連載

女子の鮮烈な欲望まみれだった少女漫画とレズビアン偏見の罪/椎名あゆみ『あなたとスキャンダル』

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 バンド名はスパイラル(SPIRAL)で、メンバーは5人。キーボード担当の友香以外の4人をここで紹介する。ボーカル担当の結城芹香、16歳。女性でありながら、ビジュアルは至って男性的で背も高く、友香のみならず多くの女性がハマるような“イケメン”で、クォーターゆえ髪色は明るく、人目を惹きつける容姿が相まって、黙っていても存在感があって目立つタイプ。高校には通っておらず、5匹の猫とアパートで暮らし、バンド練習以外はバイトに明け暮れているのだが、何やらワケありの模様だ。 実は元華族の由緒正しい家で生まれ育った芹香だが、さまざまな背景から居心地の悪い思いをしていた。28歳の製薬会社専務と見合いをさせられたことでついに父親にぶち切れ、家出していた。後半、この婚約者に一流ホテルのスイートルームに監禁されるくだりもある。

 ギター担当の小椋武巳(おぐら・たけみ)、16歳、通称タケ。星条男子高の2年生だが、髪を腰まで伸ばすなど男子高校生らしからぬ風貌、すぐに女の子を口説きはじめる性癖があり、となりの女子高では「星条1のサイテー男」と呼ばれている。イケメン設定だが音痴でもあり、ギターを鳴らして歌うのは長渕剛だったりもする。読者には通じないよな……。このタケにマジ惚れしているのが友香の同級生で生粋のお嬢様女子なのだが、このコも相当良いキャラだった。

 ベース担当の中川保(なかがわ・たもつ)、15歳、星条男子高の1年生。ツリ目が特徴的で性格もクールで不愛想だが、バンドに対する意識や情熱は高い。年上の彼女アリ。登場人物の中では一番地味な役回りだったかもしれない。そして最後に、友香をキーボードに推薦した宮沢新、16歳はドラム担当。両親は既に他界し肉親は祖母のみだが、祖母(かなりパワフル!)は下宿屋(時代を感じる!)を営んでおり、にぎやかな環境で暮らしている。明るく社交的な性格の新はバンドのムードメーカーだ。嘘をつくのはヘタクソだが、実は冷静沈着で頭の回転も速かったりして頼りがいもある。新自身は友香に好意を抱いているのだが、芹香に対する気持ちの整理がつかないままの友香のことを励ましたり慰めたり。しかし友香の心は芹香でいっぱいで、歯がゆい思いをする。このもどかしい恋愛と、バンドのサクセスストーリーの両軸で物語は展開していく。

愛情表現だけじゃない、性的欲求としてのキス

 芹香はクールに見えてお人好しな性格もあり友香を拒み切れず、なんだかんだで友香と芹香は距離を縮めていくが、その関係性は“同性愛”ではなく、“姉妹”か“友達”。友香自身も、芹香に対する独占欲は強くても、結局のところノンケだし、レズビアンを「変態」扱いしているし(それは同作の登場人物全員がそうなのだが)性的な意味での欲求はない。もしほんとうに同性恋愛が展開されていけば、りぼん作品としては異例だっただろうが、友香の初恋は「ときめいた相手が実は女だった」にとどまっている。

 スパイラルの合宿中、自分の気持ちをごまかせなくなった新は勢いで友香に告白。友香は新を恋愛対象として意識したことがなかった(と、新にはっきり言ってしまう!)。いつも元気で明るくて自分のよき理解者であると思っていた新からの告白に友香は戸惑い、そんな友香に、新は「絶対こっちむかせる」と宣言。何かと友香を気にかけていた新と、そんな新を信頼していた友香は、傍から見ると結構いいムードだったりもする。大体友香は芹香に思いを寄せながらも、新がドラム練習しているところに出くわした時は彼の演奏に「すごい かっこいい」とか言っていて、深い意味もなくただ思ったことを口にしただけなのだろうけど、新にしてみればふたりだけの場所でそんなこと言われたらうれしいに決まっているし、友香に対する思いが募っていくに決まっているのだ。うーん、友香って残酷! 自分の見ているもの以外目に入らないという、10代特有の残酷さと純粋さを十二分に持ち合わせている友香だったが、新の告白を機にどことなく新のことを意識するようになり、「新くんがあたし以外の人にやさしいのはイヤだ」と思っている自分に気づいていく。

 ではバンド活動はどうなっているのかというと、恋愛ドタバタの最中でもこちらは順調に進んでいた。スパイラルの目標はずばりプロデビュー。彼らの音楽に対する姿勢は大真面目でストイックだ。放課後の部活動のノリでスタジオに通っているわけじゃないのだ。最初こそ芹香目当てでバンドに入った友香も、「毎日がドキドキの連続」で、バンドに入ってよかったと思う。漫画なので音源は存在しないが、スパイラルのメンバーたちはみんな実力派で素人離れしている。ボーカル担当の芹香に至っては、タケが「今の日本でおまえ(芹香)ほどうたえる奴はいないぜ」と絶賛し、友香も「あの才能のためならなんでもしてあげたい」と賛同しプロデビューを目指すことに異論はない。15~16歳の高校生が主体的に集まったバンドが結成して間もなく実力派って……どえらい話である。また、スパイラルのチームワークと信頼関係がとんでもなく強靭だということが物語の中盤以降、読めば読むほど伝わってくる。

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