まず、当人たちは宇宙人のような胎児を本当に「かわいい☆」と思っているのだろうか?
私の身近な経産婦たちは、産まれて世話をしてしばらく経たないと「かわいい」という感情は芽生えなかったと口々に言っていたし、出産を経た私も最近(生後4カ月)で、個性が形成されてきたように見える我が子をやっと、可愛いと思えてきた。
なのに、まだちゃんとした人間の形状にすらなっていない胎児を見て「かわいい」とな!?
べつに私や私のいる場所が「普通」で「多数派」だとは思わないし、むしろ“プレママ”たちのメルヘンなベビたん発言のほうが、マジョリティかもしれないとすら思う。
ではどうして、妊娠によって女性の頭の中はこうもメルヘンになってしまうのだろう?
受精卵を宿したら母性が芽生えるの?
“プレママ”たちは、エコー写真と共に「身体が重くてバテバテだけど、ママ頑張るからね~♪」などというコメントをわざわざ添えたりもする。一体、誰に向けて言っているのか? おそらく胎児である。
自分のお腹の中へ向けて呟けばいいことを、SNSなどにUPして自らを鼓舞しているのだろう。
私には彼女たちが、「母としてお腹で命を育ている自分」、つまり「しっかりお母さんとして形成されつつある自分」を自分自身に主張することで自己暗示をかけているように見える。
「私は聖母。私は聖母」と、自分に言い聞かせるべく、こういった行動に出るのではないだろうか? ということだ。
その背景には、妊娠や出産、赤ちゃんやママが「白くてハッピーで柔らかい」ものとして記号化されていることが、やはり横たわっていると思う。“プレママ”になった瞬間から、それはスタートしている。産後に育児をする中で「母とはこう」という押し付けの洪水に飲み込まれることが自明な今の世の中、妊娠が発覚したらできるだけ早くその「イメージ」に自分を慣らせておかないと、あとで困る。無意識にそのことを自覚しているから、“プレママ”たちは「白くてハッピーで柔らかい」イメージに沿った行動をはじめるのではないか。
妊娠を公表すると、周りの「先輩ママ」から、「産まれたらもっと大変」といった、アドバイスなのか脅しなのかよくわからない言葉をかけられることもある。
私は周りの「先輩ママ」に散々「母とはこう!」という押し付けをされた。そういう輪の中で順応して生きていくために、自分も「母として生きていくためにはこうあるべき」を自らに言い聞かせないと……と思わないでもなかった。
だって、受精卵を宿したからといってたちまち母性が芽生えるなんて考えにくいから、一生懸命「母モード」のギアを稼働させないと聖母になんてなれない。