
Photo by Luis Marina from Flickr
子供を保育園に入れるため、親が奔走する「保活」は年々激化。ついに今年は、認可保育園に入れなかった母親による叫び「保育園落ちた日本死ね」が、「2016ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにランクイン。全く喜ばしくないけど、解決に向けて燃料を投下したという点では喜ばしいという、複雑な出来事までが勃発してしまいました。私自身も今年2月に〈保育園落ちた、日本死ね〉状態になり、住んでいる自治体で発表されている〈認可保育園の入園下限合計指数(何点あれば入園できたのか)〉を夜な夜な眺めては、「くっそ、数年前なら今の持ち点でも入園できたのか!? 生むのが数年遅かった!」と地団太踏んだり、「各園の入所最低指数が年々上がってる! 来年度だって絶対今年の数字に合わせて、どの家も点数あげてくるよ!」と鼻息荒く語り、夫に「〈点数あげてくる〉って、フィギュアスケートかよ」とあきれられたりと大騒ぎでした。
これから子どもを保育園に入れたい親、現在認可外の保育園に子どもを通わせている親たちにとって〈認可保育園への入所〉は、保活におけるひとつのゴールですが、そこへたどり着くまでにやらねばならないことの労力のなんと煩わしいことか。各所でさんざん語られていることではありますが、何度でも言いましょう。女性の雇用拡大が国家プロジェクトになっているというのに、フルタイム労働でもなかなか保育園に入れないというこの都市部の状況は、やはり異常です。さらに、「日本死ね」の叫びによって待機児童問題がようやく注目され解決対策が進められているというニュースはチラホラ耳にするものの、なかなか変化を実感できているという人は少なそうです。そんなことから、今年3月にも当サイトにご登場いただいた京都大学大学院人間・環境学研究科の柴田悠准教授に、〈「日本死ね」記事以降、待機児童問題はどう変化したのか?〉というポイントを伺ってみましょう。
柴田悠(以下、柴田)「昨年度から6~19人定員の小規模保育施設が認可保育所扱いになったことで、保育所を比較的柔軟に開けるようになったので、保育の受け皿は確実に増え、いい方向に進んできているとは思います。ただ、今年度から保育士配置基準が緩和されたことで、保育の質が低下している恐れもありますので、量の拡大だけでなく、質の確保・向上が今後の課題です。さらに今年3月からは、厚労省で〈隠れ待機児童〉の調査と公表も始まりました。希望する保育所に入れないのに定義の問題で待機児童にカウントされないという〈隠れ待機児童(潜在的待機児童)〉も含めると、今年4月時点で9万人の認可保育所に入れない児童がいたという話ですね。国も徐々にニーズを把握しようとしていますので、今年2月中旬にブログで「日本死ね」と叫ばれた時よりは、対策が進んできている印象です。隠れ待機児童の公表が3月末でしたので、あのブログの騒ぎもひとつの要因になっていたのではないでしょうか」
待機児童問題では保育士の待遇も問題視され、東京都の小池百合子知事が発表した待機児童対策に向けた126億円規模の補正予算案では〈空き家を小規模保育所に改装したり保育士らの社宅として借り上げたりした場合に家賃を補助する〉などのプランが提案されています。しかし巷では「保育士はボロ屋で十分ってか」「シェアハウスとか聞こえのいい言葉を使っても、要は現代版のタコ部屋だろ」など失笑だらけだったよう。こういった話題にも表れている〈保育士の雇用問題〉についてはいかがでしょう?
柴田「建物(認可保育所)を建てても保育士を確保できず、開園できなかったというケースもあったようですね。対策の進展はありつつも、やはり現場はまだまだ人手不足。賃金も少し上がりましたが、保育士たちが求めているラインに達していないのでしょう。保育士の資格を保有していても保育士の仕事をしない人が多くいます。また、賃金だけでなく労働時間や労働環境の問題もあります。世の中の女性がより多く働くようになり、しかも長時間労働もいまだに多いなかで、保育士も延長保育で夜間まで働かざるをえない。交代するなどの工夫はしていると思いますが、人数が足りなければ当然長時間労働となります。保育士たちにとってはまだまだ過酷な労働環境であり、現場は逼迫している印象ですね」