クリスマスの“ポリティカル・コレクトネス”問題 「メリークリスマス」vs.「ハッピーホリデーズ」論争

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柔軟なのはどっち?

 「ハッピーホリデーズ」と複数形にするのは、他の宗教にもクリスマスと同時期に祭事があること、宗教にかかわらず誰もが祝う新年がすぐにやってくることが理由だ。

 ユダヤ教にはハヌカと呼ばれる祭事がある。ユダヤ暦に則るので毎年、日程が異なるものの、ほとんどクリスマスと同時期になる。したがってクリスマス・グッズが売られる時期にはユダヤ教を象徴する“ダビデの星”やハヌカを象徴するイラストが描かれたグッズも販売される。シンボルカラーはブルーとシルバーだ。ハヌカの時期になると、ユダヤ教徒の家庭には独自のデコレーションがなされるが、本来プレゼントの習慣はない。しかしテレビやネットにはクリスマス・プレゼントのためのショッピング広告が溢れ、学校でもクリスチャンの子供たちがプレゼントの話で盛り上がる。そんな中、プレゼントがもらえないのは酷なものだろう。ということで子供にはプレゼントを渡す家庭も少なくない。これはイスラム教徒の家庭も同様だ。

 アメリカは地域によって住人の人種民族宗教の分布が大きく変わり、中西部から南部にかけての、際立ってキリスト教が根強い一帯は“バイブルベルト”と呼ばれる。その中でも特に郊外や田舎はほぼキリスト教徒のみで占められており、教会が地域社会の中心となる。よって人々はおたがいに「メリークリスマス!」と挨拶を交わす。

 ニューヨークのような多人種都市ではあらゆる人がいるからこそ、クリスチャン同士は「メリークリスマス!」、そうでなければ「ハッピーホリデーズ!」と使い分けがされる。いわゆるポリティカル・コレクトネス(PC)だが、都市部の住人にとってはすっかり根付いた習慣だ。ただ、数年前から「挨拶も思うように出来ない」という不満が出始めていた。そこへイスラム教徒や不法移民の締め出しを訴えるトランプが次期大統領に選ばれたため、 今や声高に「これでもうハッピーホリデーズと言わなくて済む!」と言う層が出てきている。

Happy Holidays to Everyone!

 このようにアメリカでは数年前からくすぶっていた「ハッピーホリデーズ」論争が、今年は大統領選の影響で日本にも飛び火しているようだ。「“ポリコレ”の押し付けだ」的意見も散見する。もちろん宗教的マイノリティに対するPCだが、決して押し付けではない。

 この論争はアメリカの歴史と現状を知った上で行うのであれば、マジョリティとマイノリティの共存を考えるための良いサンプルになるだろう。まず、解決策としては以下の3つのどれかを実践することになる。

(1)宗教的マイノリティが我慢し、大マジョリティであるキリスト教の「メリークリスマス」を受け入れる
(2)マジョリティであるキリスト教徒がマイノリティへの気遣いとしてPC「ハッピーホリデーズ」を実践する
(3)両者が歴史や信者数の不均等を超えて対等にふるまう。どの宗教の信者も大きな祭事には特有の挨拶を異教徒にも使い、異教徒もそれを受け入れる

 しかし、ユダヤ教のハヌカもイスラム教の祭事“Eid”も(3)が行えるほどには浸透していない。そもそも国民の圧倒的多数がクリスチャンの国にあってユダヤ教徒は昔から差別の対象となってきた。911 テロ後はイスラム教徒もとても辛い立場に立たされ、さらにトランプの「ムスリム移民全面禁止」公約によってとどめを刺され、今やヘイトクライムの対象だ。他にも信仰以前に神の存在自体を信じない無神論者もいる。だが、クリスマスは宗教祭事でありながら事実上アメリカ最大のイベントとなっているため、異教徒も何かしらの形で参加せざるを得ない。街を歩けばどこもかしこも“クリスマス”デコレーション。今は“ホリデー”パーティなどと名前を変えてあるが、学校や職場での実質「クリスマスパーティ」には誰もが参加せねばならない。

 こうした背景があるからこそ、「ハッピーホリデーズ」はマイノリティへのちょっとした気遣いであるだけでなく、共存策でもある。先にも書いたようにクリスチャン同士は「メリークリスマス」と言い、他宗教者や、不特定多数に向ける際には「ハッピーホリデーズ」と言えばよいだけの話。カード売り場にも「メリークリスマス」と「ハッピーホリデーズ」の両方が並んでいるので、必要なものを選べばいい。誰も「ハッピーホリデーズ」を押し付けてなどいないのだ。

 ……こうしてアメリカは相変わらず解決しきれない大きな問題を抱えたまま、それでも一応は楽しくハッピーでメリーな“ホリデーズ”を今年も迎えようとしているのである。Happy Holidays to Everyone!
(堂本かおる)

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