社会

格差社会ゆえに過熱する「お受験」。翻弄される母親たちの困惑と、子どもの幸せに対する切なる思いとは/小説『ママたちの下剋上』深沢潮インタビュー

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 日本の共働き率がどんどん上がっていくなかで、ハイスペック人材を育む世界が、現実と乖離している状況がうかがえました。

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――子どもたちのお受験事情には、社会の歪みが表れているように見受けられます。ただし深沢さんの小説は、そういった世界を外側から批判しているわけではないですね。主人公の香織は、はじめこそ冷ややかな目でお受験ママを見ていますが、「聖アンジェラ学園初等部」の仕事に打ち込むなかで、受験する子どもたちに寄り添い、合否に一喜一憂する親の気持ちに共感していきます。

深沢「母親は基本的にはわが子を思って勉強させていますし、子どもは懸命にその思いに応えようとしています。勉強はできないよりはできたほうがいいし、チャンスがあるなら偏差値が高い学校、就職に苦労しない学校に行ってほしいと思うのは不自然なことではありませんよね。問題なのは、一生懸命になっているうちに子どもの受験結果が自分のスペックのひとつになってきてしまうこと。子どもが親の思いについてこられるうちはよいのですが、それが苦しくて圧し潰されてしまう子もいます。教育は子どものためという名目があるので、外からは歯止めが効きにくいのです」

自分のことも家族のことも見失う前に…

――受験にかぎらず、母親業は“子どものため”と“自分のため”の境目が曖昧なところがありますね。親子の思惑がうまく噛み合っているうちは他人が口を出すことでもないのですが、結果として自分も子どもも追い詰めてしまっては元も子もありません。

深沢「そういう状況になってしまったら、立ち止まる勇気を持ってほしいですね。母親は子どものために全速力で走りつづけてしまうので、子どもの状況を直視せず、自分が見たいように見てしまう傾向があります。お受験という狭い世界にいると、そこから外れたらもう終わりだと思いがちです。でも実際は受験は子育てのひとつのステップに過ぎません。今のわが子にとって何が本当にベストなのかを、立ち止まって、人の意見も聞きながら考える余裕を持って欲しいですね」

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 小説のなかに「社会を変えるより、目の前の状況に合わせて生きていくほうがより現実的で、子ども個人の幸せに通じるのではないか」という、登場人物の言葉がありました。

 子どもに学歴を付けさせるためにお受験に懸命になる親は、自身も学歴のために努力したり、あるいは学歴によって差別されたりといった経験があるように見えます。学歴社会を身をもって生きてきたからこそ、子どもによい学歴を得てほしいと願うのです。

『ママたちの下剋上』を読むと、母親が「目の前の現実」である学歴社会を強烈に意識し、お受験に邁進するのも仕方がないことのように思えます。家族関係や他者への思いやりなどの、生きる上で大切なものすら見失いそうになる母たちの姿は、学歴社会に一度は翻弄されたことのある人であれば、他人事とは思えないのではないでしょうか。

(蜂谷智子)

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