一年間「イエス!」と言い続けてみた アメリカTV界に女性ドラマ旋風を起こした仕掛人、ションダ・ライムズの試み

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キャリア女性が主人公の大ヒット・ドラマ

私たち視聴者はションダに幸せであってもらわなければならない。なぜならションダの作るドラマは私たちの物語だからだ。

前述のションダによる3番組は主人公がどれも女性だ。ドクター、政治フィクサー、犯罪学の教授と、アメリカのメインストリームでバリバリ活躍するキャラクターたちである。

自身がアフリカン・アメリカンであるションダは人種的マイノリティも多用する。『スキャンダル』の主役はケリー・ワシントン、『殺人を無罪にする方法』の主役はヴァイオラ・デイヴィスと、共にトップレベルの黒人女優だ。

『グレイズ・アナトミー』のメイン・キャラクターは白人のメレディス・グレイ医師(エレン・ポンピオ)だが、番組のファンであればメレディスの親友がアジア系のクリスティーナ・イェン医師(サンドラ・オー)だったことをもちろん覚えているだろう。第1シーズンでは若く生意気なインターンだったクリスティーナはシーズンの経過と共にどんどん成長し、第10シーズンの最終話でチューリッヒの有名病院の心臓外科部長に抜擢され、番組を去っていった。アメリカのTVドラマでアジア系の女性がこれほどまでに優秀かつ社会的地位の高い役を演じたことがあるだろうか。ションダは本の中で、クリスティーナというキャラクターが自分にとってどれほど重要だったかをページを割いて語っている。

また、同番組は病院を舞台としているだけに生と死にかかわるエピソードが多く出て来る。若者と老人、どちらの命を優先させるべきか。生まれてすぐ養子に出した子どもが重病に陥った時、実母は骨髄を提供するべきなのか。子どもが欲しいレズビアンのカップルは片方が妊娠すべきか、はたまた代理母を使うべきなのか。主役のメレディスも自分とは人種の異なる異父妹を受け入れなければならない……これらは現代社会において見過ごすことが出来ない問題であり、かつションダ自身の娘がションダから生まれていないことに由来するのかもしれない。

「女性の優しさ」という、たわ言

スキャンダル』の魅力はなんと言っても主役オリヴィア・ポープの頭脳明晰さと実行力だ。かつてホワイトハウス補佐官だったオリヴィアは政治家や有力者のスキャンダルを秘密裏に処理するフィクサー。どんな難局を迎えても解決策を編み出す。部下に実行困難な指示を出し、時には冷酷な方法でグイグイと押して行く。

殺人を無罪にする方法』は、とことんハードボイルドな犯罪学の教授であり弁護士のアナリーズが主人公だ。凄惨な殺人事件の犯人を弁護し、優秀な大学生のインターンに現場の厳しさを叩き込みながら、何がなんでも無罪を勝ち取る。

仕事の場において、オリヴィアにもアナリーズにも「女性の優しさ」などというたわ言は通用しない。しかし、プライペートでは思いっきりの女性でもある。二人は共に不倫関係を抱え、苦悩している。

ションダは女性とキャリアの問題もしっかりと潜ませている。『スキャンダル』では自分のキャリアを諦めざるを得なかったファーストレディが笑顔の裏に深い怒りと恨みを抱えている。また、ションダの作品にはすべてLGBTQキャラクターが登場し、政府高官の壮年男性が「ハズバンド」と暮していたりもする。

マイノリティを「普通化」させるドラマ

こうして女性、人種的マイノリティ、性的マイノリティを多用し、番組ごとに全く異なる世界を楽しませてくれるションダだが、驚くことに本の中では「多様性(ディヴァーシティ)という言葉は嫌い」と言ってのけている。マイノリティたちは特殊な存在ではなく、どこにでもいる。だからどのドラマにもごく当たり前の存在として登場させ、「普通化(ノーマライジング)」させたいのだと言う。言われてみれば、まさに目からウロコである。世の中の半分を占める女性に人種的マイノリティ、性的マイノリティを加えるとマイノリティ(少数派)こそ、全人口の過半数を超えるマジョリティ(多数派)となるのだから。

こうしたドラマ作りの信条からドタバタな日常生活まで、ションダは明るく、ユーモアたっぷりの文章で綴っている。さすが脚本家である。一度読み出すと止まらない。一晩で夢中で読み切ってしまうこと請け合いの、女性必読の一冊である。
(堂本かおる)

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