連載

『りぼん』の優等生・水沢めぐみがスポ根バレエ漫画で教えたこと/『トウ・シューズ』

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 というわけで数カ月後『りぼん秋のびっくり大増刊号』に、『トウ・シューズ 番外編 夢のむこう』が掲載された。1年4カ月のロンドン留学を終えて帰ってきたくるみは身長は1cmしか伸びなかったものの、技術が向上して研究所トップクラスの実力に。いつか成長したくるみと踊りたいと願っていた一臣の心臓はもう限界まで来ていた。バレエ団の冬の公演『くるみ割り人形』で、1日だけ主役のクララ役を研究生にやってもらうことが決まり、くるみが選ばれる。公演当日になって相手役の男性が負傷、代役に一臣が名乗り出たことで、ついにその願いが叶う。「これが最後のわがままです。これを最後に舞台を降ります」と宣言し、くるみに「君と踊ってみたかった」伝える一臣。身長差はありすぎるが、ダンサーとしての感性がとても似ており同じリズムを持っている2人は「奇跡のペア」で、最初で最後の共演舞台は大成功する。これで気持ちが吹っ切れたのか、一臣に対する気持ちは「憧れ」で、一緒に歩いていきたい人とは夢見る場所が違っても心のどこかで支え合える智也なのだと悟るくるみ。くるみと智也はようやく両想い。バレエ団に入団したくるみは、世界一のプリマバレリーナになって一臣さんに振付をしてもらう、という新たな夢に向かって再び踊り出す。すべての伏線回収だ。というか、連載自体をあと一話だけ増やしてこれを最終回にすれば最高にキレイな形だったのでは……。

 くるみは一臣と踊ることができ、智也と結ばれ、プロのバレリーナになれたので、『トウ・シューズ』は読者がいちゃもんをつけようのないハッピーエンドで完結している。とはいえ、「一臣と踊る」というくるみの夢は確かに実現したけどそれはただ1度きりで、くるみが「一臣と踊り続ける」ことはできず(最後のパートナーという意味ではうれしいかもしれないが)、私にはひたすら明るいムードのラストとは思えなかった。バレリーナを目指す道のりでいいことも悪いこともあったくるみだが、やっと夢(一臣と踊る)が叶ったと思った次の瞬間には、悲しい現実(一臣はもう踊れない)に直面した。上手に踊れるけれども別にバレエが好きなわけではない杏奈はあっさりバレエをやめて芸能界入りを目論むし、くるみはコンクールで優勝しないし、日本のバレエ団で踊るバレリーナにはなるだろうけれど世界で活躍するレベルにはならないだろうし、憧れのはづきさんもおそらく世界で評価されるプリマにはならない。みんな“そこそこ”で、スケールを大きくしすぎないところが、ごくごく普通の女子小学生にはとっきやすい作品だったといえるだろう。同時に、「夢見ること」と「現実の自分を受け入れること」、そのどちらも人生では大切で必要なのだということを、わかりやすく、かわいらしく、説教くさくなりすぎない形で教えているのかもしれない。

 連載当時、私は「小柄」という自分と同じ悩みを持つくるみに親近感を覚え、くるみを応援する気持ちで読んでいた。『トウ・シューズ』は前述のとおりわずか2年で終わった作品で、時間軸は中学1年~卒業までの三年間だが、くるみが「素直」と評される場面が幾度も登場する。だからくるみの最も強力な武器がとにもかくにも「素直さ」であることはよくわかった。くるみはバレエを習いはじめるのが遅かったけど、はづき曰く「性格が素直だからどんどん吸収していってる」。また、ある研究生は「すごくバレエ的カンがいい」「先生の指示に体が素直に反応するから、一つ一つの基礎を確実にモノにしている」と評している。私はバレエを習ったことがないのでバレエの世界のリアルな実態はわからない。ただ10代の頃に表現系スポーツを経験があり、当時の経験を振り返ると、くるみのように先生の指示に体が素直に反応する」ことこそ、実は誰でも真似できることではなかった。

 教えられる側が人格を持った人間である以上、先生だろうが先輩だろうが教える側の指導方法に疑問や不満などを抱くことはあり、邪念を持て余しながらの練習は集中できないしモチベーションも上がらずスランプや故障にも陥りやすい。幼少時はともかく思春期以降は性格面での個性も固まってきて、上達するにはその子の性格に合った指導と練習をするしかないと私個人は思うが、そんなことは現実難しい。だって多くの表現系スポーツは、ピアノのような個別指導ではなく集団指導が主流だから。1人1人の生徒の個性に合わせるのはたぶん不可能だ(私が知らないだけで、実践しているスクールやチームもあるのかもしれないが)。

 相性もあるだろうが、教える側も人格を持った人間だから、自分の指導に対して素直に反応する子をかわいがる。だからくるみのような「素直さ」「純真さ」「真面目さ」「ひたむきさ」は、実力を高め結果につなげるための重要項目だった。そしてこれらの項目は、競技以前にその子の性格ひいては気質によるところが大きかったな、と。くるみの持つ「素直さ」も結局は才能なのだ。しかも習いはじめるのが遅い、身長が低いといった不利な面がありながら、研究生に選ばれ留学もできてプロのバレリーナにまでなれたくるみは、やっぱりバレエの素質を持っていたってことじゃないのか……。ちなみに王子様キャラの一臣さん、連載当時は年上キャラが好きだったし、主人公くるみの味方というだけでいい人扱いしていた私だが、今読むと一臣はくるみ以外の生徒への配慮が足りない(18歳男子だからそこまで気が回らないのか)。自分がくるみの立場ならOKだけど、くるみ以外の立場だったら地獄へ堕ちて欲しいほど妬ましくなるのもわかる。だがそんな醜い感情を深くは描かないところも、『りぼん』優等生・水沢めぐみらしい。

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