
マクドナルド公式HPより
12月5日に、日本マクドナルドの公式 Twitter で紹介されたキャンペーン動画が、三日という短期間で公開が取りやめとなった。
この動画は、登場する男性(怪盗ナゲッツ)があるゲームに負け、罰ゲームとして他の男性(カズレーザー)から頰にキスをされるというものだ。男性は後ろから別の登場人物(安藤なつ)に羽交い締めにされ、不快感を全面に表現しながら罰ゲームを受ける。それが同性愛者に対して差別的であるという指摘が多数 SNS に投稿され、日本マクドナルドは8日、「お客様にご不快な思いをさせ、深くお詫び申し上げます」というおきまりのフレーズを残し、動画を非公開にした。
これにて一件落着……なのだろうか?
あるコンテンツが差別的な要素を持っている、それに対して批判の声が集まる、そしてそのコンテンツが削除される……その後私たちに残るのは、いつだって「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」という言葉だけだ。差別に抗うマイノリティや支援者の多くが、この言葉の空虚さを身をもって知っている。
この空虚さを作り出しているのは、コンテンツが人の目に触れること自体を止めさせようとする一部の抗議者の思惑と、抗議の内容を吟味せず苦情処理の一環としてしか対応しないコンテンツ責任者の事なかれ主義だ。
ある日突然批判騒動が起き、コンテンツの削除で事態が収束する。そして昨日までと何ら変わらない風景が戻って来る。差別は温存され、誰も何も学ばずに、また新しいコンテンツが作られる。次はどんなお客様が“ご不快な思い”をさせられるだろうか?
「不快」の内実
日本マクドナルドは、今回の動画に関し「悪ふざけの動画で不快」など数件の苦情を受け、非公開とするに至ったという。一方、このブログ記事によれば、フランスのマクドナルドが2010年に放送した CM は同性愛者を客として歓迎するというメッセージが込められた素晴らしいものだったが、宗教などを理由にアメリカ合衆国内での放送はしないと幹部が断言している。
マクドナルドは、どのようなコンテンツを公開するかに関して、グループとしての統一的なポリシーを持ってはいないようだ。
差別や偏見に反対し、マイノリティに寄り添うような動画も、苦情が予測されれば公開しない。社会に存在する差別に便乗し、その差別を再生産、強化するような内容の動画も、苦情が予測されなければ公開する。結果的に今回の日本マクドナルドのCMには、苦情が来た。だから非公開にした。それだけのことだ。
苦情の内容も、日本マクドナルドは「悪ふざけの動画で不快」という例を挙げている。しかし冷静に読んでみれば、この苦情が同性愛を「悪ふざけ」から守ろうとする人の声なのか、それとも同性愛を「不快」な「悪ふざけ」だと思っている人の声なのか、判別することはできない。日本マクドナルドを動かした苦情の多くは、同性同士のキスそれ自体を不快だと思う人の声だった可能性だってあるのだ。
そもそも多くの国で、法的に定められていないにしろ一般的な認識として、同性同士が公の場でキスをしたり手を繋いだり、抱き合ったりすることは、騒音や悪臭などの迷惑行為と同類の「不快なもの」として捉えられて来た歴史がある。公園で抱き合ってキスをする異性カップルの横で同じことをしている同性カップルが通報される、なんていうことは珍しいことではない。「不快」という言葉は、同性愛者差別と深く長い関係があるのだ。
しかしそんな歴史も、苦情の中身も、あるいは今回の動画が何故問題なのかも、マクドナルドにとってはどうでもいいのだろう。マクドナルドだけではない。「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」と表面上の謝罪をして収束を図るコンテンツ責任者は皆、そのように邪推されても仕方がない。
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