生殖器の解剖図ばかり見せても意味がない。感染症医が語る「日本の性教育に決定的に足りないもの」

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「車のエンジンを見せて『ここがオイルポンプです』『ベンチレーターです』と教えているのと同じで、それで『じゃあ運転してください』といったところで、子どもたちは何もできないですよね。生殖器の場所や名称を記憶しただけでは、宙に浮いた情報でしかなく、生き延びるためのスキルにはならないんです」

 そのスキルを与えられずに育つと、どんなリスクが生じえるのだろう。

「誤った、そして稚拙な情報に踊らされて、間違った性行動に出るケースが考えられますね。スキルを与えるどころか、日本の学校は子どもたちの恋愛やセックスへの抑圧装置として機能しています。『受験が終わるまで恋愛、セックスのことは一切考えるな』『我慢しろ』『大学に行ったらいいことがあるから』というわけです。それで大学に入って抑圧から解放された途端、女性に対して性暴力をふるう……昨年はその問題があちこちで表面化しました」

 学校教育では「恋愛」についても語られることがない。国語や英語で扱う文学作品や、美術・音楽などで採りあげる芸術作品にも恋愛にまつわるものはたくさんあるはずなのに、その要素は極力、排除されている。

「学校でも、『恋愛とは何か』をもっと真剣に考えたほうがいいですよね。恋愛について触れないままセックスについてだけ教えるのは、ウソになります。もちろん感情を伴わないセックスも存在しますが、多くの場合は恋愛感情が発展してセックスに至るからです」

不幸になるセックスは、性教育の失敗

「また、避妊や感染症予防についての情報をいくら教えても、恋愛中にそれを実践できるかどうかは別の話ということは、みなさんもご存知ですよね。それらの知識を持っている女子中学生が、彼氏に嫌われたくない一心で健康上のリスクが高いセックスをする……性教育の現場では、とてもよく聞く話です。結果的に健康を損う、または不幸になってしまうようでは、性教育としては失敗です。恋愛に夢中な状態でも、自分の身を守る行動を終始一貫できるところまで落とし込まなければ意味がないんです」

 そこで岩田医師は同書の最終章で「絶対恋愛」の可能性を提案する。「ひとりの人だけを長く愛し続ける。生涯愛し続けるような気持ちで愛する。セックスの対象もそのひとりだけ」「“わたし”よりも常に“あなた”を優先させる」という内容で、それによって“よりよいセックス”の実現を目指す。

「中高生の半分以上はこれを読んで、『なにいってんのこいつ、バカじゃないの』と思うんじゃないですかね(笑)。でも、それこそが狙いです。なぜ自分は絶対恋愛を『バカじゃないの』と思ったのかを考え、葛藤してほしいんです。いまの日本の教育における最大の問題点は、この“考える”“葛藤する”をスルーして、答えだけが与えられるところにあります」

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