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東京大学による女子学生家賃補助への批判が残念な理由 日本の女子達は3200億円程の不平等を受けている

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教育は基本的に社会の格差を拡大させる

 よほどのことが無い限り、教育は社会の格差を拡大させます。なぜなら、社会経済ないしは社会慣習的に有利な背景を持つ子供ほど教育を受ける年数が長く、より長期間にわたって税金による人的資本投資の恩恵を受けやすいのに対して、不利な背景を持つ子供ほど、より早く教育システムからドロップアウトしてしまい、公教育支出を受け取る期間が短くなりがちだからです。

 これを防ぐ手立ては二つあり、一つは不利な背景を持つ子供たちでも教育にアクセスできる、より早期の教育段階に対して手厚い公教育支出を施しつつ、より高次の教育段階で富裕層の私費負担を増やすことで、もう一つは有利な背景を持つ子供と不利な背景を持つ子供に対する公教育支出が等しくなるように、不利な背景を持つ子供たちに奨学金を提供することです。この手法は貧困層と富裕層、男子と女子、多数派民族と少数民族など、様々な格差問題に適応することが出来ます。

注: 授業料の無償化は人気のある政策ですが、無償化をしても不利な層は間接費用や慣習的な壁の存在によって、就学率が有利な層と等しくはならないため、不利な層よりも有利な層を利して、社会の格差を拡大させる可能性がある点に留意が必要です。男女比を事前に決めるクオータ制も均衡点を手っ取り早く達成できる手軽さから人気がありますが、学びを動機付ける作用を欠くため、金銭的なインセンティブで学びを促進し均衡点が達成されるのを待つ方が無難でしょう。

公教育支出の男女間の不平等は女子一人当たり45万円以上になる

 公教育支出の不平等さを測る手法に便益帰着分析法というものがあります。この手法を簡単に説明すると、教育段階ごとの就学率を集団ごとに割り出し、教育段階ごとの公教育支出額をかけることで、教育段階を通じて各集団がそれぞれどれぐらい公教育支出を受け取っているのかを比較・測定する手法です。

 日本は高校までは比較的男女平等に教育が行われているので、この手法を高等教育における男女間格差に適応してみましょう。なお以下の試算は、筆者が総務省統計局の人口推計データと文部科学省の学校基本調査から割り出した就学率と、日本私大教連の資料にある「大学種別の学生一人当たりの一年間の公財政教育支出」に基づいています。

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 この表の解釈の仕方を、私立短大の項目で説明します。左から2番目・3番目の就学率は特に説明の必要が無いと思います。左から4番目の列ですが、私立の高等教育機関は生徒一人当たり毎年14.1万円を、国公立は180.2万円を受け取っています。それゆえ、私立短大の生徒は修業年数の間に28.2万円の公教育支出を受け取ることになります。私立短大の男子の就学率は1%なので、この教育段階から男子1人あたりが受け取る平均公教育支出は2820円となり、女子のそれは24534円になるという計算です。

 高等教育機会を通じて男子は1人あたり約155万円の公教育支出を受け取ります。一方、女子は約110万円しか受け取っておらず、女子は約45万円の不平等を受けている計算になります。この男女別の一人当たりの公教育支出受取額を、たとえば20歳の人口で掛けると、男子は全体で約9951億円、女子は全体で約6689億円の公教育支出を高等教育機会を通じて受け取ることになります。つまり、20歳の男女で比べると、政府は男子に対して女子よりも約3262億円多く支出している計算になります。話は少しそれますが、日本は高等教育費の私費負担割合が約64.5%と非常に高くなっています。このため、私教育支出をいれると、男女間格差はより大きなものになると推定されるので、労働市場に出てから男女間で賃金差が生じるのも良く分かるところではないでしょうか。

 前述の通り、本稿ではこのギャップを埋めるために女子向けの奨学金を提供するものとします。どれだけの奨学金が出せるのか、シナリオは何通りも描けるのですが、中でも代表的な二つのケースを記述したいと思います。

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