新作『マダム・フローレンス!夢見るふたり (Florence Foster Jenkins) 』が日本で公開中の大女優、メリル・ストリープ。実力ゆえの軽妙な演技で思いっきりの多幸感を振りまくメリルは現在67歳。実年齢を聞くと驚いてしまうが、ここ数年は革ジャンのミュージシャンから魔女、19世紀の婦人参政権運動家まで役の幅はどんどん広がるばかり。世界的メガ・ヒットとなったミュージカル映画『マンマ・ミーア!(Mamma Mia!)』で、はち切れんばかりに歌って踊っていた時点ですでに59歳だった。2011年には英国のマーガレット・サッチャー首相の伝記映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 (The Iron Lady) 』での熟達の演技によってアカデミー賞最優秀女優賞を獲得している。同作も含め、アカデミー賞ノミネートはなんと通算19回、うち3回受賞。まさに希有の大女優なのである。
しかし、このメリルですら「40歳を超えた途端にやりたいと思える役が来なくなった」「40歳になるや魔女役のオファーを三つも受けた。『わたしのキャリアはもう終わりなんだ』と思った。どうして40歳を過ぎたらグロテスクなもの以外に役がないの?」と語っている。ハリウッドでは男優は40歳を超えたあたりから渋みとセクシーさが増し、押しも押されぬ大スターとして安定したポジションを築くケースが多いが、「恋愛もの」が多い女優はそうはいかない。
そもそもメリルは映画俳優としては遅咲きで、1977年にジェーン・フォンダ主演のナチスにまつわる作品『ジュリア(Julia)』でスクリーン・デビューした時にはすでに28歳だった。翌年にはロバート・デニーロ主演、ベトナム戦争帰りの若者たちを描いた大作『ディア・ハンター(The Deer Hunter)』でいきなりアカデミー賞助演女優賞を受賞。以後、さまざまな役を演じているが、アウシュヴィッツのサバイバー、夫との離婚協議に苦しむ元妻、原発の告発者など社会的な役柄が多く、恋愛ものは少なかった。そんなメリルでさえ、女優として40歳の壁にぶつかってしまったのだった。
メリルと同様に、かつて “ラブコメの女王”と呼ばれて大ヒットを連発したメグ・ライアンも40歳以降はヒットを出せなくなった。対象的にメグの全盛期のヒット作で何度か相手役を務めたトム・ハンクスは今も活躍中だ。同じく、一時は“アメリカの恋人”とさえ呼ばれたジュリア・ロバーツもここ数年はヒットに恵まれていない。今年はジョージ・クルーニーの最新作『マネーモンスター (Money Monster) 』に出演したが、これもそこそこヒットに留まった。
幸いメリルは見事にカムバックを果たし、先述のようにありとあらゆるジャンルに挑戦し続けている。しかし、そんなメリルも手を出さなかったジャンルがひとつある。アクション・コメディだ。
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