「ゴミ」と見なされている男たちの性を、スマートに捉えなおすことは出来るのか? 坂爪真吾『男子の貞操』

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坂爪男性論は、スマートすぎる?

杉田 正直に言えば、やはり『男子の貞操』は、ハードルの置き方がけっこう高いというか……正確に言うと「優等生的」な読後感もちょっとあったんですね。利己的なセックスではなく、利他的なセックスを目指せ! とか、大事なのはセックスを通していかに他人を幸せにできるかであり、本当の意味で童貞を卒業するとは「セックスを通して、相手を幸せにできる能力の獲得」である! とか。
 いや、ハードルが高いというより、ある種のリベラルな人間像を前提にしすぎている、というかな……。いわば「高度なコミュニケーションとしてのセックス」というイメージが強い気がするんです。もちろん男女の対等な関係を求めるのは大切なんだけど、「リベラルなコミュニケーション」という色が強い気がして……その辺はどうですか?

まく そうですねえ……。確かに、性のことで悩み苦しんでいる人が読むと、ハードルが高く感じるだろうな、とは思いました。僕自身も、色々考える素材は得ることができたけど、じゃあ僕自身が明日からどうしたら良いのかな、と考えたときには、なかなか切り込んでいく糸口が見つからない、という感じはありました。

杉田 うまく言えないんですけど、僕が言いたいのは「リベラルな理性を持たなくていい」とか「性は動物的で本能的で暴力的なものだから野蛮なのは仕方ない」というような、よくある男性的な正当化の話ではないんですよ。
 人間の性愛って、理性的なコミュニケーションのみならず、身体的・生命的な「欲望」の問題でもあり、意識の対等さと身体の非対称、能動と受動、愛と暴力……等などが重層的に絡み合っていく経験ではないか。そんな感じがするんですね。つまり、もっとどろどろしたり、危なっかしいものでもあると思う。坂爪さんの議論自体が、森岡正博さんの言葉でいえば「無痛化」されている感じがして。その辺はちょっと気になりましたね。ちょっと議論がきれいすぎる、というか。性愛がコミュニケーションのいち手段に切り詰められているというか。

まく うーん、なるほどなあ。どうなんでしょうかねえ。例えば先ほど、性愛を「タブー破り型」、「積み重ね型」と区別する見方がありましたが、単純に後者が大切なんだ、で済ませられない問題が、性に関してはあるんだってことでしょうかねえ。

『男子の貞操』を貫くと、不倫を肯定することになるのか?

杉田 難しいな……。このあたりのもやもやをどう考えればいいのか。その辺が『男子の貞操』のスマートな文体と、僕の『非モテの品格』(集英社新書)のうねうねした文体の違いでもあるのかもしれないですね。……そういえば、坂爪さんの『はじめての不倫学』(光文社新書)って、読みましたか?

まく いえ、読んでないです。

杉田 僕もまだ読んでいないんですが、『男子の貞操』の考え方からすると、不倫に対してはどういうアプローチになるのかな、って気になりました。否定的な結論にならざるをえない気がするけど……そうでもないのかな。どう思います? 予想として。

まく ええ、僕も、どう考えても、不倫には否定的な結論になると思いますよ。『男子の貞操』の中で、浮気や不倫はかえって性に対する不満足度を上げてしまうんだ、そういうデータがあるんだ、と紹介していたくだりが、確かありましたし。本の中の論理を追ってみても、どう考えてもそうなる気がします。

杉田 しかし他方で、ちょっと話がずれるかもしれませんが、リベラルな考え方の人たちが、有名人の浮気や不倫を擁護するという世の中の流れもあるような気がするんです。その辺りが少し気になっていて。つまり、その人の業績と人格(実生活)は区別されるべきであると。リベラルはそう考えますよね。しかしそういうリベラルな使い分け(業績と人格の区別)は、あまりにも男性たち――特に社会的に優位な位置にある男性たち――の自己免罪や正当化に都合よく機能しやすいようにも思えて……。

まく ふーむ……。

杉田 本当は、リベラルで対等な関係を徹底化するならば、結婚制度を解体し、ポリアモリー(複数愛)を肯定し、さらには男性のあまりにも偏った欲望(若さや美しさに偏重して、中高年女性や異形の身体に性欲を抱けないこと)を身体ごと変えていかねばならない、ということになると思うんです。それでも妊娠・出産・育児・介護の構造的非対称が残るから、それはかなりラディカルな形で社会化する。理論的にはそうなる気がするんですよね。つまり、リベラルな関係を突き詰めていくと、かなりラディカルな結論になるというか……。
 いや、ちょっと話がかなり飛躍してしまいました、すいません。そもそも、僕の意識はどうあろうと、現実の僕自身は極めて保守的であり、シスへテロの「男」にすぎないんですけどね。性愛のリベラルユートピアと僕自身の現状の果てしない距離を意識しつつ、「ここ」から考えることしかできない……。

まく うん、うん。

杉田 いや、もしかしたら『男子の貞操』のリベラルな考え方を貫くと、ある種の形で不倫が肯定されうるのかな、とも思っていて。結構その辺に重要な問いがある気はしたんですね。

まく そうだとしたら、非常に興味深いですけど……。その議論に同意できるかどうかは、別にして。

杉田 たとえばそもそも「男に不倫は許されるか」というのは偏った問いであって、パートナーが不倫した時どうするのか、どう向き合うのか、という話でもあるでしょうしね。

まく そうですねえ。奇しくも、杉田さんが途中から、いま「ここ」の「男」である自分を内省し、言葉をつなげていきましたが、僕が気になるのは、そういう当事者研究的なスタンスというか、まさしく草の根の、足元の現場と自分を問うような姿勢かどうかにあるような気がするのですね。『はじめての不倫学』もそういう視点を取り入れているなら、読みながらじっくり考えてみたいな、と思いますね。

杉田 そのうち、この対談で読んでみましょうか、『はじめての不倫学』も。

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