連載

女子の鮮烈な欲望まみれだった少女漫画とレズビアン偏見の罪/椎名あゆみ『あなたとスキャンダル』

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 高校生バンドが対象のコンテストがあり、グランプリを獲得すればCDデビューができる。スパイラルは難関のテープ審査を見事通過、関東大会の出場が決まる。このステージがきっかけで、スパイラルはレコード会社の女社長からデビューの話を持ち掛けられるが、コンテストの裏事情(実は出来レースだった)を聞かされて憤慨、女社長相手に遠慮なく文句をぶつけ「おばちゃん」呼ばわり……。スパイラルは怖いもの知らず、ピュア過ぎる。しかし女社長は「あなたたちがうちと契約してくれるなら、借金はチャラにしようと思ったんだけど」。例のコンテストでひと悶着あり、スパイラルが暴れまくったせいであらゆる機材が故障したのだ(証拠VTRあり)。その負債額、高校生にはいかんともしがたい600万円。ひぇー。

 ここから、芹香の謎めいた生い立ちや実家との確執、婚約者問題、そして失踪、タケから芹香への告白などなど、ほとんど芹香が主人公のような展開が続くが(人気キャラだったんだろうなあ)、他方、友香と新の関係もまた、小学生読者には刺激的な進展が描かれる。帰省中の芹香に会いにみんなで旅行しようと友香が提案、当日タケと保があえてドタキャン、友香と新ふたりきりで行くことに。旅館で過ごす夜、物音に怯えて新に抱きつく友香。浴衣姿ということも相まって、なかなかエロい。新の理性、自制心、平常心はガラガラと崩れ落ちていく。ものすごく露骨にセックスを連想させられる、きわどいシーンだ。しかし読者の期待とは裏腹に、その瞬間までセックスの予感など微塵も抱いていなかった友香は、拒絶して部屋を飛び出す。追いかけて「好きな女抱きしめたいと思て何が悪いねや!!」と叫ぶ新。「キスしたい」じゃなくて「抱きしめたい」かぁ! さらに「ゆかた1枚で抱きつかれた俺の身にもなれえや!」とも。「新くんがそおゆう人だとは思わなかった!!」と友香。高校生のセックスに対する認識の、男女間のズレがむき出しに……。この10ページ余りに渡る一連の展開に、小学生読者の頭はギンギンだっただろう。『りぼん』のラブシーンって大抵はキスに重点を置いていて、だからキスシーンはたくさん出てくるのだが、「性的欲求」というより「愛情表現」の意味合いを強調したものが多かった。その点で、絵にしろ台詞にしろ『あなスキャ』のラブシーンは、きわどいラインまで突っ込んでいたといえる。男3人と旅行に行くという友香に対して星蘭女子の友達が言う「危ないじゃないの! 普段いい人でもいつ豹変するかわかんないんだよ!?」とか、芹香がホテルに監禁された時のタケの「男が女を監禁してやることといったらひとつだろーが!」とか、エロを連想させる台詞は多い。

 旅館での件があったあとも、友香はなかなか新と向きあわない(読んでいてイライラ)が、帰ってきた芹香の後押しでようやく自分の恋愛感情が誰に向いているのかを自覚、ついに友香と新は両想いになる。バンド活動はというと、レコード会社の女社長が再び現れ、別途コンテストにスパイラルを推薦。以前メンバーたちと商品扱いしたことを詫び、1日も早く世に出て欲しいとエールを送る。コンテストに出場したスパイラルは、晴れてCDデビュー。友香は「あたしたち恋人にはなれなかったけど親友にはなれるよね…?」と芹香に語りかけ、この世でたった1人だけのあたしの王子様は新だと悟って、もうこれ以上ないくらいのハッピーエンドで物語は終わった。

レズビアン=変態、という前提

 90年代「りぼん」はヒット作を連発しているが、その多くは、恋愛だけを題材にするのではなく、家庭事情や社会問題といった「大人」の動向に重きを置き、大人に翻弄される「子ども」の成長を描いている。『あなスキャ』にもその傾向は見られるが、他作品と趣が違うのは「大人の影がとっても薄い」ことだ。そのぶん、超ドリーミー。スパイラルは、高校生が自分たちの勝手で作ったバンドであり、彼らは自分の信じる方向のみを見据え、とにかく自力で何でも解決しようとする。大人に失望しているわけじゃないけど、大人をあてにするつもりはない。芹香を除く4人は金持ちの通う学校に在籍する高校生だから、経済的に裕福な保護者に依存しているだろうけど、作中彼らの親はほとんど出てこなくて、“うざい親”の干渉を受けることなく好き勝手にドタバタやっている高校生たちの姿は読者から見るとやたら楽しそうで、理想郷ともいえる。金だけ出して一切干渉してこない親たち、最高過ぎる! 現実の高校生はもっと子どもだし大人に依存しているし、バンドのプロデビューだってこんなにトントン拍子に運ばないし、話せばわかる大人ばっかりじゃないことを高校生になって知ったけど、『あなスキャ』連載当時小学校低学年だった私から見たスパイラルの面々は「理想の高校生」で、ものすごくかっこよかった。小学生にとって高校生は死ぬほど大人だったということを、今回『あなスキャ』を読み返して思い出した。

 当初、主人公の友香は、ピアノはうまいけど鈍くさくて“ビミョーな感じ”の主人公だった。ところが物語が進むにつれ、自分の才能を発揮する場ができて、バンド仲間にも大事にされている友香のことがだんだん羨ましくなった。駆け引きとか媚びとか、いわゆる“小悪魔ちゃん”を一切やらずして、つまり何の努力もなく地のまま「チーム男子の紅一点」というものすごく美味しいポジションにいられる友香。そんな友香を主人公とした『あなスキャ』は、女のいやらしい欲望存が分に詰まった作品ともいえる。作中、主人公の友香のみを中心に展開するのではなく、メインキャラ(友香、芹香、新)もサブキャラ(タケ、保)も含めたスパイラル5人全員に、それぞれの人間性や魅力が現れるような“見せ場”がしっかり用意されていたのもよかった。各キャラに、それなりにファンがついていただろうと思う。いわゆる“推しメン”的な感覚で、「タケ派」「新派」「保派」とかね。

 最後にひとつ特記しておくべきことがある。『あなスキャ』が連載されていたのは約20年前であり(ってことは、スパイラルはもうアラフォーなのか!)、当時の世相を反映させた結果ともいえるが、作中レズビアン、あるいは同性愛に対する差別が当たり前のように描かれていた。物語序盤の芹香が実は女だったという騒動は、「レズビアン=変態、気持ち悪い」という前提で成り立っている。レズビアンらしき女子生徒と接触すれば「気持ち悪~い」とハンカチで手をゴシゴシ、変態がうつると大変だから離れろ、とまで言う。『あなスキャ』の徹底的な同性愛否定描写は、レズビアンである女子読者を傷つけたり、大半のノンケ女子読者に「レズって変態」と偏見を植え付けていた側面は否定できない(2008年発売の文庫版では、「変態」「気持ち悪い」といった表現に修正がかかっている)。同性愛否定に疑問を投げかける登場人物は最後まで登場しなかった。高校生バンドがやりたい放題でスピーディーに展開する『あなスキャ』は、今読み返してもハラハラドキドキ、とても魅力が詰まった作品だが、それだけに同性愛否定描写が強かったことが残念事項でもある。

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