年間30億の予算で出来たこと
「役所の担当者が楽しそうなのはよくわかります。人の世話をしていると何か人様のためにやっている気になってうれしいものです。責任がないからですよ」というのは富山県内で仲人会社を経営し、自らも仲人として約10年の実績を持つ片岡ゆうこさん。自治体が婚活支援を始めると聞いた時は、「黒船が来た」と真っ暗な気分になったといいます。片岡さんは、内閣府や関係大臣に「民業圧迫だ」とメールで必死のお願いまでしたそうです。
しかし現在は、自治体の婚活で失敗した方や、自治体にお世話になりたくないという方たちが片岡さんのところに駆け込んで来くるようになったそうです。「もう自治体の婚活のことをあまり悪く言わないことにしました。悪く言っていると、縦ジワができますしね」と片岡さんはカラカラと笑っていました。行政は信用できるという声もあるそうですが、自治体の婚活は成婚数が低く、単なる「出会い」の場やナンパの温床になってしまう場合もあるのだそうです。また片岡さんは「行政が企業を巻きこんでやると、結婚したくない人、結婚できない人、価値観の違う人もいるのにパワーハラスメントになりそうですね」とも指摘していました。確かに、行政が企業に号令をかけ、社員をも巻きこませるこの事業のあり方にはあまりにも多くの疑問が生じます。
なお先ほどのデータによれば、福井県は全県で平均して年間90組が成婚していることになります。ほどほどの成婚数に感じられますが、投入された税金のことを考えるとその評価は分かれるかもしれません。
福井県が婚活施策にどの程度の予算を投入しているかが不明だったため、参考までに後日訪問した富山県地方創生推進室のお話をご紹介すると、2年で3750万円の予算が計上されている富山県マリッジサポートセンターは、2年で1200人の会員登録と60組の成婚を目標にしているようです。しかし実際に達成されたのは、739名(男497名、女242名)の会員と16組の成婚、ということでした。
富山県の担当者に、費用対効果はどうご覧になっておられますかと尋ねると「H28年度に成立したカップル数(H28.10月末までの実績)でみますと、81組成立し、事業効果があったと考えております。」という回答でした。しかしながら、これはカップルが「出会った」ことを指しており、成婚にまで行き着くかどうかわからない数字です。実際、4000万円近く税金を投入したのに、成婚は1年10組にも届いていないということになります。
実は、この莫大な予算をかけた婚活支援については、河野太郎行革大臣による無駄遣いを検証する「行政事業レビュー」(2015年10月)でも検討され、「余り使い勝手のよくない」、「効果があったのか、今後、見直しを求める評価となった」とマスコミでも報じられました。「市役所が本当に街コンとか婚活、やる必要があるんですか。民間あるじゃないですか。主体が行政であるべきなのか。民間のだとお金がかかるという場合などは、利用者への補助でもいいのでは」「目的に対して手段がどうか、という点で行政じゃないといけないか、測定可能なやり方で評価を出すべき」などの有識者からの意見も出ています。
また、少子化対策と男女共同参画と両方の所管大臣である加藤大臣に「婚活支援に年間30億も出すのなら、性犯罪、性暴力被害者のための駆け込み寺である性暴力被害者ワンストップ支援センターに是非予算をつけてください。ワンストップ支援センターを全国に持っても23億です。今は予算も裏づけがいつまであるのかわからない、あるいは自分たちのお金を持ち出してやっておられます」と民進党の阿部知子衆議院議員は問題提起しています。
阿部議員は、「妊娠しても保険料は払い続けて、その後、出産手当もなく、育児休暇も有給ではとれない」という国保、国民健康保険に加入している自営業従業者や起業した女性に対する待遇の格差も指摘し、最低14週の出産休暇と公費による所得の3分の2負担を求め、「女性に多い非正規の問題をずっと放置していて、今少子化が問題にされるというのは、余りにも手当てすべきところを手当てしない」と言います。「女性活躍というなら、こういう非正規や、女性の起業をしている人の待遇改善をこそ、税金で予算化してほしい」と訴えてもいます。
私も、具体的に困っている女性たちを救う施策こそが真に求められている施策であると考えます。
全国津々浦々の地方自治体が国からの途方もない金額の交付金を受け取り、総力を挙げて進めている婚活事業。一体誰のために行われているのでしょうか。税金を払っている市民は納得しているのでしょうか。
子どもを産める年齢の女性たちは、「一億総活躍」という名のもとに、早く結婚させ子どもをたくさん産ませようとする国家の狙いをどう思っているのでしょうか。婚活支援という施策について、一度立ち止まって考え直してみる必要があるのではないでしょうか。