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「40男」を嫌っているのは女性ではなく自分? 軽さと過酷さを兼ねそなえた『〈40男〉はなぜ嫌われるか』

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メンズリブにはまだ可能性があるはず

杉田 田中さんはともかく、僕みたいなフリーター人生を未だに歩む人間が何かを「諦める」とか言い出したら、それこそ底なしにおしまいだ、というみじめな気持ちになってきました、いま。

まく うーん……順調にクヨクヨしてきましたね……。

杉田 田中さんも「お前(杉田)と一緒にするな!」って言いたくなるでしょう。

まく (笑)。どうなんでしょうねえ。田中さん、どんな実存の中で、いまは格闘しているのかな……。僕もいま、田中さんに対する自分の嫉妬心に気づいてモヤモヤした気持ちになりましたが……。僕たちの間には、無数の分断線が引かれてしまいますけど、僕らを分断している線のことも含めて、対話できる場があればなって、いま思いました。真面目に真剣に、でもゆるゆると、こういうことまで対話できる場がほしいです……。

杉田 ただ、そういうくよくよした惨めさもふくめて、鏡でちゃんと自分の身体を見てみよう、という話かもしれないですね、田中さんの本が言うのは。それぞれの所属や立場の違いはあるけれども。

そしてやはり、僕は他人から「なぜ嫌われるのか」ではなく、「自分が自分をなぜ嫌いなのか」という内省的な問いの本として受け止めたいですね。「自分を嫌わないという勇気」をどうすれば持てるのか。

ただ、まくさんが言うように、鏡に映った自分の姿を自分一人だけで見つめることは、本当は誰にもできないのかもしれない。誰かとの雑談や対話の力を借りるのでなければ。個人的な弱さではなく、人間は一人では何もできないという存在条件(人間の条件)としての弱さに向き合うのでなければ。何だか、そんなことも思いましたね。

まく うーん、なるほど! 田中さんの本を、こういう視点で読み得るのかあ……。

杉田 田中さんの本は、色々なつらさを抱えている世の男性たちに、それを「男性問題」として考えていいんだよ、それを言葉にしていいんだよ、というちょっとした「癒し」を与えてくれる本でもあるんだけど(そのライトさが批判されたりもしているんだけど)、同時に本質的な過酷さをふくんでいるとも思いますね。やっぱり、きついですからね。自分の客観的な身体や顔を見つめるのは。田中さんが言う男性学は、かつての1990年代の男性学でいわれた「男らしさ」を脱ぎ捨てて「自分らしさ」を大切にしよう、という路線ともちょっと違っていて、マッチョな「男らしさ」ではない「ありのままの男性」をまずは受け入れてみよう、という感じなのかなあと。

まく なるほど、マジで面白いです。こんなふうに男性学の系譜を整理していくのは。正直、そこまで田中さんの男性論の射程を捉えて良いのかという疑念は、僕の中にまだちょっとあります。ただ、ここで提示された視点で、田中さんの本を読み直してみたいです。

そしてやっぱり、「くよくよ」から始められる思想と実践が必要だ、と思いました。「くよくよ」の中に、問うべき「男≒自分」がある。そしてそれは、独力では難しい。互いの「くよくよ」を出し、それを分析し合える仲間、そんな仲間と出会える場がほしい。そんな実践と知につながっていく男性学ができていってくれたら。そんなことを感じました。

杉田 そうですね。念のために一つ付け加えると、男性学は私語りにすぎない、という批判がしばしばありますね。そこには社会や構造の視点が不足している。そして現在の男女間の構造的な非対称性を考えれば、男性学的な語りはジェンダー差別的な既存の社会構造の強化にすぎない、と。確かに、僕らのこの対話も含めて、そのような危なっかしさがつねに付きまとうと思います。

ただ、田中さんについていえば、当然ですけれど、構造的なものへの目くばせはそれなりにあります。たとえば、『40男』とほぼ同時に、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)という本が出ています。こちらは、『40男』よりも構造的な分析が中心です。ポイントは、タイトルです。「男はつらいよ」ではないし、「男もつらいよ」でもない。前者だと男の居直りになるし、後者だと男女の差異を塗りつぶしてしまう。ゆえに、男「が」つらいよ、になったのではないか。

まく ふむふむ。

杉田 この問題は、僕らの今回の方法にとっては厄介な今後の課題にもなるでしょう。しかし男性論や男性批評は、本当は実存(私)の問題と社会(構造)の問題が絡み合っているわけですね。

昔、上野千鶴子さんが「制度改革でもなく、実存もかかっていないとすればメンズリブって一体何なんだろう」と批判したことがありました。逆にいえば、可能性としてのメンズリブとは、実存がかかっている、かつ制度改革へも開かれている、ということではないか。まくさんが先ほど言ったのもそういう感じなのかなと僕は受け止めました。

まく なるほどです。あらためて頭が整理された気がします。それにしても僕は、田中さんの本を「実存まで踏み込めていない本だ」と僕自身が決めつけ読んでいた、そんな自分に気づかされた衝撃がまだ残っています。そういう僕の実存を問うことから始めてみたいです。

また、制度改革について考えることも、自分はまだまだ全然足りていない、という感じがしていますね。そのことも、ぼちぼちゆるゆる、でも具体的に踏み込んで、考えていきたいなあ。

杉田 さて、田中さんの本についての対話が想定よりも広がって、長くなってしまったので、今回はここらで一区切りしましょうか。次回の第三回は、二村さんと坂爪さんの本について、ぼちぼち語り合っていくことにしましょう。

まく 了解です。次の対話を楽しみにしています!

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