からしたら、「枡野に子どもなんか会せたら、なにもかも思いどおりになりすぎる!」って思ったのかも。……って、解釈してます。

中村 あのね、質問者の方は「あきらめることの是非」っておっしゃったけど、是非なんかないと思うんですよ、私は。

質問者 はい……。

中村 その人その人の問題だと思うので。こういう枡野さんとか、私が知ってる限り枡野さんに近い、岡本夏生とか[注]。

会場 (爆笑)

中村 怒りをずっと持ち続けるみたいなね。そういう人は、そういう生き方しかできないから。ならば、あきらめない生き方をすればいいと思う。それで私とかみたいにわりと……。あのさ、私もけっこう執念深いほうだと思ってたんだけど、枡野さんとか岡本夏生みてると、「私、あっさりしてるのかなぁ?」って。

会場 (笑)

中村 まぁ、それは相対的なものだからさ。たとえば、あきらめが私よりもっと早い人もいると思う。そういう人はその方が、その人にとっては楽だと思うの。あきらめることでなにかを避けてるのかもしれないけれど、そうやって避けることで、傷つかなくて済んだりとかするわけじゃない? だから、あきらめることの是非っていうのは、自分の性格と照らし合わせて考えることでさ。私は、世間一般的なあきらめの是非があるとは思わないわけですよ。だからあなたも枡野さんみたいに執着が強いタイプだと自分で思うんだったら、きっとあきらめられない性格なんだから、あきらめられないことをなにかに生かしていこう――そう思ってけばいい。それで、あきらめが早い人はあきらめが早いこともメリットなんですよ。だからあなたは――あきらめ悪く生きてください。

質問者 はい、わかりました。ありがとうございました。

会場 (拍手)

 

【最終回の注釈】

■村上春樹
作家、翻訳家。1949年生まれ。『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。『ノルウェイの森』上下巻は現在までに1000万部をこえる大ベストセラーであり、毎年のように「ノーベル文学賞受賞か?」と話題になる、現代日本文学を代表する作家の一人。他の代表作に『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『IQ89』などがある。

■美保純
女優、コメンテーター。1960年生まれ。日活ロマンポルノ作品『制服処女の痛み』でデビュー。『ピンクのカーテン』でブルーリボン新人賞受賞。その他の出演作に映画『男はつらいよ』シリーズやNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』などがある。

■サーチ&デストロイ
ベトナム戦争におけるアメリカ軍の作戦名。ジャングルに潜むベトナム軍ゲリラ兵士を「見つけだして、皆殺しする」という意味。

■『マッドマックス』
オーストラリア制作の暴走アクション映画シリーズ。シリーズ中3作の主演を務めたメル・ギブソンの出世作としても知られる。第4作『マッドマックス 怒りのデスロード』は2015年に公開され、アクション描写とともに、フェミニズム学者に監修を依頼した、ヒロインや女性キャラクターの描き方も話題となり、サブカル界隈でも論争がなされた。二村ヒトシ・枡野浩一・中村うさぎもそれぞれ映画評をWeb上で発表している。特に二村の「主人公・マックスは高潔なヒーローではなくインポ男」「だからこそ真にカッコいい」という考察は賛否両論となり、ネット上では炎上案件となった。

▼二村ヒトシの映画でラブ&セックス考 婚活女性も専業主婦もキャリアウーマンも必見!『マッドマックス 怒りのデス・ロード』――

▼枡野浩一/エキサイト・レビュー『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の魅力が理解できない私が、なんとか面白がろうとしてみた――

▼中村うさぎ公式サイト<シャーリーズ・セロン主演の「マッドマックス」を観に行った。>

■岡本夏生
タレント、女優、コメンテーター、グラビアアイドル、レースクイーン。1965年生まれ。2016年、およそ5年間レギュラーを務めていた2011年10月から出演していた MXテレビ『5時に夢中!』を降板し、話題となった。

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■中村うさぎさん
作家・エッセイスト。1958年生まれ。雑誌ライーター・ゲームライターを経て、『ゴクドーくん漫遊記』シリーズで人気ライトノベル作家となる。その後、自らの「買い物依存症」を描きつくしたエッセイ『ショッピングの女王』でエッセイストとしても大人気となる。その後もさらに「美容整形」「ホストとの恋愛」「借金と税金」「デリヘル風俗」など自らの実経験・実体験を通じての赤裸々なエッセイを発表し続けている。2013年に100万人に1人ともいわれる難病「スティッフパーソン症候群」を発症、現在も治療を続けている。最新著作は「形見分けの書」とも表明しているエッセイ『あとは死ぬだけ』。メールマガジン『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』も発行している。

■二村ヒトシ監督
AV監督。1964年生まれ。慶應義塾大学在学中より劇団『パノラマ歓喜団』を主宰する一方、AV男優としてもデビュー、多数のAVに出演する。劇団解散後はAV監督となり、女が男を攻める「痴女モノ」や美少年が女装する「女装子モノ」の第一人者といわれるなど、現在に至るまでAV業界の第一線で活躍している。男女の恋愛と自意識をテーマにした著書『すべてはモテるためである』『あなたはなぜ「愛してくれない人」を好きになるのか』がベストセラーとなり、セックスと恋愛をめぐる論客として注目を集める。さらには、男性のアナルを開発する器具『プロステート・ギア』のプロデュースも手掛けている。AVの代表作に『美しい痴女の接吻とセックス』など。最近の著作は対談や鼎談が多く、『オトコのカラダはキモチいい』(金田淳子・岡田育との共著/KADOKAWA)、『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子との共著/幻冬舎)、『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(川崎貴子との共著/講談社)、最新刊に『秘技伝授 男ノ作法』(田淵正浩との共著/徳間書店)などがある。

(構成:藤井良樹)

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