全くブレない自己信頼感こそが、渋谷ギャルのカリスマたるゆえん/藤井みほな『GALS!』

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 麗は密かに蘭に思いを寄せながらも、自分に好意を抱く綾と付き合いはじめるし、裕也は蘭に告白できないまま、こちらも自分に好意を抱く池袋のコギャル・本多マミと(半ば強引に)付き合いように。裕也はいつの間にか「蘭が好き」ではなく「蘭が好きだった」に変化していったが、麗は「蘭が好き」でありながらも告白する気はなさそうだし、綾をきっぱり拒否するわけじゃないし、女子読者にはその真意が掴みかねるような人物だった。しかも要所要所で、蘭と麗の信頼関係が強調される場面もあり(タツキチ曰く、目に見えない深ーいトコでつながってる)、後半タツキチはかなり嫉妬していた。

 第28話ではいたずらメール事件の影響で「麗が蘭を好き」という話が蘭の耳にも入ったが、第29話ではこんなやりとりをする。

蘭「おめーがあたしにホレたとかゆー話 『つまんねージョークだ』って笑いとばしといていーよな?」
麗「…かまわねーけど? どう取るかなんて おまえの自由だし」

 結局、蘭と麗が結ばれることは最後までなかったし、蘭自身が麗に対してどのような感情を抱いているのかも、作中では明確にされないまま。恋愛に鈍感で無頓着な蘭(でも他人の恋愛には助言している)は、終盤こそ多少繊細な面を見せる描写があったものの、作中“恋する女の子”らしいふるまいをするシーンはなかった。恋愛に悩み右往左往するのは親友の美由、綾で、蘭は終始、振り回されない。蘭は「振り回す側」で、誰に何をされてもブレないのだ。それは恋愛以外のことでも同様で、家庭事情や進路のことで動揺したり、自分の心に抱え込んだりする描写は、美由、綾の見せ場となっていた。

 話を恋愛に戻すが、「ヒロインとイケメン男子が両想いになる」のが定番の少女漫画において、『GALS!』のような設定と展開は、よくいえば斬新、悪くいえばすっきりしない、疑問が残るといったところ。ただ、蘭&タツキチ、綾&麗、マミ&裕也、美由&大和、といった4組のカップルの成り立ちや変化を長いスパンで描いており、しかも「超幸せ」「超どん底」の描写よりも、「問題残しつつ、まあまあ幸せ」「嫌な予感」といった緩い浮き沈みの繰り返しで、だから読んでいる側としてはなかなかすっきりしないわけだが、それはリアルな描き方だったのだと、今にして思う。ちなみに作中を通して、蘭・美由・綾は3人とも(おそらく)処女だし、キスシーンもキスしそうなところに邪魔が入ったりと性的描写はかなり初々しいものになっている。「エッチは~」云々の台詞こそあるが、『りぼん』ゆえの自主規制なのだろうか。

なぜ寿蘭はブレないのか

 蘭は強い。腕っぷしもメンタルも強い。自分がかわいいこともオシャレでイケててモテるのも当たり前だと思っている。虚勢でも自己顕示欲の表出でもマウンティングでもなく、蘭にとって、自分が周囲に愛されることは疑う余地のないことだ。よい意味でプライドが高く、コギャルとしてだけでなく、人間としての誇りを持っている。誰のことよりも自分を信じきっていて、自己肯定感・自己信頼感が突出している少女だ。

 本作に登場するほとんどの10代女子は、ありとあらゆる“人目”を気にして「こんな風に見られたい」願望を抱いている。それ以上に強いのが“「こんな風に見られたくない」願望で、ダサいにしろチャラいにしろ自分の望まない姿で見られていると知ったら、猛烈にプライドが傷ついたり、凹んだりする。他人からの評価を気にするあまり、過ちを犯してしまう登場人物も多い。けれど蘭はたとえ「チャラい」「援交やってそう」などの誤解を受けても、傷ついたりしない。キレるけどキレて終わり。自分のことは誰よりも自分がよく知っているから、気にしない。

 蘭の強さの源は、強烈なまでの自己肯定感。自分を大事にしているから、他者の視線など気にしないし、他人と自分を比べない。誰かを恨んだり、傷つけたりいじめたりしない。いじめや仲間はずれを楽しみたがったり、スクールカーストに捉われたり、空気を読んだりいじったりするのはみんな、自分に自信がないからなのだ。

 そういえば、「自分より強い、太刀打ちできない相手」だと認識している人物が自分より進んだオシャレをしていたり目立つ行動をしたからって文句は言わないのに、「自分より弱いはず、劣っているはずの相手」がオシャレをしたり目だったりすると、モヤモヤして「何あれ許せない」の心理に陥る女子、学生時代、ものすごく多かった……。自分ももっとオシャレしよう、ではなく、相手を攻撃する方向にエネルギーを転じてしまう。自分より弱いと思っていたはずの子に劣等感を抱いている、という自分の状況が許せないのだろう。

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