「わいせつ表現」規制と女性差別克服は関係ない? 憲法学者・志田陽子氏インタビュー

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なんのためのわいせつ規制?

――2016年のはじめに、「日本の漫画やアニメが女性に対する性暴力を助長させている」と国連の女子差別撤廃委員会から指摘がありました。日本にはわいせつ表現への規制があるにもかかわらず、なぜこのような批判を受けるのでしょうか。

志田:まず「性表現」と、性差別を固定・助長すると考えられる「性差別表現」は別物です。性表現は必ずしも性差別表現ではありませんし、性表現のかたちをとらない性差別表現もあります。「わいせつ表現」は性表現のうちの露骨すぎるもの、ということで、差別表現とは異なるカテゴリーです。その両方に該当するような表現は、「ポルノグラフィ」として深刻に問題視されるカテゴリーです。

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日本は性表現の規制はあるのですが、性差別表現の規制はありません。性差別に限らず、差別表現に関して規制する法律は作らず、メディア(放送・出版)の自主規制に委ねています。「放送コード」といわれるものは、放送業界の自主規制です。ヘイトスピーチ対策法は、そうしたこれまでの枠組みを踏み出して、国家が一般人の表現を規制する、というものなので大きな議論を呼びました。

日本では、青少年を有害表現から守るという観点からの規制は多く行われています。性表現かつ性差別的な表現のかなりのものが、これによって抑制されているということはできそうです。しかしこれはヨーロッパのように「差別や虐待にあたるポルノグラフィを規制しよう」という発想ではありません。日本にその発想がないために、日本の表現が海外に輸出されたとき、眉をひそめられてしまうことがあると言われています。

日本がこうした海外の問題意識からズレた性表現の取り締まりをやっている例として、芸術家のろくでなし子さんの事件があります。ろくでなし子さんの場合、逮捕の対象となった作品の一部は無罪となりましたが、自分の女性器をスキャンし、3Dプリンタで出力することが可能なデータをインターネット上にアップロードした件では「わいせつ電磁的記録媒体頒布罪」として有罪とされました。彼女は自分で納得して、アートとして活動しているので、どこにも被害者はいませんし、性行為そのものを扱っているわけでもありません。いわば人体模型のようなものです。この逮捕・有罪判決は、弱者を守るための表現規制とは関係ないでしょう。

――なんのための規制かよくわからないですね。

志田:わいせつなものに厳しい一方で、児童の保護に本当に真剣か、疑問があるのが日本の現状です。日本は小さな子どもも利用するコンビニの店舗に、性的な商品を置くことが許されていますよね。読みたい人の権利はもちろんありますが、見たくない人の権利や子どもに見せたくない親の権利も考える必要があります。

――コンビニにエロ本を置くかどうかには、様々な意見がありますが、表現の自由を守るためにはどうすればいいのでしょうか?

志田:表現規制を考える際の鉄則は「最低限」ですので、その出版を禁止するのはやりすぎです。「コンビニにエロ本を置くのは望ましくない」と考えるのであれば、レンタルビデオ屋にあるような「18歳以上入室禁止」の暖簾をかけるといったゾーニングをするなどの工夫によって、見たくない人の権利を守ることができるでしょう。「それはコンビニのイメージダウンを招くので勘弁してほしい」とコンビニ業者さんが思うなら「現物は置かない」という選択をするのがスッキリするでしょう。商品カードをレジに持ってきたらレジで商品を出すという方法もあるでしょう。表現そのものを規制するような対策は、最後の手段にするべきです。

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