
Photo by Victor Björkund from Flickr
日本では「学校制服は貧富の差が可視化されない利点がある」と言われる。しかし、ここニューヨークではなんと「制服は貧困と低成績の証拠」となりつつある。
アメリカの学校の制服事情は日本と大きく異なるが、全米各地でもバラバラだ。そこで以下、主にニューヨーク市をサンプルに書いてみる。
ニューヨークでは1999年に公立小学校で制服が導入された。それまでほとんどの小学校が私服だったが、成績向上、躾の向上、見た目による貧富の差の解消、学校のプライド表明、暴力削減などを理由に制服を取り入れる学校が徐々に現れ、ついに1999年、全市での導入となった。当時のニューヨークは治安も悪く、貧困地区の学校では学級崩壊し切っていた。その惨状をなんとか改善するための、いわば藁にもすがる思いの制服導入だった。
全米各地で同じような流れが起り、制服の是非は大人が真剣に議論する問題となった。特にカリフォルニア州ロングビーチ市が幼稚園~中学に制服を導入したところ、ケンカ、銃やナイフなど武器の携帯、麻薬の所持が大幅に減ったというデータが注目された。一方で制服は成績向上に繋がらないという反対意見もある。何より「表現の自由」を憲法で保障している国だ。アメリカ人にとって服装も重要な個性の表現であり、子どもの時期に制服によって「均一性」を染み込ませることへの抵抗感は今も大きく残っている。
ポロシャツにも所得格差
時は流れて2017年。ニューヨークでは小学校だけでなく、一部の中学・高校にも制服が導入された。デザインは男子シャツ/女子ブラウスから男女共にポロシャツに移行しつつある。理由は、そもそもカジュアル指向の国であることに加え、生徒にとっては動きやすく、保護者にとってはアイロン不要なこと。毎日着る制服のアイロン掛けは、 シングルマザー家庭や日々の仕事で忙しい親にとっては大きな負担になっているのだ。ボトムは、男子はチノパン、女子はスカートとチノパンのどちらでもOKとされている。
ブルーのポロシャツ+カーキのボトムなど、それぞれの学校で定められた色であれば、どのブランドのものをどこで購入してもいい。したがって校内に同じ色であっても微妙に色味や濃淡の異なるシャツやズボンが混在するが、さすがアメリカ、そこは誰も気にしない。
多数あるブランドの中から3社の制服の値段を調べてみた。
仮に長袖と半袖のポロシャツを各3枚、スカートとチノパンを1枚ずつ買うと、上記の3ブランドで$86.84(10,160円)、$166.60(19,492円)、$306.00(35,802円)とかなりの差が出る。一見しただけではさほど違いが分からず、子ども自身は全く気にしない部分だが、生地や縫製などクオリティの差は歴然だ。
ブルックスブラザーズを買うような家庭の子どもは私学に通っていることが多いが、私学は制服があるところ、無いところがある。いずれにせよ洗濯は外注だったり、メイドがいたり、メイドはいなくても、当然自宅に洗濯機と乾燥機があるし、つまり洗濯に気を遣わなくてよい。他方、低所得層が住む築50〜100年のアパートには洗濯機を置くスペースが設計されておらず、コインランドリー使用になる。よって毎日の洗濯など出来るはずもなく、貧しいにもかかわらず制服のシャツを何枚も買わなくてならない。
さらに今、ニューヨークには6万人のホームレスがいて、うち2.4万人が未成年と言われている。その多くが家族ホームレスであり、専用シェルターに暮している。自宅アパート以上に洗濯環境が厳しいであろうシェルター暮しゆえ、子どもは制服を着て登校できないことすらある。
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