クリスマスの“ポリティカル・コレクトネス”問題 「メリークリスマス」vs.「ハッピーホリデーズ」論争

文=堂本かおる

社会 2016.12.22 14:00

 アメリカはクリスマスを含むホリデーシーズン真っ盛り。あちこちに煌びやかなツリーやイルミネーションが溢れ、子供たちは25日にもらえるプレゼントにワクワクし、誰にとっても1年で1番楽しい時期だ。道行く人々も普段の「ヘロー、ハワユー?」「ワッツアップ?」の代わりに「ハッピーホリデーズ!」または「メリークリスマス!」と挨拶を交わす。

 ところが、現在アメリカではこの「ハッピーホリデーズ」が問題となっている。

 クリスマスとは言うまでもなく、イエス・キリストが生まれたとされる日だ。アメリカはキリスト教大国ゆえ、昔からクリスマスは重要な宗教祭事であり、人々はおたがいに「メリークリスマス!」と言い合ってセレブレートしてきた。それがいつしか商業化され、今のような国を挙げての盛大なイベントとなったのだ。現在、アメリカ人の7割がクリスチャンとされている。食事の前に必ず祈りを捧げる人から、教会に行くのは冠婚葬祭くらいという人まで信仰心の篤さはまちまちだが、それでもクリスチャンとして育てられた人々のほとんどがクリスチャンであることに違いはない。

 一方、近年は徐々に無信仰者が増え、全米人口の2割以上にのぼる。同時に世界中からの移民も増え続け、全体としては少数とはいえ、ユダヤ教徒(1.9%)、イスラム教徒(0.9%)、ヒンドゥ教徒(0.7%)、仏教徒(0.7%)なども存在する。

トナカイは問題なし。サンタクロースはギリOK

 こうした宗教の多様化から生まれた挨拶が「ハッピーホリデーズ」だ。キリスト教以外を信仰する人に「キリスト教の最重要人物、イエス・キリストの誕生日おめでとう!」と言うのはいかがなものか、ということだ。クリスマスが恋人同士のイベントとして浸透している日本ではピンとこないが、アメリカに暮してみると、たとえばヒジャブを被った女性や、一目でそれとわかるユダヤ教の装束をまとった男性に「メリークリスマス!」とは言えないことが実感できる。

 特に都市部に顕著で、筆者の住むニューヨーク市の場合、ユダヤ教徒は4%、イスラム教徒は2%と割合が増える。少数派であることに変わりはないが、アメリカでは特定の業種に特定の人種民族が集中することが多く、すると同じ宗教も集中する。クリスマスカードは日本の年賀状と同じく、企業が取り引き先にも一年の愛顧と来年への挨拶を兼ねて大量に送るものでもあり、たとえばユダヤ教徒が多い金融・法曹・メディア業界で「メリークリスマス」と印刷したカードが使えないのは言わずもがな。そこで「ハッピーホリデーズ」「シーズンズ・グリーティングス」(季節のご挨拶)などと書かれたカードが活躍する。

 同じ理由で公共の場にあるクリスマス・デコレーションや、クリスマス商品のデザインも微妙に変化した。赤と緑を多用したクリスマスっぽいデザインであることに変わりはないが、よく見ると“Christmas”という言葉、十字架、キリストやマリアなどキリスト教そのものを表すデザインは排除されている。トナカイ、星、雪だるま、雪の結晶などはOK。サンタクロースも本来は聖人のセント・ニコラスに由来するが、子供たちにプレゼントを配るキャラクターとしてギリギリOKの判断が成されている。同じくツリーや天使も微妙にOKカテゴリーだ。

 ちなみに十字架のアクセサリーもキリスト教のシンボルであることからクリスチャンのみが身に着ける。非クリスチャンが着けていてもクリスチャンだと思われるだけで特に問題にはならないが。

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