アメリカ大統領選の直後にオンエアが始まったこのCM、アンチ・トランプ・デモ参加者の多様性をそのままコピーしたかのようのラインナップに思わずニヤリ。「どんなタイプのまつ毛にも使える」ことからキャッチフレーズは”Lash Equality” (まつ毛の平等)で、これも時勢への皮肉が込められているのかと良い意味で疑ってみたくなる。
アメリカのコスメ・シーンはエスティローダー、ランコム、クリニーク、シセイドウなどデパートで売られる高価格ブランドと、カヴァーガールも含め、レブロン、メイベリンなどドラッグストアの棚に並ぶ大衆ブランドに大別される。たとえばマスカラならデパート・ブランドは30ドル程度、ドラッグストア・ブランドなら10ドル前後。購買者の年齢よりも所得によって分かれており、CMに起用するセレブも自ずと変わってくる。
もちろん昔はどのブランドも一様にフェミニンな白人モデルの独壇場だったが、マイノリティの人口増加によって変化が起きた。カヴァーガールは黒人専用のサブ・ブランドQueenの広告には元ラッパーで今は俳優、シンガー、実業家として広く人気を集めるクイーン・ラティファを使っている。メイン・ブランドにも白人セレブに混じってリアーナ、ジャネル・モナイといった黒人ミュージシャンが登場し、基礎化粧品の広告には常にナチュラル・メイクのゲイのトークショー・ホスト、エレン・デジェネレスを起用した。そして今回、ついに男性の登場と相成ったのである。ちなみに同社のブランド名”CoverGirl” とは雑誌の表紙を飾る女性モデルのことであり、社名に反する人選も意に介さない英断だ。
他方、デパート・ブランドはやや慎重かつ保守的。アメリカでは顧客の収入は人種と結びつく。高級品の購買層はやはりまだ白人が多く、例えばランコムはスポークスウーマン(=広告モデル)にジュリア・ロバーツ、ケイト・ウィンスレット、ペネロペ・クルスなどアメリカとヨーロッパの俳優を使っている。ランコムはそもそもフランスのブランドであり、ヨーロッパ俳優も起用されるわけだが、アメリカ人には欧州へのほのかな憧れもある。そんな中、2014年にルピタ・ニョンゴが同社初の黒人スポークスウーマンに抜擢されたのは驚きだった。
ルピタはケニア人の両親のもとメキシコで生まれてケニアで育ち、4カ国語を操るケニア/メキシコの二重国籍俳優。アメリカの大学に進んで俳優として活動を始め、後にイェール大学も卒業。2013年にアメリカ映画『それでも夜は明ける』(12 Years a Slave)で奴隷主の愛人になることを強要され、そのために奴隷主の妻から虐待される奴隷女性を演じてアカデミー助演女優賞を受賞。そこから一気に人気と知名度がアップした。